第52話 清楚でエロス

 夏祭りは大勢の人がひしめき、賑わっている。


 しかし、彼女が通り過ぎる時、束の間、静寂が訪れた。


 そして、すぐに……


「「「「「……美人さエグッ」」」」」


 そんな称賛の声が漏れ聞こえる。


 やはり、誰が見ても、芽衣ちゃんはそれくらいの美女なのだ。


 まだ高校生で、性格には美少女なのだけど。


 すれ違うどの大人の女性よりも、大人びている。


 というより、溢れ出すオーラが違う。


 もはや、レベチだ。


 俺もちょっと前に比べたら、男としてマシになったとはいえ、これだけの美女のとなりを歩くのは……今さらながら、気が引けてしまう。


 そもそも、俺の彼女はリナちゃんであるから、そういった意味でも及び腰になってしまうのであって……


「昇太くん」


「は、はひッ?」


 ふいに呼ばれて、変な返事をしてしまう。


 俺クソダサ過ぎだろ……


「私、あれが欲しい」


「んっ? べっこうあめ?」


「そう。昇太くんも一緒にどう?」


「そうだね。せっかくのお祭りだし、それっぽいモノをいただこうかな」


「決まりね」


 2人して、その屋台に向かう。


「すみません」


「らっしゃい! おっ、これまたとんだ美女ちゃんだね~!」


「うふふ、ありがとうございます。べっこうあめ、2つ下さい」


「あいよ!」


 威勢の良い店主がパパッと用意をしてくれる。


「はい、おまち! とびきりの美女ちゃんだから、サービスしておくよ!」


「まあ、ありがとうございます」


「彼氏くんも幸せもんだなぁ、こんちくしょう!」


「い、いえ、俺は……」


 俺は色々な意味で苦笑しつつ、芽衣ちゃんにリードされる形でその場から離れる。


「あそこで休みましょう」


 用意されていたベンチスペースにて、腰を下ろす。


 ようやく、ひと息つくことが出来て、わずかにホッとした。


「じゃあ、早速いただきましょうか」


「うん、そうだね」


 思えば、べっこうあめなんて舐めるの、小学生の時以来じゃないかな?


 中高生になると、夏祭りってリア充の巣窟になるから。


 とてもじゃないけど、以前の陰キャな俺には訪れる勇気が湧かなかった。


 そんな俺がいまは、誰もが見惚れる美女と共に、夏祭りを楽しんでいる(?)


 落ち着け、俺。


 とりあえず、このべっこうあめを舐めて、少し気を落ち着けよう。


 久しぶりにチロッと舐めるべっこうあめの味は、やはり懐かしい。


 その懐かしさにふけることで、乱れかけた気持ちも少しばかり整う……はずだった。


 けれども、俺の目論見は外れた。


 なぜなら……


 ちゅぱッ、ちゅぷッ。


「……んッ、あッ」


 目の前の超美少女さまが……エロい声を出し始めた。


 べっこうあめを舐めながら……!


「はんッ、あんッ……」


「め、芽衣ちゃん?」


「……あっ、ごめんなさい。つい、嫌らしい声が漏れちゃったわ」


「な、何でまた?」


「それは……」


 芽衣ちゃんは、べっこうあめをジッと見つめながら、


「……予行演習?」


 極めつけに、俺の方を向いて小首をかしげる。


 賢くマジメな清楚系美女でありながら、超あざとムーブも軽やかに決めて見せる。


 いや、決して軽やかなんかじゃない。


 ねっとりと絡みついて重い。


 この甘ったるさが……


「……私、ちょっと前まで、毎日のようにセッ◯スをしていたから」


「ぶふっ……」


「でも、今はそれもやめて……けど、そのせいか……無性に体がうずいちゃうの」


「そ、そう……なんですか」


「ごめんなさい、欲求不満の女で」


 ちゅぱ、ちゅぱ。


「はぁ、はぁ……」


 ゴクリ、と息を呑んでしまう。


 俺はもちろん、大切な彼女であるリナちゃんが1番だ。


 けど、これだけの超美少女である芽衣ちゃんのエロムーブを間近にすると……


 どうしたって、男のさがで、こちらも吐息と心拍数が乱れてしまう。


 そして、それは俺だけではなく……


「「「「「……クッソエロっ」」」」」


 周りの野郎どももしっかりと反応していた。


 ていうか、このままだとヤバい。


 前述の通り、夏祭りは生粋の陽キャどもの遊び場だから。


 いくら俺と言う男付きとはいえ、強引なゴリ押しで芽衣ちゃんが誘われ、最悪、襲われてしまうかもしれない。


 見ず知らずの男たちに……


『『『『『『ウケケケケケケェ!』』』』』


『きゃあああああぁ!?』


 ……妄想……いや、想像した瞬間、俺は……


「……芽衣ちゃん」


 彼女の手を引いて、立ち上がっていた。


「昇太くん?」


「行こう」


 彼女の返事を待たぬ内に、俺はサッとその手を引く。


 抵抗を感じなかったので、同意してくれたらしい。


 半ば夢中になって人混みの中を歩いて行く。


 やがて、人気の少ない林の中にやって来た。


「……あの、昇太くん?」


「ハッ……ご、ごめん。いきなり、こんな所に連れて来て」


「ううん、それは構わないのだけど……」


 その時だった。


「……あんっ♡」


 急に聞こえた艶めかしい声に、俺はハッとする。


 そっと、2人して木陰から辺りを見渡すと……


「……あ、あれは」


 何ていうか、その……カップルさんが、励んでいらっしゃった。


 浴衣姿で、まあまあ乱れて。


 俺はにわかに慌てふためくけど、


「……ふぅ~ん」


 芽衣ちゃんは、そんな慌てた素振りを見せない。


「気持ち良さそうね」


「め、芽衣ちゃん?」


「でも、腰使いがまだまだね。昇太くんの方が上手なんじゃない?」


「いや、何で分かるの?」


「だって、里菜ちゃんが散々と自慢して来るから」


 芽衣ちゃんは微笑みつつも、どこかムスッとしたように口を尖らせる。


 何とも不思議な表情をしていた。


「お、俺なんて、そんな……」


「あっ、終わったみたいね。あの彼、恐らくは早……」


「ストップ!」


 俺がつい声を出すと、


「誰かいるのか!?」


 と、カップルの男が声を上げる。


 俺たちはとっさに木陰に隠れた。


「……気のせいか?」


「ねぇ、続きは……ベッドの上でしない?」


「ああ、良いぜ」


 カップルはラブラブな様子で去って行く。


 それを見届けると、俺はホッとした。


「ふぅ、危なかった……」


「……あんッ」


「んっ……?」


 一難去ってまた一難って言うことわざがあるけど。


 正にその通りというか……もう、これ一難どころか、十難、いや百難くらいかも。


 だって、いつの間にか俺の手が……芽衣ちゃんの胸を掴んでいた。


 もちろん、偶然のことである。


 さっき、とっさに隠れたから……


「ご、ごめん!」


 俺は慌てて手を放す。


「わ、わざとじゃないんだ」


「……ええ、分かっているわ」


 芽衣ちゃんはわずかに吐息を弾ませつつ、浴衣の胸元を直す。


「ていうか、わざとでも構わないし……その方が、嬉しいわよ?」


「め、芽衣……ちゃん?」


 彼女の口元が妖艶に微笑む。


「ねぇ、昇太くん」


「は、はい?」


「今から私と……浮気しちゃう?」







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