第22話

 目が覚めた時には、一糸も纏ってない白雪さんに抱きしめられていた。

 昨日……俺らしくない姿を白雪さんに見せちゃって、そのまま彼女が俺の不安を消してくれた。てか、二人とも何も着てないまま寝ちゃって……朝からめっちゃエロい状況になってる。なんで、何も着てないだ……? 俺たち。


 しかも、腕枕とか……もはや夫婦じゃないか? これは……。


「おはよう……」

「おはよう」

「何も着てないのに……、すっごくあったかいね……」

「…………暑くない? 美波」

「今がちょうどいいから……、もうちょっと寝たいな……」

「ダメだよ。学校に行かないと……」

「そろそろ夏休みだから、行かなくてもいいじゃん……」

「いや、夏休み……まだだから」


 部屋に差し込む眩しい日差し、そばにはあくびをする白雪さんがいる……。

 何回もこんなことをやってきたけど、なぜかずっと慣れないことだった。白雪さんとやる時には部屋を暗くしていたから、あんまり恥ずかしくなかったけど……。朝になると、彼女の白い肌が視野に入ってきてすぐ顔が赤くなる。


「ふーん……。樹くん、朝からエッチだね?」

「いいえ……。これは仕方がないことです……。毎回、その話を……」

「だって……、毎回見てもその反応は可愛いから……。仕方がないって知ってるからからかうのよ。ふふっ」

「意地悪い……美波」


 そして俺の上に乗っかる白雪さんが体をくっつけたまま、目を合わせる。


「それで、その不安は消えたの? 寝てる時にずっと私のこと抱きしめてたから、私も不安だったよ。樹くんがどうしてそんなに震えてるのか、分からなかったからね」

「ありがとう。ちょっと昔のことで、怖くて……。昨日……、美波に変なことを言っちゃって……ごめん」

「いいよ。私、樹くんの彼女だから……それくらいは聞いてあげないと……! 何がそんなに怖かったの? 聞いてみてもいい?」

「…………あっ、昨日トイレに行く時、偶然山田先輩と出会って……」

「あ———! そうだよね。言ってた。確かに」

「あの先輩が……、俺をいじめた…あの人とそっくりでずっと不安だった」

「ふーん。そうなんだ……。でも、今は私がいる。そしてやえ先輩は悪い人じゃないから心配しなくてもいいよ」

「うん……」


 確かに……、別人だと知っていたけど、なんでそんなにそっくりなんだ?

 でも、本人だったらすぐ俺を殴ったはずだから……。同じ学校じゃないことに、今更ほっとする俺だった。


「ううん———! 気持ちいい朝だね」

「あの……、服を着てください」

「えっ? いいじゃん。樹くんには見られても平気! でも、昨日めっちゃくっちゃ舐めたくせに、まだ恥ずかしいの……?」

「それはそれ……、これはこれ……」

「ふふっ。分かったよ」

「…………」


 そして制服に着替えた俺たちは、食卓で朝ご飯を食べる。

 でも……、やはり昨日みたいなことはやらない方がいいかも知れない。白雪さんに甘えるのもあれだし……、いくら恋人だとしてもそれは迷惑だったから。あの人さえいなければ、こんな悩みなどしないはずなのに……。ため息が出てしまう。


 いつもより静かな食卓、牛乳を飲みながらちらっと白雪さんの方を見る。


「…………」


 スマホをいじる白雪さんも静かに牛乳を飲んでいた。


「うん? どうしたの? 樹くん」

「いいえ……」

「あ……、スマホいじっててごめん。これ……、芽依が体育祭であったことを教えてくれたから」

「体育祭ですか?」

「うん。誰がバケツを倒したのか、その話をしていたよ」

「あ……、その犯人を見つけましたか?」

「うん。それ、同じクラスの女子たちだったって」

「へえ……、やはりそうだったのか」


 でも、そこまでする必要あるのか……?

 白雪さんがそんなに嫌い……?

 俺にはよく分からない。もしそれが俺のせいなら何も言えないけど、それでもあの人たちのやり方は気に入らない。気持ち悪い。


「わざと、そんなことをしたのは……。私に嫉妬していたからかな?」

「美波に……? 嫉妬を?」

「だって……、樹くんを私の物にしたから」


 向こうから俺のあごを持ち上げる白雪さんが微笑む。

 俺が白雪さんの物になるのが嫌だったのか……?

 でも……、あの人の話はちゃんと断ったはずなのに……、どうして白雪さんにそんなひどいことをしたんだろう。


「で……、どうする?」

「何もしない。私はあんな人たちと関わりたくないから」

「うん……」

「そろそろ行こうかな? 学校」

「はい!」


 ……


 星宮さんには何もしないって言われたから、俺も山田先輩とあの人の関係について考えないことにした。顔がそっくりだとしても苗字が違うし……、言い方や振る舞いも全然違う別人だった。それは、俺が悩みすぎたかも知れない。


 あの人はただ……同じ部の先輩、それだけだ。


 なのに———。


「ちょっと、話をしようか? 雨霧くん」

「はい……? どうして?」

「ううん……。ちょっと気になることがあってね」


 休み時間、廊下で俺に声をかける山田先輩が微笑む。

 人けのないところに俺を連れていく山田先輩。一体何が話したいんだろう? その顔にはまだ慣れていないから、目を合わせるのができなかった。これ、どうしたらいいんだろう……。なんで……、なんで…あの人とそっくりなんだ。双子でもあるまいし、そんなことあるのか。


「…………」

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