第21話 不覚

「この失態はなんだ!」


 帝国に帰るなり俺達に待っていたのは皇帝の叱咤だった。まぁ無理もない第一皇女のつれていた部隊も魔道兵器もすべて失い、奪うはずの砦も消失してしまった。

 聖王国にそれなりの被害を与えたが、帝国も秘密兵器の『神時のゴーレム』を失ってしまった損失はでかい。


 が、俺に言わせれば聖王国を真面目にとる気なんてなかったくせによく言うぜとしか思えない。魔王の魂吸収の始まっている場所はあの砦周辺なのだ。

 聖王国まで滅ぼしてしまったら、いざ魔王が魂を必要としたとき足りなくなるかもしれない。第四皇子も『神時のゴーレム』も時がきたら勝手に止まるようになっていたのだろう。最初から茶番劇でしかないのである。


 それでも俺達皇子に言い渡されたのは謹慎処分だった。




「大体一つの戦争に成人式を終えた皇子全員出撃とか、継がせる気ないのまるわかりだよな。ありえんだろう普通」


 迷宮に戻って菓子をばりばり食べながら言う俺。

 少しむこうのの培養液には第一皇女の首とアレキアの首がぷかぷかと浮いている。


「魂すり替え無事すんだ!人間の魂回収ばっちり!魔王にはここ、魂捧げた!」


 カルナが褒めてといわんばかりに言うので、俺はオー偉い偉いと頭を撫でてやる。


「私としてはエルフの大賢者とやりあったマスターが信じられないんですけど」


 汗をだらだら流しながら言う。キルディス。


「あのゴーレムの心臓核に残した、私の魔族の力で私に気づいて襲い掛かってくるなんてことありませんよね!? 大体なんでわざわざあの【神時のゴーレム】の核に私の魔力の力をつけたんですか!? エルフの大賢者が私に襲い掛かってきたらどうするんですか!?」


「大丈夫だろ。いくらエルフの大賢者といえども、あれくらいじゃお前まで特定できない。まず調べるとしたら【神時のゴーレム】が発掘された現場さ。あそこにはゲーム上では複数の魔族が潜んでひっそりと人体実験をしていた。エルフの大賢者ならすぐ答えにたどりついて退治してくれるはずさ」


 俺がお茶を飲んで言うと。


「そうみたい。現場、現れた」


 と、自らの分身体をゴーレム発掘現場近くに潜む魔族のアジトに飛ばしていたカルナがつぶやいた。


「って、もうか!?」突っ込む俺。

「ひぃ!?」となぜか自分が見つかったかのように怯えるキルディス。


「映像見せる」


 そう言ってカルナの横に巨大なスクリーンが浮かび上がり、ごろごろと死体の転がる実験室のような場所にエルフの大賢者と複数の魔族が対峙していた。


「エルフの大賢者!?なぜこ……」


 魔族を言葉を発した途端。


 ぐわしゃ!!


 一瞬で五体の魔族の身体が飛び散った。

 魔法じゃない。凄い速さで杖で全員ぶん殴ったのだ。

 おそらく時止め系などのスキルを駆使し、杖には特殊な強化魔法を施している。

 そして、チラリとこちらを見た気がした。


「ひぃ!?目があいました!?」泣きながら俺に抱きつくキルディス。

「いくらエルフの大賢者でも私の分体見えない。ここにいてここにいないもの」説明するカルナ。

 カルナの言う通り、エルフの大賢者はすぐに視線を別の場所に移し、人体実験の研究結果のデータを分析するため機械をいじりだす。

 この世界西洋ファンタジー風なのに培養ポットとかの機械は普通にあったりする。

 古代遺物扱いだがよく考えたらすごい世界観だな。


「見ましたか!?あれ、私より強い上位魔族ですよ!?それを五体一瞬ですよ!?」


 泣きながらしがみつくキルディスに俺は「ははは」と笑う。

 確かにデネブとして戦ったが、あれは人間としてかなり身体的能力や魔力やスキル・魔法を制限され、そしてレベルまで制限されていた。力の十分の一もだしていなかっただろう。


「確かにあれと本気でやりあうのはきっついな」


 俺が冷や汗を流しながら言うとキルディスが


「だから言ったでしょう!?なんで寝た子を起こしたんですか!?」とわめいている。


「魔族の魂は回収した。どうする? いくら姿は見えなくても神と交信のあるエルフの大賢者だと概念に気づく可能性がある。少し離れたほうがいい」


 カルナが映像を映しながら俺に聞いてきた。


「そうだな。そこから離脱して、その分体はもう戻してくれ」


「わかった」


 カルナの言葉とともに、映像が消え、分身体のカルナが戻ってくる。


 途端迷宮のレベルががんがん上がった音が聞こえ、一気に70までレベルが上がった。


「おー、ずいぶんレベルがあがったな。でもまだ先は遠いな最高レベルが確か200だっけ?」


 俺が言うとカルナがこくんと頷いた。

 

「まぁ、このまま順調に迷宮レベルを上げていけば、配置できるモンスターのレベルも上がるから俺もレベル上げしやすくなるな」


 俺がにししとご満悦に増えたデータ確認する。

 だいぶやれることが増えた。菓子の床やら、鉱石の床やら作れるようになった。これもエルフの大賢者様のおかげだろう。

 


「このまま、エルフの大賢者が倒してくれるならすぐレベルも上がりそうだから俺のレベルも100になるのはそう遠くないな、おそらくあそこのデータから、東の砂漠に潜んでる魔族の存在にもきづくだろう」


 俺がモンスター退治トラップを改良しつつ言うと。


「そうみたい。もう来た」


 と、カルナ。


「へ?」


「東の砂漠の魔族一瞬で倒した。魂回収した。どうやって移動してるか見るためもうちょっと見張る」


 と、カルナが言う。


「嘘だろ、さっき遺跡の魔族を倒したばかりで、もうサラン砂漠まで移動したってことか!?巨大な大陸の端と端だぞ!?」


 俺が言うとカルナがこくんと頷く。


「ほら、やっぱりです。エルフの大賢者に逆らったら殺されるます」


 まるでいじめっ子に怯える子どものように部屋の隅でカタカタ震えるキルディス。


「もう、エルフの大賢者味方につけたほうがはやい?」


 カルナが首をかしげて言うが、俺は首を横に振る。


「いいか、たとえエルフの大賢者個人を説得して、こちら側に引き入れたとしても、やつの上司である光の神ラロスが許すとは限らない」


 俺の言葉にカルナとキルディスの視線が集まる。


「どういうことです?」


「魔王復活を神が望んでないとは限らないってことだ」


 俺が言うとキルディスが唾をのんだ。


「つまり、神と魔王は裏でつながっていると?」


「わからん、俺がゲームをやっているときはそこまでの情報はなかった。だがVRMMOはアップデートごとにどんどんイベントが追加されていく。その追加されたイベントに神と魔王が手を結んでいたイベントが実装されていたかもしれない」


「でもなんでそう思う?」


 カルナが小首をかしげる。


「不自然なほどエルフの大賢者に不利な『誓約』さ。エルフの大賢者が人間を支配しないように、人間同士の争いに手を出すな、ここまではわかる。だが、人間の支配階級も証拠があがるまで調べる事すら禁じる。これは意味がわからない。

 見ただろう?束縛のない状態のエルフの大賢者は優秀だ。あれに任せれば魔王復活なんて防げそうなのに、なぜか異常な足かせを彼に課している。まるでエルフの大賢者が魔王復活を防ぐのを邪魔しているのを疑いたいレベルでな」


「……つまり。マスターはエルフの大賢者を仲間にすると、神が邪魔してくると思ってる?」


 カルナの言葉に俺は頷いた。100%ではないが可能性がないわけじゃない。


「可能性がある以上、不安要素は排除する。俺の作戦は相手にバレた時点で失敗する。魂を吸わせられなくなったら終わりだ。不確定なものはとりこめない」


「なるほど…‥あ、エルフの大賢者でてきた」


 サルナ砂漠の遺跡からでてきた大賢者の画像が映し出される。


「あいつがどうやってワープしてるか知りたいな」


 俺が言った途端。大賢者がこちらを向く。

 そう砂漠のど真ん中の空をぷかぷか浮いて遠くから見ていたカルナの分体の映像のはずなのにばっちりと目があったのだ。


「カルナっ!!分体をはやくこちらにもど!!」


 俺の言葉言い終わるよりはやく、エルフの大賢者が動いた。


 がっ!!!!


「う、あ……」


 分体の首が大賢者に掴まれ、こちらにいるカルナが苦悶の声をあげるのだった。

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