理由(ワケ)ありの男 ─ 一週間で彼氏が出来る方法を教えます、ワケありですけど(笑) ─

ぬまちゃん

プロローグ 土砂降りの日曜日

 あーあ。何よぉ、もー。


 おかしいなあ。


 アタシの頭の中には、朝、出がけに見た今日の占いでは最高の日だって言ってたのにぃぃぃ! …… と叫んでいる小さなアタシがいた。


 都心でショッピングを楽しんで、美味しいご飯を食べて、それから、ほんの少しだけ、本当に少しだけ、ため込んだ仕事を片付けるために会社のオフィスに一人立ち寄って誰もいないフロアで集中して仕事をこなす。


 そして、軽く疲れた自分にご褒美をあげるため、会社が入っているビルの地下にある、いつも立ち寄る一人飲みを楽しめる大人の隠れ家的なバーに吸い込まれていく。そして、ほんの少しだけお酒を飲んで、久しぶりにゆっくり休日を満喫したと思っていたのに。


 しかし、バーの出口から階段を上がり切ったところで、アタシの幸せはいきなり冷たい現実に引き戻された、まだ夜と言うには早い夏の夕方。


 道路の向こう側にあるはずの、ほんの少し離れた信号機の赤い色さえ見えないぐらい、物凄い雨粒が天のかなたからアタシの佇んでいる歩道のアスファルトに向かって突っ込んで来る。


 この状態で、カサもささずに、レインコートもなしに外に飛び出していったら、最初の三歩でアタシのブランドものワンピースは洗濯槽にある時と同じになるのは『1+1』が『2』なるのと同じぐらい確実だった。そうなればとうぜん下着もプールで楽しんでる水着と同じ状態になるし、お気に入りの履物も、くまさんポイントのはいっている靴下もびしゃびしゃになってしまって、二度と履けなくなるだろう――。


 そう思って、途方にくれていた時だった。


「あー、やっぱり降って来たか。天気予報は見ておくもんだなぁー」


 そう言いながら、同じように階段を上がって来た男の人が大ぶりな傘を広げて、その傘を突然アタシに差し出した。アタシは、いきなり差し出された傘をみて反応することが出来なかった。


「オレは、その角を曲がったところまでだから、この傘を使いな」


 男の人は、そういって半ば強引に男物の傘をアタシに持たせると、あっという間に雨煙の中に消えていった。傘を受け取ったアタシは、少しボーっとしてから、我に返って考えた。


 ちょっとまて、これだけ無茶苦茶に雨が降ってたら、いくら大きな傘でも濡れるだろう。そう考えたけれど、男の人に傘を譲り受けたのに、またバーに戻って夕立が収まるのを待つのは人としてどうなの。とも思ってしまった。


 傘を貸してくれた男の人は私の頭一つ分あるぐらい背が高くスラリとして、駆け出す姿も颯爽としていた。これで、後で傘を返す時に夕立上がるまでバーで飲んでました、そういうわけで傘は使いませんでした、でもありがとうございます。そういって、傘を返すのも、アタシの女としての力量を試されてしまうわけで……。


 男は度胸だけど、女だって度胸だ!

 彼から受け取った思いを繋げない女にはなりたくはない。


 いや、でも、ホントは一瞬考えた。アタシが身に着けている肌着も含めての全てのお値段を。これが全部パーになる可能性と、傘を貸してくれた男性とお近づきになれる可能性と。

 アタシもそろそろ彼氏が欲しい年齢なわけだし、それに今日は最高の日だって占いにもでてたし。


 よし、女は愛嬌だ。

 ここは一発アタシの根性を見せるか。


 そんなこんなで、アタシが日曜日に着て行ったモノは全て全滅してしまいました。

 ──合掌――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る