第15話 戦乱の幕開け

「聖都市ディランを支配する」


 謁見の間で一堂にあつめた皇子や貴族の前で高々と皇帝が告げた。

 途端歓喜の声があがる。俺も他の皇子にならって頭をさげる。誰一人反対するものはない。皇帝が政敵は徹底的に排除し貶めた結果、皇帝の決定に逆らえるものなどいないのだ。

 すでに兵士が増強され、聖都市への輸出や輸入が制限されはじめていたため、カンのいいものなら戦争になることは気づいていただろう。


 ゲーム上の歴史でも、ここから戦争が各地にでおこりかなりの死者がでる。

 戦火は瞬く間に広がり世界の人口が5分の1になるのだ。

 500年後の世界で召喚される英霊達はこの戦争で犠牲になり、破れ死んだ者達。

 この戦いは英霊達の歴史そのものであり世界の荒廃のはじまりでもある。


 ――そう、本来の歴史なら。


 さすがに倫理観がおかしい(カルナ談)の俺でも世界が崩壊するのは望まない。

 

「この戦いの先陣は第一皇女にまかせる」


「はっ」


 皇帝の言葉に第一皇女が頭を垂れた。長身のなかなかのイケメン(女性)。

 こいつも実は父に逆らえなかった悲劇の皇女として、ゲームでは英霊あつかいだったりする。そしてこの戦争で死ぬ運命にある。


「第六皇子と第八皇子は第一皇女をよく補佐し、西の森に住む魔道具師デネブが聖都に援軍にむかわぬように、殺せ。あの伝説の魔道具師とよばれるデネブがゴーレムを引き連れて聖都に援軍に向かうと厄介だ」


「第二皇子と第四皇子は、補給路の確保と点在する村の制圧だ。詳しい支持は各将軍に言い渡す」


 そう言って皇帝が剣を掲げた。


『帝国に勝利を!!!』


『勝利を!!!』


 これが開戦の合図だった。

 


 

 ★★★


「おかえりマスター」


 何か画面をいじっていたカルナが俺がワープして中に入ってきたことに気が付いて挨拶をした。


 皇帝のくそえらそうな開戦命令をきいたあと、俺は創り上げた迷宮に戻った。

 俺はマスター権限で迷宮へならどこからでもワープできる。

 迷宮内も俺の考えた最効率の経験値自動化・魂自動収集・金銭及びアイテムの収集トラップが完成しており、今もどこからともなくモンスターの悲鳴が聞こえている。俺もめでたくレベル55になった。


 効率を重視しまくった最高傑作の自動モンスター倒し装置。

 モンスターをスポーンさせ、モンスターが沸いたときにやる特性を利用し、トラップを発動するように仕向け、沸いた途端速攻で殺される慈悲のない装置の数々だ。

 沸いた途端ミンチにされたり、落下して潰されたりと、ここで生まれたモンスターの未来はかなり最悪だろう。

 普通の人間がこの場に居合わせたら病みそうな環境ではある。

 それでも魔族のキルディスには居心地がいいらしく、「負の感情がいっぱいで居心地が最高です」とうっとりしながら自動化装置が誤作動していないか見張っていた。

 

「やっぱり戦争だった?」


 カルナの問いに俺は頷いた。


「ああ、忙しくなるぞ。戦場での人間の魂集めはお前にまかせる」


「カルナに任せる。カルナ迷宮外ではカルナの存在見えるものいない。人間だけでなくモンスターも魔族も」


「そうなのか?」


「カルナ、存在が神に近いもの。あちら側の存在。ここでない場所、存在が希薄になる。だから、見つからない。隠密行動最適。ちゃんと魔王に向かう人間の魂を吸収してここの魔物の魂にすりかえる。……でも」


「でも?」


 うつむいてしまったカルナに俺が聞く。


「流石に一つ残らずは無理。どうしてもすり抜けはある。そこは覚悟してほしい」


「多少の犠牲は仕方ない。そもそもどう言い訳したって一度は殺すんだ。魔王を倒したって、本当は魔王を倒すためだったんですね!なんて俺に感謝するやつなんていないだろ。理屈がわかったとしても恨みは残こる。悪役がいちいちそんな事気にしていられるかよ」


 俺が言うと、装置を見ていたキルディスがこちらに振り返った。


「そこがよくわかりませんね。マスター1人ならここで十分快適に暮らせるます。外の世界が滅びても関係ないじゃないですか。なぜわざわざ憎まれるのが確実な事をするのですか?しかも命をかけてまで」


 キルディスの言葉に俺はにぃっと笑った。


「簡単な話だ。目の前に気に入らないやつが立ちふさがるなら、後先考えずどんな手段でも追い落とす!それがたとえ魔王でもだ!そして俺は俺より上位の存在をよしとしない!!!皇帝が気に入らないので全力邪魔する!!もちろんその上の魔王もだ!俺の上に誰か立つのは許さない!!!それがこの俺レイゼル・ファル・シャルデールっ!!!」


 拳を突き上げて言い切った俺を、キルディスとカルナが無言で見つめ。


「マスターはマスターで安心した」とカルナ。

「動く基準のすべてが、その時の感情とただ気に入らないだけいうところだけは絶対ぶれないその姿勢だけはすごいと思います」とキルディス。


 ふっ、二人とも褒めすぎだ。というかもっと褒めてくれていい。


「とにかく、この戦い皇帝自身も必ず勝てると思っていない捨てゴマの戦争だ。

 実際ゲーム上の歴史でも、国境の砦を堕としたところで、撤退する。必要なのは帝国との境であるディランの砦を堕とすことだけだ。皇帝はディラン本国には興味がない」


「なぜ砦だけなのですか?」 


 キルディスが後ろ手を組んだ体制で聞いてくる。


「魔王が魂を吸いだしたのがその場所だからだ。

 皇帝は魂を吸収する場所を知ることができる。そのため大量に人を殺す場所は魂吸収場所のディランと帝国の境の砦だけだ。

 ディラン本国まで堕としてしまうと、後々人類が足りなくなって魔王に捧げる魂が足りなくなる可能性があるため、砦を堕としたところで撤退するはずだ」


 俺が地図を指さしながら言うと、キルディスはふむという顔をした。


「けれどディランは騎士の国です。帝国でもそう簡単には落とせないはずですが」


「【神時のゴーレム】があるからいけるだろ」


 俺の言葉にキルディスが顔を青くする。


「【神時のゴーレム】って、古代の兵器じゃないですか!?砦一つもビームの一つで破壊する魔族だって恐れる兵器です。そんなものを持っているんですか!?」


「ああ、人間が掘り出したことにして魔族が貸し与えてるのさ。というわけで、キルディス。お前にちょっと頼みがある」


「……私に、ですか?」


 目をぱちくりして聞くキルディス。


「ああ、そうだ。ゲームの歴史なんてくそくらえだ、開幕から歴史を大幅にかえてみせる。そのための仕込みだ」


 そう言って俺が笑うと、キルディスとカルナが顔を見合わせる。

 


 観てろ、レイゼル。


 まるで魔王を止めてくれといわんばかりにざわめく胸に俺は話しかける。

 正直自分もなぜこんなことをするのかさっぱりわからない。

 はっきりいって世界のために頑張るとか柄じゃない。

 けれどレイゼルの助けを求める手を取った以上、俺は最後までやり抜いてみせる。


 助けると約束したのだから、やれるところまでやるべきだ。


 レイゼルがいままで騙された世界をループしていたというのなら今世は俺たちの手で世界を転がしてやればいい。


 さぁ、くっそくだらないペテン劇場のはじまりだ。

 皇帝たちを盛大に騙して気に入らないやつは容赦なくつぶす。誰のためでもなく、俺達自身のために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る