第36話 久しぶり!!!

「カルナ久しぶりなのじゃー!!!」


 獣人の国を破壊してカンドリアの砦に戻った後。

俺達はジャルガを迷宮で闇化&英霊化したのだが培養液から出した途端、ジャルガがカルナに抱き着いた。


「……?」


 抱き着かれて素でわからないという表情をするカルナ。


「お知り合いですか?」


 キルディスがおそるおそる聞くと、カルナがぷるぷる首を横に振る。


「カルナ、知らない。この人はじめて」


「なんじゃ、忘れてしまったのか!? いや、しかし我も死ぬまで思い出せなかったしそんなものかもしれぬ!」


 と、ドーンと胸を張って言うジャルガ。


 うん。なかなかハイテンションなキャラだな。

 なんだかこのままだとジャルガのペースになってしまいそうなので、俺はジャルガとカルナの間に割って入る。


「ジャルガ、今日から俺がお前のマスターだ。まぁ不満はあると思うがよろしく頼む」


 俺がジャルガに手を差し出すと、ジャルガは俺を見つめて


「ふむ。前のレイゼルとは違うな。これもファンバード殿が創造神の権限に踏み込んだ影響か?」


 と、いきなり爆弾発言をする。


「創造神の権限って、ジャルガは何か知っているのか? アレキアとシャルロッテは何も知らなかったが」


 俺が聞くとジャルガはふんむーっと胸を張る。


「アレキアとシャルロッテが知らないのは当たり前じゃ、情報がどこからか魔族側に洩れていた可能性がた高いため、創造神の権限の【創造主の宝珠】は我と大賢者とカルナ、それにレイゼルしか知らないまま進めた。そして我の記憶が正しいと仮定するなら、このループはファンバード殿が権限を手に入れてからのはじめての巻き戻りじゃ!!」


「それ詳しく!!!」


 俺はジャルガの肩を持ち、叫ぶのだった。




「……つまり、エルフの大賢者も巻き戻る前、神を疑っていたということか?」


 ジャルガの菓子を食いながら語った過去に、俺は思わず聞き返す。

 

「そうじゃ、エルフの大賢者は、レイゼルの話を聞いて、失敗した前の時間軸の問題点を全部洗い直し、別の行動をとってきた。それでも五回も失敗した。そしてその問題点をまとめた結果、エルフの大賢者に指令をだした光神ネロスの意志なのではないかと結論をだしたのじゃ」


「なぜそういう結論になったのか過程はわかるか?」

 

 俺は、ジャルガに問う。これは重要な事だ。エルフの大賢者がなぜそういう結論に至ったのか、その考察を自分自身でも聞いて、考えなければいけない。

 エルフの大賢者がそう結論だしたからといって、それが正解とは限らないのだから。


「ふっ!その結論にいたるまでの推論を我が聞いたとして、覚えられると思うか!?もちろん過程なんぞ聞かなかったわ!!!我が聞くのはいつも結論のみじゃ!!」


 胸を張って言うジャルガ。


「胸張って言う事じゃねーだろ!? そこが一番重要なところじゃねーか!?」


 突っ込む俺。


「方向性は違いますが、属性はマスターよりですね」

「はい、私もそう思います」


 なぜか後ろでキルディスとアレキアが ぼそぼそ言っている。


「いや、断じて違う!?俺こんなんじゃねーから!!」


 否定する俺に、「はっはっは!我と同格扱いされるとは光栄に思え!」というジャルガ。


 ちっ。くやしいが確かに俺と共通点があるかもしれない。

 が、断じて認めん。俺は性格が悪いだけであって馬鹿ではない。

 そう、その場の勢いで相手を負かすことを優先するが、馬鹿ではない。

 考えているようでその場の勢いを優先するが馬鹿ではない。


 ……あれ、属性だけ抜き出すと馬鹿かもしれない。


「く、覚えてないものは仕方ない。で、創造神の権限に踏み込んだとはどういうことだ?」


 俺が再びぼすんとソファに座る。


「難しい事はわからん!だがカルナの権限をエルフの大賢者に移し、創造神の領域にアクセスするために、あるアイテムを手に入れてきてほしいと頼まれてとりにいってきたのじゃ!」


「それどういうこと?カルナ権限エルフの大賢者に移す方法なんてしらない」


 ジャルガの返答に今度はカルナが聞く。


「詳しい事はわからんが、エルフの大賢者が直接、深淵の迷宮の権限をカルナから譲り受けて、アクセスするといっておった」


「そんなことできる? カルナ迷宮から解放された?」


 カルナが食い気味に答える。


「おお!エルフの賢者に権限を譲渡したあと、カルナは迷宮から解放されたぞ!ちゃんと現実化する処置もしたのでばっちりじゃった!……ただそのあとの事を全く覚えてないのじゃ。おそらく、その後すぐ巻き戻ったのだとおもう。六回目だけは魔王が復活する前に巻き戻っておる」


「……けれどアレキアもシャルロッテも、5回目の巻き戻りの記憶しかなかったよな?」


「はい。そうです。マスター」

「私たちは6回目は知りません」


 答えるアレキアとシャルロッテ。


「それは我にもわからん。エルフの大賢者は、誰かがスパイの可能性があるといっていたから消したのかもしれぬ」


「……つまり、その6回目のみ創造神の権限を手に入れたエルフの大賢者が強制的に巻き戻して、アレキア様やシャルロッテ様の6回目の記憶も消した?」


 キルディスが考えながら言う。


「まぁ、そう考えるのが無難だな」


 そう言いながら俺は頭をぽりぽりかいた。


「これで何故今回だけ『俺』という異世界人がレイゼルを乗っ取ったのか、説明がつく。おそらく、この世界の住人では歴史を変えられないと、悟ったエルフの大賢者が、創造神の権限を利用して、歴史を変えるために『俺』を呼び出したんだ。そしてエルフの大賢者が創造神の権限を手入れたにも関わらず、強制的に時間を巻き戻し、なかったことにしたのは、神の干渉を恐れたためだ」


「それはつまり……」


 アレキアが俺を見つめるので俺は頷いた。


「エルフの大賢者が創造神の権限をもったまま、その時間軸で歴史を進めた場合、神に創造神の力が渡る恐れがあった。おそらく神はエルフの大賢者を操る力をもっている。そしてそれはエルフの大賢者が創造神の権限を少しいじった程度では変えられない強固なもの。だから、その後の歴史改変にその力を使うことなく、すぐに巻き戻した。エルフの大賢者は魔王を復活させているのが現存する神だという確証を得たんだろう。そして今回の時間軸でエルフの大賢者が記憶を所持していないのも、神に情報が渡らないようにするためだ」


「それにしては……随分不確定な賭けですね。マスターが何もしなかったらどうするつもりだったのでしょう?」


 俺の言葉にキルディスが小首をかしげる。


「まぁ、いいたいことはわかる。『俺』が神を倒せる確証なんてないのに何故『俺』に託したのかは意味がわからん。だが、レイゼルの魂の消耗を考えるとあと一回ループできるかどうか。そして神がエルフの大賢者に干渉してくる前に巻き戻さなければいけなかった。 その条件下でしかたなく賭けにでたと考えれば、まぁ納得はできる。それにまったく保険を用意してなかったわけじゃないと思う」


「どういうことですか?」


「俺の思考にレイゼルが干渉して、世界を救うように誘導しているふしはある。俺は元の世界に帰りたいとか、元の世界の事に思いをはせる事なんていままで一度もなかった。よくよく考えればおかしい事なんだよな。こんな滅ぶの確定の世界なんて逃げた方が楽なのに、その考えが一度も頭に浮かばない。……つまりここまで俺は、記憶をなくす前のエルフの大賢者の思惑通りに動いていることになる。記憶をなくす前のあいつに踊らされているのさ」


 そう言って背を伸ばす。


「マスター……」


 不安そうに俺を見るアレキア。


「勘違いするなよ。確かに糞負けず嫌いだが、踊らされていたからやめるとかいうほど、幼稚じゃない。お前らと約束した以上、目的は果たす」


 そう、この意志がレイゼルに誘導されたものだとしても、神も皇帝もやっていることが気に入らない。そこは何一つかわらない。目の前のむかつく相手は全力でつぶす。


「ただ、もう一つ目的ができた」


「もう一つの目的ですか?」


 シャルロッテが不思議そうに聞いてくる。


「ああ、神をも倒したら、エルフの大賢者の記憶をとりもどさせて、ぶん殴る!!!

 今のエルフの大賢者じゃない、『記憶を戻した大賢者』をだ!

 俺を裏で利用した責任はとってもらう!!!!絶対に許さんっっっ!!!!!!!」


 俺の崇高な目標になぜか一同大きくため息をつくのだった。

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