枝の記憶

俺はとても低い地点から公園を眺めいた。

しかしおかしい。

辺りが暗いのだ。そして、体を動かすことが出来ない。固定された視点から斜め上を見ている。

脚立から落ちて怪我でもしてしまったのか、こんな時間になっても助けが来ないとは、何かがおかしいと思ったその時だった。

「やめてっ」

女性の悲鳴にも似た声が聞こえる。

そして、走って近づく足音の振動が身体に伝わる。

大丈夫ですか?と声を出そうとするが声も出せない。


足音は次第に近づく、それが2人の人間の音だとわかった。

女性が誰かに追われている?

すると、固定された視点に女性が飛び込んできた。

足がもつれて倒れるように俺の目の前に転んだ。制服姿だ。おそらく俺たちの通っていた高校の制服だと思う。

そんな彼女の恐怖に歪んだその顔になぜか見覚えがあった。

その顔は、真っ直ぐに走ってきた方向を向いていた。目には涙か浮かんでいる。

よく見ると、その女性の手には血がついていた。

俺は声をあげることも出来なければ、動くことも出来ない。

まるで、そこに存在していないかのように見ることしか出来なかった。

「やめて!目的は?どうしてそんな事するの!」

ゆっくり近づく黒い影、それに向かって女性が叫ぶ。

その顔の既視感の正体がわかった。母だ。母の面影があるのだ。

そして黒い影は立ち止まった。

手には何かが握られている。

黒い影は彼女の口を鷲掴みにし、言葉を奪った。

暴れる彼女、黒い影は手に持っているものを振り上げる。


そして、この世のものとは思えない残酷な音が響き、俺の視界は真っ赤に染まった。

彼女の血で。

そして、俺の意識はまた消えてしまった。

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