第2話 魔族の襲来


 さてと。

 第三皇子たちに啖呵をきって自室に戻り、俺は椅子に座った。

 

 全力で煽ってやった。ものすごく何か考えがあるように煽ってやった。


 が、正直に言おう。


 特に何も考えず、思いつくまま噓八百で煽ってやったとも!


 対策なんて考えていない。目の前に気に入らないやつがいたら、後先考えず、全力で言い負かす。そう、それがこの俺。レイゼル・ファル・シャルデール。


 あいつらが、暴行されましたと、訴えてきたらまぁ、その時はその時でなんとかしよう。状況にあわせる。臨機応変!何も考えてないだけだが物は言いようである。


 っていうか、椅子に座って気づいた事がある。


 俺、本当の自分だった時の事が良く思い出せない。


 普通のサラリーマンで、VRMMOにはまって脱サラして、VRMMOで手に入れたレアアイテムをリアルマネーで売り払い、生計を立てていたことまでは覚えている。そういった属性は思い出せるのに、自分の名前から父と母や友人や兄弟などそういった情報がさっぱり思い出せないのだ。


 そしてこの世界は俺がやりこんでレアアイテムをリアルマネーで売り払い生計を立てていたVRMMO。ラスティリア。


 500年前魔王との闘いで勇敢に戦い死んでいった英雄達を召喚して付き従えて、世界を冒険する西洋風ファンタジーゲーム。

 生計を立てていただけ、ゲームを解析しデータを抜き、すべてのモブからNPCの特性、主要英雄から敵の技やスキル、ステータスまで網羅している。その情報はぱっと思い浮かぶのに、自分の事だけは思い出せない。


 俺は自分のステータスとスキルを確認した。

 帝国の第八皇子として虐げられていた青年時代のだめまだ裏ボス化はしていないためレベルもステータスも低い。


 が、なぜかちゃんと裏ボスとしてのスキルや権限などは所持している。


 しかも所持スキルを見ると、脅威のバグ技でプレイヤーが殺されまくっていた時代、最狂キャラだったころの裏ボスのステータスらしい。

 あまりにも理不尽な技とスキルでプレイヤーから抗議が殺到し、修正のためのメンテで丸三日かかった致命的で初見殺しのバグ技とスキルも俺はちゃんと所持していた。


 やっべ、所持スキルと権限がすごすぎて、レベル差なんて誤差のレベルで、強キャラじゃね?


 俺がステータス画面を見ながらほくほくしていると、ゆらりと、空間が揺れた。

 まぁ、その表現があっているかはわからないが、とにかく景色が揺れたのだ。

 これはあれだ。魔族が登場するときの演出だ。


 ゲームでも魔族戦は現実世界と引き離し、魔族の有利な精神世界で戦う事が多い。

 俺はどうやら魔族の精神世界に引き込まれたらしい。


 そういえば、レイゼルが闇落ちするきっかけは第三皇子に虐められ、部屋で泣いているところに魔族キルディスが現れ「力がほしいか」と誘ってくるためだ。

 レイゼルはその問いにYESと答えてしまった。

 その時レイゼルは闇の紋章をもらい強くなったのだが……その紋章は心を喰っていく紋章で、徐々にレイゼルの心は紋章に乗っ取られ最後には心を喰われ裏ボス化する。これがゲーム上の設定だ。


 そしてどうやらそのイベントが今この時だったというわけだ。


「力が欲しいか、第八皇子よ」


 ゲームのイベントシーンと同じセリフを吐きながら現れた魔族キルディス。

黒髪のなかなかのイケメン魔族だ。

いかにも悪の道に誘惑しにきましたという魔族の態度に俺はにんまり笑った。


「ああ、もちろんだ。というわけで、俺の前に服従してもらおうじゃねーか!!!」


「はぁ!?」


 と、ぶん殴ったが、さすがにこれはキルディスに躱された。


「い、一体何を考えてるんですか!?あなたは!?」


 俺の行動が予想外だったらしく、キルディスが変な声をあげた。

 だが、戦闘中会話とか、なかなか甘い。

 そんなのだから、ゲームの時も突っ込みのキルディスとネタキャラとして公式漫画でいじられるんだ。


 この魔族、人間と魔族のハーフで、魔族にも人間にも虐げられてしまった不幸キャラ。設定だけなら可哀想なのである。それ故魔族の中でも馬鹿にされる状況に耐え切れず、一発逆転を狙ってレイゼルを悪堕ちさせるのだが、結局レイゼルが裏ボス化して逆にレイゼルに飲み込まれ迷宮の中ボス化という間抜けポジションなのだ。


 こいつは魔王退治後の裏ボスのダンジョン、深淵の迷宮で50Fのボス担当。

 激レアアイテムを所持していたため、リアルマネーのために何百回と戦った相手。

 そうつまり、俺はこいつのスキル、魔法、ステタースなどを熟知している。


 悪いなキルディス。俺はゲームのストーリー通りお前の手のひらで踊ってやる義理も義務もないんでね。ラスボススキルの『強制奴隷』で種族関係なく一人絶対的な奴隷にできる。


 つーわけで、逆にお前を服従させて、俺がこき使ってやろう。


 ギルディスのレベルは100。大して俺のレベルは20。


 だが、このゲーム、純粋な肉弾戦ならレベル差で絶望的な差がつくわけでもない。


 レベルで圧倒的差がつくのは所持魔法数と所持スキル数。


 そして秘儀という必殺技や魔法や攻撃で与えるダメージ量が大幅に違うが、ようはダメージを食らう前に、攻撃をよけてしまえばいいだけのはなし。

 DEXで動ける速さも差はつくがよほどの差でないかぎり絶望的に速度が違うわけでもないのでプレイヤーの腕次第でなんとかなったりする。


 下手なプレイヤーの高レべとベテランプレイやーの低レべなベテランプレイヤーが勝てる世界なのだ。しかも最強バグスキルと魔法を所持した状態なので、所持スキル数と魔法数は下手すると俺の方が多い。なので言うほどレベル差はでかくない。レベル差など廃プレイヤーの俺にとっては些細な事。


「つーわけで!!『ゴールデンフィーバー!!』」


 俺の声とともに、背後に巨大なスロットが出現し、豪快は音をたて、スロットすべてが7を刻むのだった。

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