第19話「はじめてのシチュー」

 げぎゃぁぁぁああああ!


 雄たけびを上げて突っ込んでくるゴブリンが数体。

 臆病なゴブリンは昼間に徒党を組んで冒険者を襲うことは滅多にないが、どうやら少数かつ少女を抱えたライトを与しやすい相手と思ったらしい。


 子供とはいえ、ヤミーは見目麗しい少女だ。

 奴ら的には食指がうごくのかもしれない。


 が──。


「消えろ」

 ジャキッ!


 ──げぎゃ?!


 粗末な武器を手に突っ込んできたゴブリンの真ん前に突き出されたライトの指。

 そこに光が集まっていき──。



 ズキューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン♪



 ボンッ!!


「ふぅー」


 まるで、硝煙でもでているかのように指先に息を吹きかけ、ゴブリンの残骸を無感動に見下ろす。

 数体がまとめて蒸発だ。


「ちょっと前までは、こんなの・・・・にもビビってたな……」


 攻撃力のないライトあh、基本的に敵を倒せない。

 護身用にナイフくらいは持っていたけど、所詮、ライトの系統は『魔法使い』なので『戦士』のようにうまく扱えないのだ。

 もちろん、急所に刺せばその限りではないが、本職とは比べるべくもない。スキルやステータスの補正もかからないから、文字通り原始の戦いとなる。


 それが、いまとなってはどうだ──。


「つおい!」

「おう」


 サムズアップで答えるライト。


 そして、少しずつではあるが感情を見せるようになってきたヤミー。

 言葉を解せるのだから、元からこんな風に無感情で口数少なく、死んだような目をしていたわけではないのだろう。


 ライトを手当てするくらいには、憐憫の感情もあるし、人間らしい生活も送れていたはずなのだ。

 つまり、アグニールによって捕らわれたのは物心がついてからか、物事の分別のできるころになってからだろう。


 だから、どうだ──というものでもないが……。

 ……生まれつきタンクの中だったらよかったというものではもちろん、ない。


「さて、ドロップは──……ま、いいか」

「ん?」


 ほとんど溶けて足くらいしか残ってないゴブリンを拾う必要性を感じなかったライトは早々に見切りをつける。討伐照明の耳も水蒸気になってしまった。


 ──そんなことよりも、まだまだ町まではかかる。


 一応、急ぐ旅・・・ではあるが、

 速度的には、馬車に追いつくのは無理だろう。


 馬車と人間の速度もそれほど変わるわけではない。持久力では比べるべくもないが、実際の速度は少々馬車の方が早いくらい。

 街道の整備状況をみれば、トントンくらいかもしれないな……。


 もっとも、体の弱いヤミーを無理させるわけにはいかないから、ライトは焦って追いかけるつもりもなかった。

 最悪、あの町で追いつけなくともいいのだ。


 そうそうにぶっ飛ばしてやりたいのは山々だが、準備段階を踏みたくもある。

 奇襲がいいか、

 準備攻撃がいいか、

 ──の違いでしかないが、最悪なのが強襲となってしまった場合だ。


 奴らに気付かれた段階で、何らかの対策を取られてしまう可能性が高い。


 もっとも、それでも動かぬ証拠はあるのだ。

 ヤミーという少女に、ライトが見捨てられたという事実。

 これだけでも十分すぎるくらいだ。


 だが、面倒くさいのは困る。

 なにもかも、レーザーで吹っ飛ばすわけにはいかないからな──。

 (少なくとも、ライトは殺人鬼ではない……。)


 ま、焦ることはない。

 命がある以上、ライトが有利なことに変わりはないのだ。


「…………よし、そろそろ休憩するか──食べたいものはあるか?」


 そうと決まれば、まずは腹ごしらえだな。

 結構歩いたし、ヤミーも慣れない環境で疲れているかもしれな──。

「たべ、る?」


 ……おいおい。そこからかよ。


 ど、どうやってタンクの中で生きてたんだ??──なーんて、まさかそんなことを聞けるはずもなく、

「…………なんでもない。まず水場を探そう」

「こくり」


 見てろよー。一見何もないフィールドに見えるだろうが、くくく!

 ソロぼっち冒険者なめんなよー。


「ほら、あった……!」


 ライトは慣れた動きで、さっそく水場を見つけると、すぐに荷物を卸して、体をほぐす。

 だいたい水場のある場所の相場ってのは決まってるのさ──。


 それにしても、あれだけの荷物を持っていたのに、まだまだ余裕がある。

 やはり、Lvアップのおかげか思った以上にキレがいい。


 ……とはいえ、さすがにこの荷物の量はな──。


 チラッと見下ろす荷物の山に、我ながら呆れる。

(ちょっと欲張りすぎたか?)

 死にかけたわりに、

 ついつい貧乏性を発揮してBOSS部屋のそれを拾ってきてしまったが、少々やりすぎだったかも。


「ほれ。水浴びして来い」


 タオルを渡してやる。

 さすがに、もう洗ってやんねーからな! 色々、人道的にな!!……同義のほうか?


「ん!」


 ヤミーも二度目ともなれば意図を察したのか、小さな泉に体を躍らせる、

「ひゃ!」

「ん?!」


 しかし、その悲鳴に慌てて駆けつけるライトだが、見れば水の冷たさに驚いているだけらしい。


「ったく、ビックリさせなんよ」

 モンスターでも出たのかと──……って、すまん。


 何も言わずにクルリと踵を返すライト、

 無言で火を起こす。


 うむ、無心無心。

 見てない見てない。


 …………さて、まな板はどこだったかなー。


 ライトが野営に選んだ場所は、ダンジョンのある荒野から街に向かう中間地点で、ちょっとした森になっている場所だ。

 ゴブリンあたりが根城にしている可能性は高いが、昼間の様子をみるに、数はそう多くないはずだ。


 そして、この馬車は水場となる泉もあって、まきも採れて、少し行けば沢もある。

 うむ、理想の場所。


 手早く、天幕を立てると、鳴子を周囲に仕掛けておく。

 ついでに薪を集めつつ、あっというまに野営準備を整えると、泉から上がったヤミーが火にあたっていた──って、服着ろ、服!


「ん……」


 すごく面倒くさそうに服を着るヤミー。

 どうも苦手なようだ。

 だが、許さん! 許さんったら許さん! 色々許されんから許さーん!!


「……ほら、あったまるぞ」


 さっき火のそばに置いたケトルからカップに湯を注いでやる。

 お茶なんて気の利いたものはなかったの松の葉・・・を湯がいて、ちょっとしたお茶風にした白湯だ。


「くぴくぴ……」


 ほー。


 小さな頤を鳴らしながら白湯を飲むヤミーが、

「にっ」


 嬉しそうに笑う。

「お、おう」


 温かいだけの白湯で喜ばれるとな……ポリポリ。


「ちょっと待っててくれ、すぐそこの沢で釣りしてくる」


 ライトは、自分の荷物から数種類の釣り道具を取り出す。

 簡単な仕掛けと、釣り糸、そして小さな弓だ。


「……お、いるいる」


 こういう人気ひとけのない森にいる魚はれてなくていい。

 とはいえ、ゴブリンなんかが採ることもあるだろプから、人影(?)には敏感だ。


「仕掛け用の糸──よし! 釣り針、よし!……あとは、っと」


 仕掛けは二種類。

 籠のような罠──やなを、沢のそばに生えていた節が空洞になった草を折って、手早く作る。

 あとは、それを流れが急な場所にしかけて、反対に流れが緩やかな場所には、仕掛け用の糸を沢の端と端に渡して、その間に何本もの釣り糸を垂らす仕掛け──簡易延縄はえなわだ。

 ──これらは放置するだけでいいので楽でいい。


 そして、こいつ──。


 キリキリ……!

 ──引き絞られる弦と。つがえた矢。


 その先には、

「……お。いたいた」


 黒い魚影がじっとして動かない。


 その先、

 ライトの構える小さな弓には、先端に小さな返しが付いた矢がつがえられていた。

 これ、矢の後端に糸が付いているのだが──つまり、魚用の弓だ。


 そして、


「ふっ!」


 パンッ! ピチピチ!!


「おーし!」

 捕ったどー!


 ぱちぱちぱち


 離れたところで見守っていたヤミーが拍手で答えると、小さく笑みを返すライト。

 へへ。

 これで、最低半分ずつでも食えるな──っと、もう一匹発見! てりゃ!!


 パンッ!! ぴちち!


「おっし! こいつはデカイ!」


 種類は知らないがなんかの川魚だ。

 基本、川魚に毒魚・・はいないので内臓さえとれば、食える。


 まぁ、毒はないとはいえ、寄生虫がいるので、しっかりと火を通すのが望ましい。


 寄生虫も、やりようだけどね。


 なにせ、ソロの長く、過酷な孤児院時代を過ごしていたライトはこのあたりの知識と経験は人一倍ある。

 根城にしていた街の郊外の森でも、時々こうして食料を取っていた。


 なにせ、ハズレ属性ですからね~!!


「お! 仕掛けのほうもいいな!」


 ピンピンと簡易延縄の糸罠に魚がかかったのが、数本の釣り糸全てが張って・・・いる。こりゃいいや。


「あとはコイツも──おぉぉ! うなぎ? いや、ナマズか!」


 ざばぁぁ……!


 やなのなかには、デッカイ黒魚。

 どうやら、ライトにおどろいてグーグー鳴いているが……許せ。お前らは今日の飯か明日の朝飯だ!


 南無さん!!



 ……………パチパチパチ。



 焚火のはぜる音を聞きながら、沢で手早く内臓を処理したライト。

 あとは、火の落ち着いた焚火で、

 雑に串に刺したそれを直火の傍で炙っておく。たぶん、岩魚か何かの仲間だろう。形がよく似ている。


 そして、大物のコイツ。


「ナマズはちょっと臭みというか、泥臭いというか……クセがあるからな──こいつはこうしようか?」

「こくこく」


 わかっていないなりに、興味深そうに見ているヤミー。

 ふふ。

 まるで生徒と先生だな。


 ジーっと、ライトの手つきを除くヤミーの、その目の前で鮮やかな手さばきをもってナマズを解体していくライト。

 まず内臓処理。

 そして、エラごと頭を落として、水でお腹周りと血をよーく洗う。


「ナマズはさ、人気ない魚だけどさ、俺結構好きだぜ?」


 泥臭いとか言われているせいか、あまり人気のないナマズ。

 だが、ちゃ~んと処理すれば、脂がのっていてうんまいのだ!


「で──本当は泥抜きとかしたらいいんだろうけど、今日はこれを使う」


 じゃん!


「野生のニンニクとハーブ~♪ へへ、このハーブ、薬草なんだけどさ、こうやって料理にも使えるんだぜ?」


 なにせ、薬草採取ばっかりやっていたライトだ。

 おおむねの野花の知識は頭に入っている。


「そして、みつけてラッキー、野生のニンニク~♪」


 そう。この野生ニンニクだって、街の人はあまり知らないようだが、群生しているところには群生しているのだ。

 そして、このニンニクそっくりの香りをした葉が、また、たまらない味なのだ!!


 精もつくし、味もよい!……最高の野草だ!

 なんと、少量ならば生でも食えるほどだ。

 (あまり食べ過ぎると、腹を下す・・・・ので用法容量には注意ね!)


 ……で、だ。

「こうして、ニンニクを刻んでハーブと揉みこんで、腹につめるだろ? そして、岩塩で味を調える──っと」


 あとは、大きめの葉っぱでくるんで、焚火のしたの埋めればあとは待つだけ。

 ようは、ナマズの蒸し焼きだ!


「へへ、その間に、こっちを食おうぜ」


 こんこん。


 簡単に作ったスープならぬシチューをヤミーにごちそう。

 アグニール達が放棄した荷物が多かったせいか、豪勢にも肉多めにチーズたっぷりだ。


 メニューは簡単、肉シチュー♪


 乾燥野菜と干し肉を投入し、水でコトコト煮込む。

 このままだとしょっぱ過ぎるので、一度、火を止めて冷ますと、肉や野菜が沈殿していくので、それを見越して上澄みを半分ほど救って別の鍋に開けておく。

 あとはもう一度水を足して、再度煮込む。


 ちなみに映した上澄みも使う。明日のスープの出汁だ。

 で──シチューのほうが、コトコト言ってきたら、ちょっとの小麦を足して、ダマにならないように少しずつ入れていく。


「ぐぅ……」

「はは、もうちょい待てよ」


 ヤミーがよくわからない感情の顔でライトと鍋を交互に見ている。

 多分……食事がわからないのだろう。ただ、なんとなく体がそれを欲しているということだけ。


「さて、仕上げにチーズを削って入れて──」


 ゴーリゴリゴリ。


「──ハーブを散らすっと」


 パラパラと、

 白くシットリしたシチューにハーブの青さが鮮やかに映る。


「……ん。いい味だ」

 素朴な素材と、ありふれた材料だけど、これがまた、うんまいんのだ!!


「ほれ──」

 器に並々とよそってやると匙と一緒に渡してやる。

 アツアツのそれなので一応ふーふーしておく。


「火傷するなよ? ゆっくり食べていいからな」

 我ながら世話を焼き過ぎだと思うが、成り行きとはいえ、彼女には命を救われているし──なによりも境遇が重なる。

 そして、一人ぼっちのライトにとってはかけがえのない隣人へとなりつつある。


「あつ、い?」

「おう、こうやってな──」


 一口匙ですくって食べるしぐさをして見せる。

 うむ、うまい──。


 それをみて、ヤミーも、


 あーん


「ん────ッッ」


 パクッとマネして食べたヤミーが舌をだしてあちー!って顔をしている、あははは、やると思った──……おっと、危ない!


 器をひっくり返しそうになったので素早くフォロー。

 ふぅ……。


「ゆっくり食え、ゆっくりな──」

 ふー……ふー……。


 息を吹きかけ、シチューを覚ますしぐさを教える、

 ヤミーはといえば、今度は疑わしそうにライトを伺いながら、ふーふー、と息を吹きかけてから、ジュズズ……と冷ましたそれを一口ひとくち────。


「ん!!」


 今度の変化は、劇的かつ分かりやすい。


「うめぇだろ──いっぱいあるから好きなだけ食え」

 絶食状態の人間に食わせていいのかどうかと聞いたこともあるが、どうなんだろうな。


 ゆっくり食わせればいいか。

 食い過ぎない程度に──……。


「ほら、パンだ。一緒にたべな」

 シチューだけだとアレなので、大きな黒パンをモリッ! とナイフで抉るように切り分けると、ヤミーの小さな手にのせてやる。

 これもわからなさそうなので、食べてみせる。


 もっしゃもっしゃ──うむ……いつもの味。


 これは、街でまとめて焼かれた黒パンだ。


 少々日が経ってはいても、

 街の有名店で焼かれたこの黒パンはシットリした触感を纏ってくれていて嬉しい。


 おそらく包装の油紙に工夫があるのだろう。

 その分、ちょっと値が張るが、堅いパンを食って口を怪我するよりはいいし、なによりうまいものは活力をあたえるからな──。


 もり、もり、


「ごくっ。……酸味がうまいだろ?」

 行儀悪いと思いつつも、もごもごしながらヤミーにもパンを食べさせる。


 じー


 恐る恐る、カリカリと口に含むヤミー。

 どこかリズチックで可愛い。


「ン……?」


 んー??

 劇的というほどではないが、それなりに食えるなー? って感じの顔だ。


「はは、シチューにつけて食ってみな」

「ん……? しちゅー…………んん!!」


 半信半疑で、シチューにべちょっとつけたパンを頬張るヤミー。

 その顔が年相応の子供のようにほころぶ。


 うむうむ。


 パンとシチューの組み合わせは神だよな。

 わかるわかる。


「さーて、まだまだあるから好きなだけ食え。だけど、お腹ポンポンになったらやめろよ」

「ん、ん!」


 口をプクッっと膨らませながら、ヤミーは何度も何度もうなづく。

 シチューと黒パンが偉くお気に召した様子。


 ……なんだろな、餌付けしている気分だ。

 まぁ、悪い気はしない。

 今までは森で過ごすときも、一人だったからな──。


「たまには、な」


 ライトだって、好きで一人なんじゃない。

 いつだって、光属性は及びじゃなかっただけだ。

「はぁ……」


 ポゥ……!


 いつの間にか陰り始めた森の闇に築いたライトは、そっと『灯火ブライト』の魔法で照明とする。

 森の印影があっという間に遠ざかり、昼間同然の明るさだ。


 これならゴブリンもおいそれと近づくまい。

 あとで『安息光サンクチュアリ』の魔法も使っておこう。


 あれなら、モンスターも嫌がって近づくまい。


 ……それにしても、

 もりもり、と食べ勧めるヤミーを見ていると、シチューは全部なくなりそうだ。


「よく食うなー。ま、遠慮はしなくていいかなら」


 なにせ、まだまだ食事は続く!

 ……なので、ライトはそろそろ、メインといくことに。


 もちろん、メインは魚料理2種。


 一品目は、串焼き。

 雑に差して焼いただけだが、これがまたうまいのだッ!


 パリッ。


「ん。いける──」


 肉とは違ったたんぱくな味。

 綺麗な泉の水で育ったせいか、臭みもない。

 香ばしく焼けた皮もパリパリでうまい。


「ん」

「食うか?」


 こくこく。


 欲しそうな目で見るので、パンを平らげらヤミーの手に串焼きを握らせる。


「目ぇ、つくなよ。串はとがってるからな」

「こくこく」


 ……わかってんのか?


 そう思ったが、ライトの食べる様子をみていたのか、同じように上手に食べるヤミー。

 側面からがぶりと食らいつき、半分ペロリと平らげると、

「にっ」

 満足げに笑う。

 そのまま、骨を器用に食べ分けつつ、モリモリと。


 学習能力は高そうだ。


「さて、じゃ、こっちも行くかな──」


 焚火に中に放り込んでいたナマズ料理を引っ張り出すライト。

 灰を被ったそれは、緑の葉っぱが茶色になってパリッパリだ。


「んむ、いけそうだな」


 くんくん


 その上から匂いを嗅ぐと香ばしい香り。

 ちゃんと蒸されている証拠だ。


 ぱりぱりばり──。


 ほわぁ……。


「んー! たまんないな!」

「んー!」


 ナマズの香りというよりもニンニクの香りだろうか。それらが複雑に絡み合った香りが随分食べ勧めた二人に食欲を刺激する!


「よ~っし、器貸してくれ」

「ん!」


 びゅ! と勢いよく差し出されるそれに、身をほぐして乗せてやるライト。

 ちゃんと、身だけでなく、程よく蒸されたニンニクとハーブの部分もだ。


 あと、お茶はお代わりしとけ、喉につかえるからな──コポコポコポ。


「どれ、……食うかな」

 あむ。


 むっちゃむっちゃむっちゃ……。


 ッッッ!


「うんんんんま!」

「んまー!」


 やッばい!

 あっぶらのりすぎでしょー!!


 うま!

 うま!


「うますぎぃ……!──そうか、泥くさくもないから、ダイレクトにナマズの味がガツンと来るんだな!」


 そういえばここ、清流だったな。

 多分、小魚を追ってこんなとこまで迷い込んだナマズなのだろう。


 魚が豊富で競合相手もいないもんだから、まるまる太ってしまったというわけだ、ごちそうさまです。


 もっちゅもっちゅもっちゅ!


「ん、ん、ん!」


 ヤミー大興奮。

 ナマズ一匹を、ペロリと平らげてしまったよ……。


「ポ、ポンポンか?」

「ん……」


 言うが早いか、トローンと瞼を重くするヤミー。

 はは。やっぱ子供だよな──。


「いい、いい、そのまま寝てろ」


 ライトが何を言ったのかと反応するが──優しく頭を撫でると、そのまま抱き上げ、天幕のなかに敷いた毛布の上にのせてやる。

 その間に、ヤミーの寝床を整えるライト。


 夜はなんだかんだで冷えるからな……。


 焚火から、ほどよい感じの炭火を何個か取り出すと、鍋の蓋にのせて、ヤミーが寝るであろう場所へ。

 そして、木の棒で軽く穴を掘ってそれを置き、また土をかぶせる。


 あとは、その上に毛布を敷くだけ。

「こんなもんか?」

 簡易、床暖房だ。これがまたあったかいんだ。

 ヤミーを毛布でくるんでやると、シカの皮で作った水筒に、お湯を入れて、それも毛布の足元に置いてやる、言わずと知れた湯たんぽ。


「さて──…………」


 ふぅ。


 すぅ、すぅ、と寝息を立てるヤミーの顔をなんとなく眺めつつ、視線を森の上に輝く夜空に向ける。

 光量をおとした『灯火ブライト』の先に、星が瞬いているのが見えた──。



 長い……。


 長い……。



「長い一日だったな──」




 ガクリと顔を落としたライトは、膝の間に埋めると、静かに声を殺して泣く。

 なんで泣いているのか自分でもわからなかったが、濃密すぎるその一日にライトの感情が爆発したのだった……。

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