第4話

 しばらくしてから気づいたが、乱入者は道を出鱈目に走っているようだった。どこを走っているのかは分からないが、直進すればいい道を、遠回りするルートばかり選んでいた。追跡を恐れているのだろうか。


 車が走り出してしまった以上、外に飛び出す訳にもいかず、信号待ちで車が止まった際に逃げ出そうとしても乱入者は私を監視しているようで、逃げ出すタイミングが見つからなかった。

 家族や警察に現在位置を教えようにも、スマートフォンを式場の控え室に置いてきてしまった私にはなす術もなく、ただ外の景色を見て、自分がどこに連れて行かれるのか、黙って見ている事しか出来なかった。


(こうなったのも、全部みどりのせいよ)


 乱入者が何も話しかけてこないのを良い事に、私は内心で双子の姉のみどりに対する文句を繰り返す。


(みどりが太って、ウエディングドレスのサイズが合わなくなって、着られなくなったのが、そもそもの原因であって、みどりが太らなければ、私は今頃、参列席にいられたのに……)


 車がトンネルに入ると、窓ガラスに自分の顔が映った。不貞腐れたような表情こそしているが、みどりと同じ顔ながらも、双子の姉よりもほっそりとした顔立ちだった。

 似ているのも当然。だって、私はみどりの双子の妹なんだからーー。


 私はみどりの双子の妹のまりだ。どこにでもいる普通の女子で、まだ独身。

 ある日、みどりが仕事先で知り合ったという芳樹さんを自宅に連れて来た。

 ひょろっとした細長い瘦せ型で、どこかおどおどとして自信なさげな、私やみどりと同年代の男性だった。


(干物みたい)


 芳樹さんに対する私の第一印象は、この一言だった。

 顔立ちも特にぱっとしていいところもなく、髪型や服装も普通の男性だった。あまりに細いので干物だと思ってしまったくらいで、特に印象にも残らない男性だった。

 そんな男性と結婚すると言い出したのは、今から約半年前。

 あまりに急なことだったので、両親も私も驚いたが、みどりは本気だった。両親もみどりの熱意にはあっさり負けてーー早く二人の娘に結婚して欲しかったというのもあったようで、すぐに承諾したのだった。

 両家の両親に挨拶し、両家と顔合わせをするなどして、あっという間に時間は過ぎていった。


 結婚式の用意も進み、ウエディングドレスや式場、披露宴の用意も進む中、一つの問題が起こってしまった。

 結婚が決まった事に安心したのか、みどりが急激に太ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る