第5話

 真桜さんは頻繁に投稿するタイプではないみたいだ。今朝は何も更新がない。

 毎朝、真桜さんの投稿を探すのが日課になっていた。投稿があったらコメントするのになぁと口を尖らせるくせに、投稿があると怖気づいて「いいね」を押すことしかできない。

 コミュニケーション能力の低さに嫌気が差してくる。


 いつも通り出勤し、更衣室で作業着に着替えていると、あくび混じりで五十嵐さんが入ってきた。


「おはよー。今日も暇だといいねぇ」


「おはようございます。まあ、成人式も終わったし、あとは3月まで落ち着きますよ、きっと」


 今、更衣室にはふたりきり。わたしは意を決して五十嵐さんの横顔を見つめた。


「あ、あの、五十嵐さん。聞きたいことがあるんですけど」


「ん、何? 果物の発注のこと?」


「あ、仕事のことじゃなくて……」


 五十嵐さんは少し目を見開いたようだった。先を促すようにうなずいてくれる。


「五十嵐さんって、たしかマッチングアプリで彼氏さんと出会ったんですよね」


「あー、そうそう。最初はアリよりのナシかなーって思ってたんだけど、意外と相性良くってさ……ってどうした? 里見がそういう話振ってくるの珍しくない?」


「ベ、別に……ただの世間話で……」


「そっかそっか、やっと里見も彼氏欲しくなったか~。クリスマスにあたしが寿退社しちゃうかもって話したからか~?」


「彼氏」という言葉にさっと血の気が引いていく。彼氏を欲しがっていると思われることに強い抵抗を感じた。


「違っ……彼氏じゃ……」


「恥ずかしがるなって、普通のことだから」


 普通のこと。

 普通のことをこんなに拒否しているのに、五十嵐さんにはわたしは「普通」に見えているんだ。


 急に息が苦しくなった。普通になれるものならなりたい。そう思っているのに、いざ普通の枠に当てはめられると拒絶したくなる。

 そんな自分が面倒くさいなと自分でも思う。


「自分がいいなって思う人は、いろんな人からいいなって思われてるもんだよ。躊躇ってるうちに盗られるより、自分から声かけちゃいな。あたしにもその勇気があれば、今の彼氏よりイケメンが捕まえられたんだけどねぇ」


 五十嵐さんの言葉はほとんど耳に入ってこなかった。

 その代わり、やっぱり早くお互いの唯一の理解者と出会わないと、という気持ちが強くなった。

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