第11話 王都帰還
アウドムラ城の巨大な城門がゆっくりと開けられた。門から射し込む夕日に照らされて、足を引きずりながら、汚れた兵士たちが王都の中へと入ってくる。帰還兵たちを見守る群衆の前に巨大な蛇の頭が放り投げられた。ニーズヘッグの頭部だ。傷だらけの筋肉を惜しげも無く晒したまま、ニクスが剣を天に向けて突き立てて、強く誇らしげな雄叫びを放った。群衆が沸き、拍手と歓声が上がる。群衆は次第にニクスの名を連呼し始めた。群衆に向けて一礼したニクスは、今度はドレイクを招き寄せ、共に戦った戦士の手を取ると、その手を高く持ち上げて彼の名を叫んだ。すると群衆は、二人の戦士の名前を交互に叫び始めた。
「ニクス! ドレイク! ニクス! ドレイク!」
群衆からの賛美は帰還兵たちの最後の一人が門の中に入り終わるまで続いた。しかし、後半では群衆も少し飽きてきたようで、いつの間にか、その叫び声が「ニクス、ボンバイエ! ニクス、ボンバイエ!」になっていた。
奇妙な叫び声の中、兵士の最後の一人が入ってくると、ゆっくりと城門が閉まり、あと少しで閉まり終えるというところで、隙間を白い影が走り抜けていった。一匹の犬だった。そう、ひろしである。
足音に気付いて振り返ったドレイクが声をあげる。
「ひろし! 生きていたか!」
ひろしは両手を広げているドレイクの横を通り過ぎ、ニクスの筋肉に見とれているドレミマツーラ師範の方へと駆けていった。ひろしが彼女に飛び掛かろうとした瞬間、横からヨードがその馬鹿犬に蹴りを食らわした。地面を転がって用水路に落ちたひろしは、そのまま下流へと流されていった。
🌊🐶🌊🌊🌊🌊
ドレイクとヨードはアウドムラ国王への謁見の間へと通された。広い吹き抜けの間の先の数段の階の中央の玉座に老人が座っている。老人は黄金の王冠を被っていた。その王冠には角のような突起がいくつもついていて、頭全体を覆っている。王冠というよりも兜というにふさわしい外観だ。それはアウドムラ国王が用心深い男であることを物語っていた。だが一方で、彼はおおらかな人物でもあるようだ。赤いマントはしているものの、中は白いタンクトップ一枚で下は短パンである。ドレイクとヨードは密かに視線を合わせて怪訝そうな顔をした。
二人が片膝をついて頭を垂れると、アウドムラ国王は言った。
「勇敢な戦士よ。面を上げよ」
ドレイクは顔を上げた。国王は続ける。
「戦士よ、名を何と申す」
「デュラハン・アルコン・ドレイクと申します。拝謁を賜り光栄にございます」
「そうか。で、どこから来た」
一瞬考えたドレイクであったが、意を決した彼は真実を述べた。
「アルラウネ公国から参りました」
「なんだと! 君は敵国の人間だったのか! 俺を騙したんだな!」
部屋の隅に立っていたニクスが腰の剣の柄を握った。
国王が老人とは思えないほどの大きな声を発した。
「控えよ! 我が前であるぞ!」
ニクスは頭を垂れると、柄から手を放した。
アウドムラ国王は続ける。
「よく参った。アルラウネ公の遣使として来たのか」
「御意。我が主より国王様への書状を預かって参りました」
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