第3話ギルドの仕事と新しい出会い

優華がギルド長になった次の日、優華はギルドで具体的にすることを考えていた。

優華が考えたギルドの具体的な仕事は、朝の七時から九時までは食堂として活動し、昼までは村の依頼を受ける。昼の十一時から十三時までは朝と同様レストラン。後は適当に過ごして、夜の十八時から二十時までも食堂として活動することにした。

もちろん土日の休日は忘れない。

冒険者ランクは魔物を倒したときや町や村に貢献したときなどに上がるらしい。

なので優華は村に貢献しランクを上げることにした。

全ては情報収集のためだ。

あまり目立ちたくないが、いた仕方ないというものだ。


「さて、ランクを上げるためにも、いろいろと依頼を受けなくてはな。だが、休息は何よりも大事だ。なので今日は村の周りを探検するだけにしよう」


けっして今から働くのはめんどうだとは思っていないと言いながら優華は外に出た。

村はそこそこ大きく、人が多い。だがこれは優華の視点であって、普通の人から見れば断然少ないだろう。

でも優華からしてみれば結構大きい村で、探検は絶対にしないといけない。

村を歩くこと数分、優華は村の畑や、家畜の状態が良くないことを知った。

また森が近いので魔物が襲撃してきやすい。

そして盗賊も出やすい。


(最悪だ・・・。仕事が私を殺そうとしてくる未来が見える)


このままでは優華は仕事に殺されるであろう。なので少しでも仕事を減らすために、盗賊を潰すことにした。



村より少し離れた洞窟の中、盗賊達はいつものように盗んだ物をニタニタと見て、奪った女をいたぶり楽しんでいた。

売るために奪った女は商品価値を下げないように隔離までしていた。

いつもどおりクズ以下のことをしていた盗賊達は気づく。

こちらに近づいているものがいる。

偵察に出ていた仲間の情報によれば、仮面を付け、黒のローブを深く被った者がこちらに向かってきているという。

盗賊たちは思う。

馬鹿なやつだと。数百人はいる盗賊に単騎で挑んでくるやつなど正直言って正気の沙汰じゃない。

入ってきたら即座に殺してしまおう。

その時の盗賊たちは、そう考える程の余裕があった。

だか後から思う。あの時あの瞬間即座に逃げておけばよかったと。



優華が盗賊達を潰すべく森を歩いていると、盗賊達のアジトと思われる場所が見えてきた。

さっそく中に入ると、そこには二人の盗賊たちがいた。


「おいおい、わざわざ殺されに来るような奴がいたとは。世の中も末だな」


訳のわからないことを言う盗賊をとりあえず殺しておく。優華の放った攻撃により、盗賊は永遠に口を閉ざすことになった。

優華が使っている武器は簡単に言ってしまえば銃だ。

より詳しく言うと、これは引き金を引くと魔力を強制的に消費して魔弾を撃つことができる代物だ。

そして、優華のスペックを人並み程度に落としてくれる呪物ある。

あまりに強すぎてもいけないという優華の配慮だ。今の世界の状態を調べるためにもあまり面倒事は起こしたくない。


「おいお前! な、何しやがった!?」


まだ状況を理解できていない仲間も殺す。

殺さず捕えるという手もあるが、こういう輩は後悔を全くしないので生かす価値なし。

もう片方を殺して下に続く穴を下りていく。道中で会った盗賊全員を殺しながら。

数分間下り続け、最奥に到達した優華を歓迎したのは複数の人の形をした汚物達だった。


「おいおい、まさか一人でここまで来るとはな。お前、相当の手練だな。だが、俺達を討伐できるなんて考えねえことだな」


優華の襲来に盗賊の頭だと思われる男は悠長に話していた。彼も動じていないわけでもない。だが、自分は勝てるという断固の意思があるのだ。


「いや、討伐じゃないぞ。・・・殲滅だ」


だが、そんな意志も優華の威圧を込めた言葉によって吹き飛ばされる。

今まで会ったどんな敵よりも強く恐ろしい敵意は自分達を殺すのに十分過ぎる。

そして後悔する。なぜ、自分達は己が殺されないと勝手に思っていたのだろう。なぜ、目の前のこいつが来る前に逃げなかったのだろう。

盗賊たちは、死ぬ瞬間まで後悔しかできなかった。



盗賊を殲滅した優華は盗賊たちが盗んできたであろう宝などを見ていた。

道中には優華が殺した盗賊達とは別に女の死体などもあった。

それらはしっかり弔い、そろそろ帰ろうかと思っていたとき、ふと声が聞こえた。

子供の、しかもたくさんの声だ。

少し訝しみながら優華は声のする方へ向かう。

子供達の声がするのはそう遠くない鉄の扉がある場所だった。厳重に閉ざされた扉からはこの中のものは絶対に渡せないという思いが伝わってくる。

その扉を力尽くで開けると、子供が五人ほど身を寄せ合うように眠っていた。少し大きな寝言を言いながら。または泣きながら。

優華が聞いたのはこの子達の声だということはすぐにわかった。

ここに置いて帰るのも忍びないので優華は目の前の子供達を連れて帰ることにした。



穏やかな朝、男の怒鳴り声も、振るわれる暴力もないとても穏やかな朝。こんな寝起きはいつぶりだろう。でも、早く目覚めないといけない。じゃないと、暴力を振るわれるから。

殺されるかもしれないから。家族みたいに。

リンは目覚める。だが、同時に驚く。

いつも見ていた石の天井が、しっかりと整備された木の天井に変わっていたから。また、自分が寝ていたものは地面ではなくちゃんとしたベッドだったから。

戸惑いながらも、周りを見る。外は日が落ちて真っ暗。自分の周りには、今まで一緒にいた仲間達が寝かされていた。

よかったと安堵しつつ、状況を整理する。

今までは盗賊に攫われ、商品として売られるのを待つばかりだった。

それで、昨日寝て、起きたらここにいた。

整理してもまったくわからない。

なぜ自分達はここにいるのだろう。

そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、仮面を付け、黒のローブを纏った怪しい人物だった。


「起きたか?」


声からして多分男。怪しいけどこの状況を知っていそうな人物。


「あの、私達は」


まずは聞かなければならない。自分達の今の状況を。どうしてここにいるのかを。


「盗賊は私が殲滅した。だから心配することはない。それに、ここは安全だ」


「そうですか。ところで、ここはどこなんですか?」


リンの問に仮面の男は素直に答えてくれた。


「ここはあの洞窟から少し近い村のギルド、夜の宮だ。あと、私のことはシンと呼んでくれ」


「・・・わかりました。助けていただき、ありがとうございます」


どうやら盗賊は殲滅され、自分達は保護されたらしい。

このシンという男は、ギルドの職員かなにかなのだろう。

だったら一応信用できる。


「別にいい。それより、もう夜だ。ご飯を作ったから全員起こして一階に来てくれ」


「わかりました」


会話が終わるとシンは部屋を出ていった。リンはシンに言われた通り全員を起こす。


「ん? どこだここ?」


「私達はたしか盗賊のアジトにいたんじゃ?」


「救出されたみたい。盗賊は全滅だって」


「そうなのか? じゃあ、俺達は自由なんだな!」


「でも、ここは大丈夫なの?」


「大丈夫よ。さっき助けてくれた人に会ったけどいい人だったわ」


「なら安心だな!」


年相応の笑顔を浮かべる仲間達と一緒に楽しく会話をする。

こんな会話はいつぶりだろう。盗賊に攫われてからこの子達とはこの先助かるか、それとも死ぬのかとか、虚ろな目で話していた。

でも、今は違う。安心して、笑顔で話せる。

私達はもう、自由なんだ。



少しして、子供達が降りてきた。たくさん寝て疲れが取れたのだろうか、とてもいい顔をしている。

席に着いた子供達の前に食事の乗った皿を置く。優華が作ったのはこの世界にはないハンバーグだ。

だからだろう、子供達は見たことのない料理に戸惑い始めた。

戸惑う子供達に優華は声をかける。


「毒は入ってないぞ。少し見慣れないかと思うが、味は保証する」


優華の説明を受けた子供達は見慣れない食事を訝しみつつ口に運ぶ。

そして、咀嚼し驚愕する。

溢れ出る肉汁、柔らかくホロホロと溶けていく身。肉の旨味を凝縮したそれは、まさに、至高。

極めつけは、この訳のわからないような幸福感。噛めば噛むほど幸せになっていく。

満面の笑みを浮かべながら食べる子供達を見て、優華は少し考える。

この子達はこれからどうするのだろう、と。

盗賊に攫われて、おそらく親も殺されたのだろう。

親がいなくては人間の作った社会・常識という世界には到底馴染むことができない。

助けるなら中途半端に終わらず最後まで助けるのが道理だろう。


「ここらで自己紹介でもしておこう。私はシン。このギルド夜の宮のギルド長だ。君達の名前を聞かせてくれ」


「はい、じゃあ私から。改めまして、私はリンです。盗賊から助けていただきありがとうございました」


「俺はドルージバだ。なあ、あんた冒険者なのか? やっぱり魔物とか倒したりするのか? くわしく教えてくれ!」


「ドルー、後で聞けばいいでしょ。私はアッシュデュ。アッシュって読んで下さい」


「次は僕だね。僕はブラト。このご飯すごく美味しいです! 助けていただき、本当にありがとうございました!」


「最後は俺か。俺はダヴィエーリイ。呼びづらいからダヴィって読んでくれ」


自己紹介が終わり、優華はこの後どうしたいのか聞く。


「君達はこれからどうしたいとかあるか?」


優華の問に少し考え込む子供達。


「冒険者! 俺は冒険者になる!!」


否。全く考えていない子がいた。


「そうか。冒険者か。止めはしないが、理由を聞いてもいいか?」


「理由か? そんなのかっこいいからに決まってんだろ! それに、魔物に苦しめられてる人がいっぱいいるんだ。そんな人達を見過ごすことなんてできるかよ!」


何も考えていないようでしっかりとした理由を持つドルーを、優華は素直でいい子だと思う。

明日からはドルーの鍛錬などもすることにしよう。そう思うくらいに優華はドルーが気に入った。


「私はドルーといっしょに冒険者をするわ。私達だけじゃなく、盗賊に苦しんでいる人がたくさんいると思うの。私はそんな人達を助けたい」


ドルーに続いてリンが言う。人々を助けたいと。


「なるほど。じゃあドルーとリンには私が直々に鍛錬してあげよう」


「「・・・! お願いします!」」


二人の思いはできるだけ叶えてあげよう。そう決意した優華は残り三人の思いも聞く。


「アッシュ、ブラト、ダヴィはなにかあるか?」


改めて聞いて見ると三人共決まったと言わんばかりの目で見つめてくる。

そして、ブラトから口を開く。


「僕は、料理で稼いていこうと思う。僕の村は、みんながお腹を空かせていたんだ。だから、僕の料理でみんなを笑顔にしたい」


「わかった。ブラトは明日から朝昼晩に開くレストランの手伝いをしてもらう。それでいいか?」


「ありがとうございます」


ブラトの今後の方針が決まり、あと二人も口を開く。


「私は、魔道士になりたいです。魔法は、私にたくさんの事を与えてくれました。なので、魔法でこの国を支えれるような大魔道士になりたい」


「俺は騎士だ。騎士になって、この国の人を守りたい。それに、貴族達に、庶民だって騎士になれることを証明してやりたい」


「わかった。じゃあアッシュとダヴィはリンとドルーと一緒に鍛錬をさせてあげる」


「はい、がんばります!」


「お願いします」


全員の今後の方針が決まり、明日に備えようということで今日はもう寝ることにした。

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