第33話 第一害倒者

ゲル「流石に動きが早いな。進言してからあっと言う間だ。実行部隊も要人警護に匹

   敵するような人材が揃った。で、どうするんだ海斗」

海斗「要人拉致に動く。まずは…」


 ゲルは嬉しそうに海斗に付き纏った。海斗の周りに実行部隊が無駄のない行動で効率的に任務を全うしていた。そこには言葉は一切ない。阿吽の呼吸。阿吽とは、梵字の12字母の初めにある阿と終わりにある吽。密教では、この2字を万物の初めと終わりを象徴するものとし、菩提心と涅槃 (ねはん) などに当たる。仁王におうや狛犬 などにみられる、口を開いた阿形あぎょうと、口を閉じた吽形うんぎょうの一対の姿。吐く息と吸う息。相対・対比など相対する二つのものにいう語として用いられる。


 京都で生活保護費を受給している者が筋違いのデモを行っていた。


ゲル「こいつらよくデモなんてできるよなぁ」

海斗「ああ。勘違いするのもいい加減にしろって言いたいが今回はスルーだ。それよ

   りこれを先導した思い上がりの輩を始末する」


 海斗隊は、表情が伺えないピエロの恰好に着替え、ターゲットを待っていた。ターゲットの行動は前乗り班によって調べ上げられていた。その行動を推察し、監視カメラの死角を導き出していた。


対象A「お疲れ」


 対象Aは内縁の女性宅に向かう所だった。Aの性痴癖は赤ちゃんプレーだった。玄関に入った途端ママ~ちゅかれたです~と甘えるのが日常だった。甘い住まいまで後一分というところでAは闇に浮かぶピエロを目にした。ピエロが持つ風船にはAが党首を務める政党を応援するメッセージが書かれていた。それで少し安心したのか「支援者かい。でも、こんな遅くにこんな所に現れるのは良くないな」とピエロの前を通り過ぎようとした瞬間、プッシュとの音の後その場に倒れこんだ。狙撃班の放った麻酔弾のせいだった。倒れこんだAに黒い布を被せ担がれ待機していた車のトランクに投げ入れられた。

 Aが目が覚めた時はトランクの中、必死でトランクを蹴るがクッション材によって鈍い音がするだけだった。両手の両足の親指が結束バンドで固定されていた。何が起きているのかこれからどうなるのかの恐怖の中、どれだけ走ったのか分からないがトランクが開けられたのは潮の香りがする港だった。目にしたのは眠る前に見たピエロと屈強な全身黒装束の忍者のような三人の男たちだった。


害者「お前たちこんなことをして只で済むと思うなよ。俺を誰だと思っているん

   だ。国民に選ばれた国会議員だぞ。さっさと解き放せ、早くしろ」


 ピエロに扮した海斗はいきり立つ対象者を無視するように言葉を発した。


海斗「平成腐敗組の代表の山元与多郎だな」

害者「知っていての蛮行か」

海斗「本人確認は終えた。後は手筈通りに」


 黒装束の男は暴れる対象者を羽交い絞めにし、停泊させていたクルーザーの船底の部屋に軟禁した。山元の狂気に満ちた悲鳴は波の音に打ち消されていた。一時間以上は航行したのか定かではないがかなり遠くまで航行したのには違いなかった。山元は船酔いと疲労から朦朧として眠ってしまった。




 















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