第26話

 一方、やえと芽依も風呂の中で二人っきりの時間を過ごしていた。

 ぼとぼと、髪の毛から落ちる水玉の音。

 そして綺麗な空を眺めながら膝を抱える芽依、彼女は羨ましそうな言い方でやえに話す。


「あ……。今頃、何をしてるのかな二人は……。もしかして、エッチなことを!」

「気になるなら、あっち行ってみる?」

「えっ……? でも、雨霧くんもいるし……。迷惑ですっ!」

「いいじゃん。どうせ、雨霧くんしかいないし。全員女子だから、何もできないはずだよ?」

「そ、それでも……」


 さりげなくエッチな言葉を言い出すやえに顔を赤める芽依だった。


「でも……、そんなことできるんですか?」

「何が?」

「人のことをすっかり忘れるっていうか……。つらい記憶を持ってるのは理解できますけど、本当に美波ちゃんや私のことまで思い出せないとは……」

「ふーん。確かにみんな同じ中学校だったよね?」

「はい……。一応、美波ちゃんにはそれを言わなくてもいいって言われましたけど」

「美波ちゃんなりに、何か考えがあるんじゃないの?」

「そうですか……?」


 芽依のそばに座るやえが「ふう……」と息を吐く。

 彼女は何も言わずにじっとしていた。


「私は……」


 そして口を開ける。


「はい?」

「人をそこまでいじめるのは初めて見たからね……。だから雨霧くんがうちの部に来るって聞いた時、ちょっとびっくりしたよ」

「何があったんですか?」

「きっと……私を見るとあの子を思い出すから」

「あっ……。あの先輩のことなら……、確かにそうかもしれませんね」

「私が初めて雨霧くんと出会った時は今より明るくてすごく積極的な子だったのに、誰にも声をかけないほど暗くなっちゃって……。でも…今は美波ちゃんと出会って、前よりは明るくなった気がする」

「最近は……、二人で初中やってるらしいです。雨霧くんの体に、今は美波ちゃんのキスマークばかりだから」

「だよね?」


 ……


 てか……、白雪さん先からずっとくっついてるけど、大丈夫かな……?

 でも、白雪さんはなんっていうかずっと俺を安心させるような気がする。それが気のせいかどうかは分からないけど、この人と一緒にいる時間は嫌いじゃないって知らないうちにそう思ってしまう。なんで、そんなこと考えてるんだろう……?


 ずっと誰かと何かをするのが怖かったけど、白雪さんは俺のことを……。

 好きって言ってくれたから、なんか不思議だった。

 ずっと……、ずっと……。


「ううん……。樹くん……」

「美波……?」

「目の前がぐるぐるする」

「えっ? だ、大丈夫?」


 やべぇ……、眩暈か……?


「ちょ、ちょっと待って! あの……、立てる? 立てる……? 美波?」

「ぐるぐるぐる……」

「えっ……!」


 てか、今の白雪さん……裸じゃん。

 このまま放置するのもあれだし……、やっぱりそうするしかないのか。先から動いていなかったからちょっと心配してたけど、本当に眩暈だったのかよ……。早く客室まで運ばないと……大変なことになりそう。


「…………」

「ごめんね……。樹くん、気持ち良すぎて……目を閉じていたら……」

「いや……、気にしなくてもいいよ。客室まで連れて行くから……」

「うん……」


 一応……、浴衣を着せて外に連れてきたけど、全然回復しないな……。

 普段なら絶対見られない白雪さんの弱い姿……。それも…それなりにちょっと可愛いっていうか……。じゃなくて! 彼女の裸を見て何を考えてるんだよ。しかも、タオルで……白雪さんの体を拭いてしまったから……。


「…………はずっ」

「…………」


 てか……、俺女子たちの客室…どこにあるのか知らないけど……?


「ううん……。樹くん」

「う、うん……?」

「あれ? 雨霧くんだ〜」


 すると、真ん中の廊下で浴衣姿の水原さんと山田先輩が手を振る。


「あれ? 負んぶ美波ちゃん? どうしたの?」

「ちょっと眩暈が……」

「へえ〜。二人ともやりすぎじゃないの〜?」


 ニヤニヤしている水原さん……。

 どうやらいやらしいことを考えてるらしい。


「な、何もしてません……!」

「あははっ。冗談だよ」

「一応客室まで連れて行きたいんですけど……、どこですか? 水原さん」

「ううん……。でも、うちの客室ちょっと遠いかも? 二階だから」

「えっ? そうでしたか?」

「うん。先輩がね。今はほとんどの客室が使えない状態だから、空いているところを貸してくれたって。多分、工事とかじゃね? 私たち以外に誰もいないから」

「へえ……、早く寝かせたいけど……」

「それより雨霧くんの客室一階じゃないの? そこで寝かせたら? 寝かせて、さえちゃんに水とかいろいろもらってきた方が良さそう!」

「は、はい!」


 自分の客室に美波を連れて行く樹。

 その後ろ姿を見ていた二人が微笑む。


「なんか、いいね」

「そうですね」

「でも、芽依ちゃん。嘘つくのが上手いね?」

「二人っきりの時間を作ってあげないと、後で一言言われます〜」

「そうかな?」

「私、応援してますよ。あの二人を」

「へえ……、優しいね。芽依ちゃん」

「…………」

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