第23話 厄災

「だ、大丈夫ですかマスター!」


 あの後、俺とカルナはカルナの転移のおかげで迷宮に戻って来た。

 心配したキルディスが猛ダッシュで寄ってくる。


「あぶねっ!!死ぬところだった!」


 俺が言うとキルディスが頭をかかえて


「だから言ったじゃないですか!?あれは厄災だって!!存在を感知されただけで死が訪れるんですからっっ!!」


 と、キルディス。


「悪かったよ。お前の意見をもうちょっと真面目に聞くべきだった。ところでカルナは無事か?」


 俺が聞くと本体のカルナがこくんと頷く。


「あの二人は?」


 俺が視線をシャルロッテとアレキアの首に視線を移した。二人の首は目をつぶったままぷかぷか浮いてる。


「倒されてもマスターいるかぎり平気。次の日には復活できる。でもおかしい」


「おかしい?」


「私……まだ英霊化の処置を施してない。あの二人、貴方を助けるため自らの意思で勝手に英霊化した」


「は?」


 カルナの問いに俺は間の抜けた声を上げる。確かにゲーム中でも500年前の英霊じゃない騎士が、主人公(プレイヤー)を守るため自ら死んで気力で英霊化した例はあった。

 だがそこには強固な絆があったからで、俺とあの二人には強固な絆なんてまったくない。


「勝手に英霊化なんてできるんですか?」


 キルディスの質問に俺は頷く


「相手を守りたいという強い意志で英霊化することはある。でも俺はあの二人を殺した相手だ。恨まれてすらいる。なのになんで俺を守ろうと勝手に英霊化なんてしてるんだ?」


 俺の言葉にカルナが首を横に振り――


「それは私達が説明いたしましょう」


 と、迷宮に現れたのはアレキアとシャルロッテだった。




「お、お二人とも無事だったんですか!?」


 キルディスが言うと、アレキアとシャルロッテはお互い目を合わせて


「エルフの大賢者は一度だけ見逃すといって去っていきました。ですが次、エルフの大賢者の前に現れるなら殺すと」


 シャルロッテが説明する。


「おそらくあの様子だと、私達二人に「生前の意思」があると見破られています。だから温情で見逃したのかと」


 言葉を続けるアレキア。その言葉に俺は頭を抑えた。

 そうか、生前の意思があるのか。俺は今初めて知った。


「あー、ちょっと待ってくれ。これはどういう状況なのかまず説明してくれ」


 俺の言葉にアレキアとシャルロッテは頷くのだった。




「最初に、まず私達二人はこの世界が何度もループしている記憶を所持しています」


 椅子に座った状態で話をはじめたアレキアはとんでもない事をいいはじめた。

 いや、レイゼルの件があるのでループしていたのはわかっていた。だが何度もループしているは初耳だ。


「何度もループ?どういうことだ?」


 俺の問いにシャルロッテは頷くと


「まずこの世界は、『魔王が復活したあと、魔王の力で世界がほぼ崩壊。英雄達との闘いの最中、必ずループする世界』だと私たちは認識しています」


「何故そんなことが認識できるんだ?」


 聞く俺。その言葉にアレキアとシャルロッテは考え込み少し相談する。


「まずどこからお話していいものか……。私達は今の貴方ではない本当の『レイゼル』にループを打ち明けられ、早い段階で魔王復活阻止に動いた時間軸が数回あるからです」


 アレキアが、とんでもないことを言いだす。

 つまり俺より先に本当のレイゼルは過去の知識で歴史改変をなんどかチャレンジしていたということか。


「ならなんで今回は歴史通りに動いたんだ?」


 俺が質問するとシャルロッテは頷いた。


「ループを思い出すのがいつも死ぬ直前だからです。私達は貴方に首を切られたことで死にました。そこですべての時間軸での記憶を思い出し、記憶を所持したままループせず英霊化された。このような状態は私達もはじめてです。私達もループのたびに記憶を失っていましたから。『レイゼル』に協力していた時も、いつも記憶はリセットされた状態でした。生きている時はその時間軸の記憶しか所持していません」


「なるほど、英霊化によって死ぬ間際思い出す記憶をそのままキープしたのか」


 俺が反芻するとアレキアが頷く。


「それじゃあ次の質問だ。お前達はなんでループを防げなかった?防げなかった原因は何か予想はつくか?」


 その言葉にシャルロッテとアレキアが顔を見合わせた。


「そこが問題でした。私達に打ち明けてくれた時間軸では必ずファンバード様…‥エルフの大賢者様も力を貸してくださり、魔王復活阻止に動きました」


「もう、それ無敵。なんで防げなかった?」


 シャルロッテの言葉にカルナが首をかしげる。


「確かに。裏ボスの『レイゼル』とエルフの賢者ファンバードが同時に力を合わせて動いていて魔王もループも止められないってどういうことだ?」


 俺も追随して聞く。シャルロッテと目があうと、シャルロッテが首をふった。


「それがよくわからないのです、なぜかそこの記憶だけが曖昧で。

 ただ、わかることは、『レイゼル』だけは記憶がリセットされず、失敗した時間軸の記憶を所持していた。そして他の者は、必ず記憶がリセットされていた。そしてファンバード様も『レイゼル』にループの経緯を詳細に聞き、過去の歴史を理解し、過去の失敗を改善したうえで行動していたにも関わらず魔王復活阻止に成功しなかった。なぜエルフの大賢者様をもってしてもダメだったのか。ずっと疑問でした。そこで、貴方達の先ほどの会話です」


「先ほどの会話?」


「神が魔王復活を望んでいて、ファンバード様を通じて邪魔してくるという会話をしていましたよね?」


 シャルロッテの質問に俺とキルディスが顔を見合わせた。


「ああ、確かに。てか首だけの状態で会話聞こえていたのか」


「意識だけあるような状態でした。その時の話を聞いていて思ったのです。エルフの大賢者様でも魔王復活を防げなかったのではなく、大賢者様が動いたからこそ、神が先手をうって魔王を復活させてしまったのではないかと」


 シャルロッテの告げる言葉はわりと説得力のあるものだ。


「なるほど、だから二人は自らの意思で英霊化して俺を守ったということか?」


 俺の言葉にシャルロッテとアレキアが頷いた。


「今までどの時間軸でも大賢者様は必死に魔王復活阻止に動いていました。ですから大賢者様ご自身は疑っておりません。ですが大賢者様自身が神のみ使いであることも事実。大賢者様自身がそのつもりがなくても、思惑誘導などうけて、魔王を復活させるように動いてしまっていた。もしくは神が直接介入して魔王を復活させていた。それなら何故防げなかったのかという疑問に説明がつきます。そして必ずループがおきるのはおそらく、魔王で滅んだ世界を後悔した『レイゼル』が無意識にやったものではないか……というのが私たちの推測です」


「なるほど……、確かに全員ループしてるならレイゼルだけ魂が弱まっているのはおかしい、ループに力をつかって魂が力を失ったと考えるなら、まぁつじつまはあってるな」


 俺がうーんと考えながら言うと、


「今度カルナ質問。エルフの大賢者はどこかの時間軸で迷宮の主になったことある?」


 カルナが身を乗り出して質問する。


「はい。あります」


 シャルロッテの答えにカルナはふむっと頷く。


「この人達嘘ついてないと思う。確かにエルフの大賢者、迷宮のマスターと同じ力もってた。最初のマスターと一緒の状態。だから私見えた!触れた!」


 ふんむーっとカルナが顔を近づける。

 どうやらエルフの大賢者にしてやられたのはそれなりに悔しかったらしい。

 俺はカルナの頭をぽんっと叩く。


「なるほどな。これでいろいろ合点がいった」


「合点ですか?」と、キルディス。


 こちらに皆の視線が向く。


「ああ、エルフの大賢者がゲームじゃ不可能はチート技をガンガン使っていたのはおそらく、別の時間軸で迷宮の権限の何かをいじったからだろう。逆に言えば、あのチート技を俺達も使う事ができるってことだ」


 俺は足を組みなおした。


「大体この転生の全容が見えてきた。何故俺が呼ばれたか、何故レイゼルの魂が消滅寸前なのか。いいだろう、俺がまとめてこの世界を塗り替えてやろうじゃないか。あの糞憎たらしいエルフの大賢者ができなかった、魔王退治とループ阻止、俺が絶対なしとげてやるっっ!!!そして大賢者のまえでお前が出来なかった事してやったぜ、バーカと全力で罵ってやるっっ!!!」


 俺が力強く言うと


「マスター、あれ絶対さっき負けたの恨んでますよね」とキルディス。


「マスター負けた悔しい、でもカルナのせいなので何とも言えない」とカルナ。


「割と子供っぽいのですね。把握しました」シャルロッテ。


「これは思春期の男児に見られる現象。マスターの中の人は年齢が実は低い!?」アレキア。


 君たち何なの突っ込みの団結早すぎない?

 実はこれもループ二度目とか言わないよな。


 一抹の不安が俺の頭をよぎるのだった。

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