回想 友との出会いは

 フェルデッド橋の真ん中に、その男は立っていた。燃えるような赤毛をした、鎧を着込んだ大男は……俺の顔を見るなり、値踏みするような視線を向けた。


「ほぉ、あんだが勇者か。姿絵よりも冴えない顔してるじゃねぇか」

「なんですかあなたは……この御方が勇者様と知った上でのこの態度、無礼千万と言わざるをえません」


 俺の後ろを歩いていたエステルが、不快感を包み隠さず抗議する。


「ガイアス=クライオニールだ。ジジイに言われて勇者について行けって言われたけどよ」


 英雄の名を冠するその男は、背負っていた大剣を引き抜き俺の鼻先へと突きつけた。


「雑魚の下には付きたくねぇよな」

「と、取り消しなさい! この事はクライオニール家に厳重に抗議を」

「エステル」


 狼狽するエステルを制止し、こちらも腰の剣を引き抜く。


「実力を知りたいなら……教えてやるだけだ」


 勇者としての命を受けて一年、この手の手合のあしらい方はもう身に染みていた。必要なのは理解させる事だ……上には上がいるという、単純な世界の事実を。


「はっ、そっちのお嬢さんと違って話が早くて助かるね」

「な、何ですかその言い草は!」


 狼狽えるエステルを下がらせ、剣を構える。だがただの腕自慢とは違うこの男の出自に、俺も物申したくなってしまった。


「しかし、クライオニールは礼儀を重んじる英雄の血筋だと思っていたが、ここまで無作法だとはな」


 クラオイニールの名は英雄譚と共に語り継がれている。かつて勇者の仲間だったその初代クライオニール卿が、勇者と出会うまでの英雄譚だ。


 気高く、強く、誇り高く。だがそんな物は、今の世では――。


「はっ、こんな血生臭いご時世にそんな物が役に立つかよ」


 思わず頬が緩んでいたのか、ガイアスと名乗った大男は大剣を構えながら舌打ちをした。


「何がおかしいんだよ」

「いや」


 こちらも剣を構え直す。


 何という事はない、俺は目の前の無礼な英雄の末裔を。


「同感だ……!」


 この時から、存外気に入っていたのだ。

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