第17話 異能の副作用


 ダンジョン出口に築かれた要塞線を抜け、自衛隊キャンプへと帰還する。


「すっげえ、本当に一人で帰ってきやがった……」

「バックパックがパンパンに膨れてるぞ!?」


 注目を浴びながら、俺はテントへと向かう。


「お前ら! はしゃいでる場合か! 恥ずかしいと思わないのか!?」


 背後で怒鳴り声が聞こえてきた。

 このキャンプで一番派手な階級章を付けた指揮官が、自分の苛立ちを部下にぶつけている。俺が成果を出しすぎてるのが嬉しくないみたいだ。


「毎日訓練している国防のプロが、あんなに弱そうな高校生のガキに負けたというのに、ヘラヘラするな! 罰として腕立て千回! はじめ!」

「はっ!」

「見ろ! 火田が率先して腕立てをやりだしたぞ! DEを炎に変換する異能に特化しているせいで、お前らより身体強化が苦手な火田が真っ先に! 火田を見習って、お前らもキビキビ動け!」


 ……うーん、軍隊って感じだなあ。

 まあいいか。さっさと父さんのいるキャンプに戻ろう。


「おかえり、歩! 無事で何よりだよ!」

「楽なダンジョンだったね。はい、これ」


 バックパックの中身を机に広げる。

 父さんがクリスマスの子供みたいに目をキラキラさせた。


「すごいぞ、触ったこともない素材だらけだ!」

「これだけあれば、俺が使うための兵器も用意できそう?」


 なーんかDEの変換操作が上手くいかないんだよな。剣を精製するのだって、血矢に比べてかなりぎこちないし。パワーでゴリ押してるから成果物の強度は俺のほうが高いけど。

 ただDEを供給するだけで動くDE兵器が俺には向いてるような気がする。


「……ああ。歩が安全に迷宮へ潜れるよう、全力を尽くして開発するよ。試作品が完成したら、またバイトに来てもらうことになると思う」


 よっし。近いうちにまたダンジョンに潜れそうだ。楽しみだな。



- - -



 次のバイトまで、俺はもちろん練習に励んだ。

 血矢と一緒に体育館を貸し切り、スパーリングやDE操作の練習に励む。

 実はこういう学校の体育館、床下に頑丈な鋼鉄の柱が並んでる構造になってて、DEで身体強化した状態で飛び回っても平気だ。練習場所にちょうどいい。


「ダンジョン、羨ましい……」

「大して強い魔物はいなかったけどな。血矢とやってるほうが練習になる」

「そうかもしれないけど……私も魔物を殺したい」

「そこはもう少しオブラートに包んで表現しない?」


 どうでもいい話をしながら、DE製の練習用武器で血矢に斬りかかる。

 受け流そうとする試みをDEパワーで強引に突破した。一本。


「ん、流石……やっぱり陰野は強い……」

「どうも」


 数十回ほど模擬戦を繰り返し、息が切れてきたところで休憩を入れる。

 貸し切った体育館の壁にもたれかかった。床も壁も冷たくて気持ちいい。


「人間相手の訓練も大事だけど……魔物相手にも備えたい……」

「確かになあ。空中に浮かぶ火の玉を相手にしてる時に対人剣術の型をなぞったって仕方ないし」


 あ、そうだ。


「ちょっと〈サモナー〉の真似事してみるか。うまくDEを捏ねてやれば魔物もどきが作れるんだよ。これで仮想敵を作れるんじゃないか?」

「できるの? DE操作、上手くないのに」

「うるさいな、パワーで誤魔化せばきっと何とかなるって」


 雑魚モンスターの代表格、ゴブリンの姿を強くイメージしながら、DEが魔物の体に変換されるよう必死に操る。内部構造まで含めてよく知っているし、作れるはず……。


 なんだけど、なんか……。うん。

 変なのしか作れなかった。とりあえず手足と首はついてる。


「小学生の粘土工作みたい……」

「そ、そこまで言うなら自分でやってみろよ!」


 血矢の手首を掴み、そこからDEを流して渡す。


「ん……骨格がこうで……関節と筋肉はこう……よし」


 ホラー映画に出てきそうな醜いゴブリンが完成した。

 ツギハギだらけだけど、一応はちゃんと立ってるし、棍棒も振り回せてる。


「ふふ、陰野に勝っちゃった。嬉しい」

「むぐぐ……これが才能の差か……」

「よし。戦ってみる」


 血矢が自ら生み出したゴブリンを嬉しそうに斬り裂いた。

 一発目で体がばらばらと崩れ、DEになって溶けていく。


「……巻藁の方がリアル」

「一回目だしな。練習してればそれっぽくなるだろ。一発であんなの作れてるだけ凄い……っていうかもしかして、血矢が凄いんじゃなくて俺がすごく下手なだけ?」

「かも」


 ぐぬぬ。

 まあ、DEの操作に関しては下積みがないんだから、しょうがない、か?


「確か……特殊な才能がある人はDE操作が下手、って自分で言ってた。それかも」

「異能? いやいや、まさか。俺に異能なんか無いよ」

「本当に?」


 血矢が俺を見つめた。


「陰野は色々と特殊。異能がないほうが驚く」

「特殊なのは間違いないけど、異能はないって」

「でも……前に心臓のあたりを触ったとき、何か変だった」


 いつの話だ? うーん、頭がちょっぴり痛い。

 あらかじめ頭痛薬を飲んでなきゃ結構酷かったかもな。

 しょっちゅう痛くなるから常飲するようにして正解だった。


「変って?」

「なんだか……複雑な感触というか……すごく入り組んだDEの道みたいな……」


 うーん頭痛が悪化してる。頭痛薬様々。


「水道管にスポンジを詰まらせたような……すごく抵抗がある感じだった」

「なんか体調が悪くなってきた。悪いけど、今日はここで終わりにさせてくれ」

「ん。そういう時には肉を食べるべき。ステーキ屋行こう、私が奢る」


 えっ、ステーキを!? いいのか!?


「でも血矢、だいぶ前にコンビニバイト辞めたんだよな? お金あるのか?」

「お金には困ってない。コンビニバイトは、私を”まとも”にしたい両親の無駄な足掻き」


 無駄な足掻きって。……まあ、無駄だろうなあ……。


「じゃ、ゴチになるわ! ありがとな!」

「別にいい。私の受けてる恩恵が、返しきれないぐらい大きいから」

「そうか? この訓練でお互いに得してると思うけど」

「そうじゃなくて……もっと運命的な」

「何の話だよ」


 厨二病患者め。


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