可愛い幼馴染は俺のアレを握らないと安心して眠れないそうです……。~俺の〇〇〇は片想いの彼女にとって安眠グッズがわりだと!?~

kazuchi

可愛い幼馴染は俺のアレを握らないと安心して眠れないそうです……。

 「……そろそろ寝るか」


 秋の気配が漂い始めた九月の夜、俺、赤星拓也あかぼしたくやはノートパソコンの電源をOFFにした。


「んっ……!!」


 パソコンデスクの椅子に座りながら頭の後ろで腕を組み、大きく伸びをする。

 スイング機構のある椅子の背もたれが大きく後方に倒れこんだ。


 がさっ!!


 視界の隅で何かが動くのを捉えた、俺の部屋は机の後方にロフトベッドがあり、

 その下がオープンクローゼットになっていた。

 以前は一つ年下の妹の未祐みゆうと子供は相部屋で、ロフト下のスペースにもベッドが置いてあった。

 世間一般の常識的に考えたら兄妹で同じ部屋なのはせいぜい小学生までだろう。


 妹の未祐が一人は怖い夢を見るからお兄ちゃんと寝ると言って聞かないので、

 俺が折れて中学までは一緒の部屋だった……。


 まさか未祐がベッドに隠れてたりして、いやそんなはずはないな。

 さっき部屋に戻るのをこの目で見ていた、それに俺は高校二年生で、

 あいつは一つ下の十六歳だ、もう怖がる年齢じゃないだろう。


 未祐も女子中学生の頃に比べると随分大人っぽくなってきた。

 家では日当たりの関係で、洗濯物を俺の部屋のベランダに干すんだ。

 妹の成長は下着の変化で否応なしに分かってしまう……。

 天気のいい日は色とりどりのブラやパンツが、ベランダで風に揺れている。

 妹の物とは言え男子高校生としては目のやり場に困る。


 未祐でなければ、ロフトのベッドで動いた物は何だ!?

 まさか泥棒じゃないよな、俺の部屋には金目の物なんか無いぞ。

 まあ俺も健全な男子高校生だ。別のお宝コレクションならあるけど。

 そうそう、えっちなお宝コレクションの隠し場所には苦労しているんだ。

 何で母親や妹は勝手に人の部屋に入るんだろう、人類永遠の謎だ……。


 おそるおそるロフトの梯子を上がる。

 物音を立てないように、ゆっくりとベッドスペースを覗き込む。


 シュッ!!


「うわっ!?」


 目の前を黒い物体が横切り、驚いて梯子から落っこちそうになる。


「にゃお、にゃお!!」


「何だムギか、驚かせんなよ……」


 ムギとは飼い猫の名前だ、キジ猫のオスで家族から溺愛されている。

 ちゅーるとか猫のおやつを妹の未祐が与え過ぎで最近デブ猫気味だ。

 ごろごろと足元にまとわりつくムギ、しばらく可愛がり部屋の外に出す。


「ふうっ、ムギのせいで寝るのが遅くなったぜ」


 再度ロフトに上がる、布団に潜り込み枕元のリモコンで消灯した。

 夏用から替えた高級な羽根布団が肌に心地よい、いい眠りにつけそうだ。

 本当に布団の中が快適だ、まるで誰かの人肌で暖めたみたいだ。

 母親が高い布団を奮発してくれたんだろう、明日起きたらお礼を言わなきゃな。


 そんなことを考えている内に眠気が襲ってきた……。



 *******



 むぎゅう♡


 ……ん、んんっ、このみぞおちの感覚は何だ!?

 俺は夢の中なのか……。

 夢でうなされていると思い、寝返りを打とうとする。

 身体が動かない、俺の中心にあるモノが何者かにがっちりと固定されている。

 暖かい感触にソレ全体を包まれる、すっごく柔らかい、これは誰かの手のひらか!?


「ショコラ、私を一人にしないで……」


「おっ、おわあああっ、な、何、 だ、誰だっ!!」


 俺自身が誰かの手でニギニギされているっ。


 慌てて布団をはね除ける、そして電気を……。


「お願い、電気は点けないで……」


 鈴を転がすような女の子のか細い声がした。


 ……こ、この声は!?


「もしかして真奈美?」


 俺の幼馴染み、二宮真奈美にのみやまなみだ。

 家は隣同士で、子供の頃から家族ぐるみの付き合いだ。

 中学までは俺の部屋によく遊びに来ていたんだが、

 真奈美が私立の女子校に通い始めてからは、少し距離が出来ていたんだ。

 両親の愛情を注がれた箱入り娘で、きめ細かいお人形のような白い肌、

 艶やかな長い黒髪、可愛い子が多い名門女子校の中でも飛び抜けた美少女だ。


 暗闇の中、しばらく沈黙が流れる。

 

 ぎゅっ♡


「おふうっ!?」


 へ、返事の替わりにアレを握って答えないで!!


「おっ、お前、何でことしてるか分かってんのか!? すぐ、離せっ、今握ってんのは、お、俺の……」


 ぎゅっ、むぎゅう♡


「くわっ、こほおっっ……!?」


 よりいっそう強く握りしめられた……。

 やばい、アレが変形するのも危険だが、ぶらりノーガードだった部位も握られ、

 痛みも感じてきた、キモチイイッからのキモチイクナイッ状態だ。

 天国と地獄の間を行き来して目が白黒となる。


 金太負きんたまけるな!! 思わず自分自身に声援を送らないと悶絶してしまいそうだ。


 ガチャッ!!


「拓也おにい、うるさくて未祐眠れないんだけど!!」


 うおっ、激ヤバッ!? 妹が部屋に入ってきた、ど、どうしよう!!

 この状況を見られたら幼馴染みの俺と真奈美でも大問題になる。

 ましてや完全にアレを握られちゃってるし……。


 ガバッ!!


「きゃうっ!?」


 思い切り真奈美に布団を被せ、俺は寝ぼけた振りをする……。


「み、未祐か、お兄ちゃん悪い夢でうなされていたんだ、ごめんな」


 真奈美のか細い悲鳴に合わせて、バレないように高い声色を出すのを忘れない。


「拓也お兄、大丈夫、変な声だけど、汗をかいて風邪ひいたりしたら未祐は心配だよぉ」


 何とか誤魔化せたみたいだが、未祐は昔から俺のことになるとかなりの心配性なんだ。


「あ、ああ未祐、心配しないでくれ、後で風邪薬飲んどくから……」


「風邪薬、洗面所に用意しておくから忘れずに飲んでね、じゃあ、おやすみ……」


 未祐が、階下に降りる足音を聞きながら安堵の吐息を漏らす。

 良かった何とか誤魔化せたぞ、って良くない、真奈美を忘れてた!!


「ぷはあっ!?」


 俺の身体ごと布団を被されていた真奈美は苦しそうに息継ぎをした。

 頬は桜色に上気し、もともと大きめの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 真奈美は泣いていたのか!? 何故あんな行動をしたのか気になるが泣かれるほうがもっと心配だ。

 真奈美は昔からおとなしくてあんな突飛な行動をする女の子じゃない、それは幼馴染みとしてずっと隣で見てきた俺だから分かるんだ。何か深い理由わけがあるに違いない。


「真奈美、一体どうしちまったんだ、久しぶりに会えたと思ったら、あ、あんなことするなんて……」


 俺に問い詰められて、茫然としていた真奈美の瞳にやっと光彩が戻った。


「はっ、私、何てことをしちゃったんだろ…… そ、それも拓也くんにこんな破廉恥なこと、真奈美、もうお嫁に行けないっ!!」


 常夜灯の薄明かりに照らされた真奈美の頬に、大粒の涙が溢れ出す。

 ぽたぽたと布団の上に涙の滴が跡を作った。


「何か理由があるんだろ、良かったら聞かせてくれないか……」


 真奈美が泣いたのを見たのは小学生以来だ、その涙に俺は激しく動揺した。


 羞恥に赤く染まった頬のまま、彼女はゆっくりと語り始めた。


「ショコラが天国に召されたの……」


 ショコラ、真奈美の愛犬でトイプードルの名前だ、確か高齢犬だったはずだ、

 そう言えば布団の中で名前を呟いていたな。


「ショコラちゃんって真奈美が可愛がっていたワンコだよな」


「そう、ショコラは家族同然だったの、拓也くんも覚えているでしょ、何度も一緒に散歩に付き合ってくれたし……」


 そうだ、中学生まで一緒の学校だったので登下校も犬の散歩も、

 休日だって俺と真奈美はいつも一緒だったんだ、学校の友達にも

 おまえら付き合っちゃえば!! ってしょっちゅう冷やかされるほどだった。

 だけど俺からは怖くて告白することが出来なかった。それは幼馴染みの関係性を

 壊したくなかったから。俺は真奈美の隣にいるだけでいい、いつも彼女の一番の理解者でいたかった。だからキスはもちろん手も握ったことはない。


 それがキスどころか、いきなり握られてしまった。手じゃないモノを……。


「天国に行ったショコラと、真奈美が布団に隠れていたことに関係があるの?」


「……そ、それは」


 真奈美への思慕を思い返していた俺はついド直球で聞いてしまった。

 しばらく考えあぐねた後、彼女は意を決して確信について話し始めた。


「ショコラの尻尾なの、私とショコラは家にいる時はいつも一緒、寝る時も一緒、私のベッドに潜り込んでいつも寝ていたの」


「ショコラちゃんの尻尾、それが俺の……と何の関係があるんだ」


「ショコラの尻尾を握りしめないと私、安眠出来なかったの……。子供の頃から習慣でそうなったみたい」


 前に聞いたことがある、犬の尻尾ではないがライナスの毛布と言って、

 子供がお気に入りのモノを握りしめないと安心できない症例だ。

 ぬいぐるみや抱き枕もそうだ、肌身離さず持っていないと不安になる。


 ショコラちゃんの尻尾を握っていると、安心するのは分かったけど、

 俺のアレとの関係がまだ分からないぞ。


「ショコラが亡くなってから私は情緒不安定になり学校にも通えないほどで、両親が心配してカウンセリングや薬も飲んでみたの、だけど効果が無かった。そして夢遊病者のようにショコラの尻尾を求めて自分でも知らないうちにさまよってしまったみたい……」


「それで俺のベッドにも!?」


 真奈美がこくりとうなずいた。


「ごめんなさい、部屋の鍵が空いていたので勝手に入ってしまって、だけど懐かしかった、この部屋には子供の頃に何度も遊びに来たから……」


 良くアニメや漫画の幼馴染みが窓から侵入って場面があるけどあれは現実的じゃない、夢を壊すようだが建築法で隣の家とは無理な距離だからだ。

 俺の家には外階段があり玄関を通らず部屋に入れる、増築した利点だ。


「部屋に入った瞬間、子供の頃にタイムスリップしたみたいだった、懐かしい匂いだ!! そう思ったら拓也君の匂いにつられちゃったの……」


 ……か、可愛い、俺は感動に打ち震えていた。


 何より嬉しかったのは、俺との思い出を覚えていたことだ。


「……真奈美」


 常夜灯だけの部屋にカーテンの隙間から月明かりが差し込み、

 彼女の笑顔を美しく浮かび上がらせた。


 本当に辛かったんだろう、良く俺の部屋にもショコラを連れて遊びに来たんだ。

 飼い猫のムギを、ショコラが追っかけ回して、しつこ過ぎでムギを怒らせて、

 シャーシャー威嚇されていたな。

 今でも昨日のことみたいに思い出せる、子供の頃は真奈美と何でも話せたんだ。


 その瞬間、俺は気付いてしまった……。 真奈美への想いに。

 壁を作っていたのは俺自身じゃないのか!?

 どんどんキレイになる彼女が自分の手の届かない存在になっていまう。

 勝手に距離を作ったのは彼女じゃなく俺のほうだ。


「真奈美、俺じゃ駄目かな?」


「えっ、拓也くん、今、何て……」


「俺がショコラの替わりになれないかな、真奈美の苦しむ顔は見たくないんだ……」


「……拓也くん、嬉しい! 真奈美も高校に入ってから寂しかったんだ。お家の前や外で会っても昔みたいに話してくれなくて、拓也くん、きっと新しい高校で彼女とか出来たんじゃないかって……」


「彼女なんていないよ、だって俺は昔から真奈美のことが……」


「た、くや、くん?」


 俺の言葉に、真奈美の顔が一瞬にして赤く染まる。


 あっ、駄目だ、このままでは告白してしまう。ショコラの件で苦しむ彼女に、

 自分の気持ちを伝えるのはとても卑怯な気がした。もっと彼女に相応ふさわしい男になりたい。


 俺と真奈美が一緒に過ごしていない空白の時間を埋めてからだ……。


「よろしくお願いします……」


 えっ、よろしくお願いします!? 俺、完全に告白してないのに。


「拓也くんがショコラの尻尾の替わりにになってくれるんだね!!」


 ええっ、俺がショコラの尻尾替わりと言うことは……。


「真奈美、ショコラの尻尾と俺のアレを握った理由わけを聞いてなかったんだけど……」


 おそるおそる彼女に尋ねる、真奈美は顔をほころばせながら最高の笑顔で言った……。


「うん!! それはね、ショコラの尻尾とちょうど同じサイズだったから……」


 在りし日の遊びに来たショコラの姿が俺の脳裏に浮かんだ……。

 ちょこちょこと動き回る小型犬のショコラ、そのお尻でピコピコする尻尾。


 ガーン!! 俺の……はそんなサイズ感なの、そりゃ変形前のサイズだけど、

 男の子としては結構傷付く、ナイーブな男子高校生のハートはズタボロだ。


「私、拓也くんの布団に隠れて偶然だけど無意識に握ったらぴったりフィットで、

 ああ、ショコラが私の手の中に帰ってきてくれたって凄く安心できたんだ……」


 幸せそうな表情の真奈美、俺にとってはその笑顔が何よりのご褒美だ。

 この笑顔を守れるなら尻尾でも何でも引き受けてやるぞ!!


「じゃあ、真奈美、ふつつか者のですが、よろしくお願いします」


 頭を下げながら俺自身のイメージでも頭を下げた。


「こちらこそ拓也くんのしっぽ、さん? 末永くよろしくお願いします」


 真奈美もつられて頭を下げた、真面目過ぎる仕草に思わず吹き出してしまう。


「ぷっ、あはは!! 真奈美お手柔らかにお願いするぜ」


「はいっ!!」


 むぎゅむぎゅ♡


 そして俺たちは一つの布団に入った。


 ショコラのしっぽ!! ショコラのしっぽ!! 俺は何度もサイズを思い浮かべた。

 真奈美にしっかりと握られた、の形を変形させないように……


 俺はそっと常夜灯の明かりを消した……。



 次回に続く。



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