しよう

「えっと……好き?」

「あぁ」

「うん。私も好き」


 ま、そうなるよなと俺は苦笑した。

 俺が淫魔として生きているのだから分かることだけど、やはり俺を含めてアリアたちの感覚もそうなのだ。

 同族意識や仲間意識、親愛という感情は抱くがそれは決して恋には発展しない。

 アリアは体の関係を持つのは俺だけが良いと言ってくれたり、常に俺の傍に居たいと言ってくれたけどそれは彼女の持つ強すぎる親愛からのものだ。


(それはそれでちょっと悔しい……って思えるのも今だからか)


 なんてことを思っていると、アリアが口を開いた。


「う~ん……なんだろうこの感じ」

「どうした?」

「ううん、取り敢えず続き……聞いてもいい? どうしてここに?」

「……そうだな」


 って、告白のせいですっかりサキュバスに対する興奮を忘れていた。

 それを思い出すと改めてアリアが目の前に居るせいで再び鼓動が激しくなり、体が熱くなって大変なことになってくる。

 アリアもやっぱりそれを察したようで、心配をしながらも触れてはダメだと感じているようで……本当に優しい子で涙が出そうになる。


「その……信じてもらえないかもしれないんだけど――」

「信じるよ。ライアの言うことは何でも信じる」

「……ははっ、そっか」


 それならと、俺は今の現状の説明と自分のことについて話す。

 俺は元々人として生きていたこと、ふと気づいた時にサキュバスから生まれた赤ん坊になっていたこと……その他にも話せることは色々と話した。


「……そうだったんだ」

「あぁ。驚いたよな?」


 アリアはジッと俺を見つめたまま、小さく頷いた。

 ただ俺としては少し安心したことがあって、こんな突拍子のないことを話したというのにアリアはずっと聞いてくれた。

 それこそ途中で一切の口を挟むことなく、一度たりとも何を言ってるんだと、嘘を言うじゃないといった表情をしなかったのだ。


「でも、今の俺は間違いなく淫魔だ。母さんの息子であり、アリアたちの同族であり魔族だ」

「うん。それは間違いない――今のライアは人間じゃない」


 そう、今の俺はもう人間じゃない。

 人間だった頃の記憶を持っているだけの魔族……それは何も変わることじゃない。


「けど……そこからが問題なんだね?」

「あぁ……」


 そして今、俺に起きていることもちゃんと話した。

 今まで淫魔として生きていたから大丈夫だったはずの感覚……それが耐性のない人間のようになってしまい、昨日からこの里の中に居ると興奮が全く冷め止まないことも伝え、どうしようかと困っていることも全部隠さず伝えた。


「すまん。あまりに情報量が多すぎるな」

「そうだね。それを知っているのは私だけ?」

「あぁ。母さんにも……まあ母さんはある程度気付いてるかもしれんけど、こうして話をしたのはアリアだけだ」

「そう……ふふっ」


 何やら嬉しそうに微笑んだアリアに俺は改めて視線を向けた。

 彼女が放つ色気もさることながら、やはりただでさえ見た目があまりにも整いすぎている彼女が笑顔を浮かべると、それは心臓に悪いレベルでドキッとする破壊力だ。

 サキュバスである彼女がエロいだけでドキドキするならまだしも、圧倒的なレベルの美少女ってだけでこれなんだ……本当に俺、どうなっちまうんだろうな。

 とはいえ、今はそんな不安よりもアリアの言葉を待つとしよう。

 アリアはジッと俺を見つめたまま言葉を続けた。


「正直なことを言うと……かなり嬉しいかな。確かに驚きの連続だったけど、私だけに話してくれたっていうのは本当に嬉しい。ライアに心から信頼されているような気がしてね」

「いや、俺はアリアのことはもしかしたら母さん以上かもしれないぞ? 母さんには絶対に言えないけどさ」

「そうなんだ……それももっと嬉しくなっちゃうよ」


 アリアは空を見上げた。

 月明かりに照らされる彼女は確かにサキュバス……だというのに、まるで女神のように見えるのは今更か。


「最初、どうしてライアはこんなにも感情豊かというか……色々なことを知ってて年上のように見えるのか疑問だった――なるほどね。そんな秘密があったのなら納得は出来ても想像なんて出来はしないね」

「だろうな。世界の隅々まで探せば分からないけど、前世の記憶持ちは今のところ俺だけだろうし」

「そうだね。お母さんからもリリス様からもそんな話は聞いたことないし、たぶんそれはライアだけなのかな」


 前世の記憶持ちが居れば……まあ、それを表沙汰にしなかったら分からないけどそう何人も居てたまるかとは考えてしまう。

 でも……こういう時、仕方ないとは思っても自分が情けない。

 アリアは俺のことをしっかりと理解してくれて、こんなにも優しくて嬉しくさせてくれる言葉を届けてくれているのに、俺はそんな彼女を直視出来ないというヘタレっぷりだ。


「ライア」

「っ……なんだ?」

「近づいても良い?」

「……体の変化は抑えられないけど良いか?」

「え? あぁそっか。良いよ全然、むしろサキュバスとしては嬉しいことじゃんか」


 ……まるで初めて風俗に行った時、経験豊富な嬢を相手にしているみたいだな。


(風俗の経験なんてないけど……こんな感じだろきっと)


 もうどうにでもなれと言わんばかりに、俺はその場から動かずにアリアの接近を許し……彼女はギュッと俺に抱き着いた。


「っ……」

「大丈夫?」


 濃厚なサキュバスの気配に体の全神経が沸騰したかのように熱い。

 これが病気でもなんでもなく、極限を越えた興奮というのだから恰好が付かないしあまりにもダサいけどな。


「大丈夫だ……うん。大丈夫」

「……なんかライアが凄く可愛い。なるほど、これが母性かも?」

「やめてくれ。アリアの包容力はただでさえ凄まじいんだから」

「嬉しい♡」


 アリアは満面の笑みを浮かべ、俺に引っ付いたままこう続ける。


「好き……よく分からないけど、私は嬉しかった。心がドキドキする……相手がライアだからだよ絶対に」

「……そうか?」

「うん。だから……今のライアに私は精一杯付き添う。だって私もライアのことが大好きだから」

「……アリア――」

「あ、この場合はこうなのかな? 愛してるよライア」

「っ……アリアぁ!!」


 こんなん……こんなん泣いちまうっての!

 つい涙が零れそうになってしまったが、何とか堪えているとアリアは更に言葉を続けるのだが……流石にそれに関しては涙なんてすぐに引っ込んだ。


「今のライアにどうすれば良いのか分からない。でも今の感覚で慣れたら良いんじゃないかなって思うんだ」

「慣れる?」

「うん。しっかり手加減するし、ライアの様子は逐一確認する――だから取り敢えず今から朝まで“しよう”」

「……うん?」


 うん?

 しよう……何を?

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