第6話

 幸いなことにサイカは汚染が残らなかった。体力的にギリギリのラインまで除去をして、良い結果が出た。ドクターのおかげだ。サイカの汚染率は元がゼロじゃないから、全く綺麗というわけには行かない。でも、隔離が必要なレベルじゃない。生身で他人と会うことも十分に出来る。それを聞いて俺はほっとした。

 免疫系の人間は、ネットワーク上の汚染物質に耐性がある。浄化装置を使って、少量ならば汚染を除去することも出来る。リング集めでは前線に配置される。いわゆる「汚れ役」だ。

 重要な役割を担いはするが、その性質の為に差別を受けることも多い。触らぬ神にはたたり無し。近づいて来る人間はほとんどいない。

 一般市民が暮らす街では、たいてい何人かの免疫系が常駐して、リングを供給する役目を担っている。街の大動脈とも言えるわけだが、免疫系の顔が表に出ることはあまり無い。免疫系がリーダーになって、仕切っているような街もほとんど無い。

 一方俺達の街は、オヤジが一から作ったような所なので、その息子である俺にかなりの権限が残されている。ただ、基本的に俺はみんなの生活に口出しはしない。政治や社会的活動は、地域コミュニティに任せている。

 俺が表に出ていない事は、ある意味平和の証だ。あくまでも免疫系は、非常時に出張る役割の人間だ。差別に関しても、俺は特に気にならない。妹には、無関心すぎると批判されているが。

 そういうわけで、常識のある免疫系の人間は、他人に白い目で見られる事を避け、街のインフラとしての役割を、静かに、黙々とこなす生き方を選ぶ。そういう人が多い。


 サイカの暴走のおかげでリングの大鉱脈が発見された。俺たちはそのリングの採集に向かうことになった。リングは脳内に蓄積される。蓄積すること自体なら誰にでもできるが、今回は場所が悪い。70メートル以上潜ると、汚染区域に触れる可能性が高い。すると、免疫系だけで採集班を編成するしかない。

 免疫系は元々の人数が少ない。有能な免疫系の人間は、貴族に雇われて相応の暮らしをしている。一方で、俺の父親のように桁外れの耐性を持ち、表立って一般市民に尽くす免疫系もいる。動機はそれぞれあるようだが、まあ、それなりに立派な考えを持っている奴が多い。これと言った正義感や使命感もなく、なんとなく惰性でやっている俺は……なんなんだろうな。めんどくさいけど、一度よく考えた方がいいかもしれない。

 俺の街にはマシンが三台しかないので、採集計画を近隣の市民会議にかけて、耐性値の高い免疫系を集めることにした。集めると言っても数が少ないから、いつもほとんど同じ顔ぶれになるわけだが。

 血気盛んな若い奴らは、だいたい貴族側に行ってしまう。手が空いているのは老人と子供。それと変人だけ。そう考えると俺も、変人の部類に入っちゃうわけだ。

 俺がみんなに招集をかけるときは、ハイリスク・ハイリターンなヤマを見つけた時に限る。だから常識のある免疫系や、耐性値の低い免疫系はまず表に出てこない。小さな街で少人数を養うだけならば、リスクを負う仕事をする必要はない。賢い選択だ。俺の呼びかけに応えるのは、リスクを負ってもリングを必要としている者。言ってみればヤバい系の免疫系だ。好奇心、欲望、宗教による博愛主義、その他もろもろ。理由は人それぞれにある。

 子供と若い女性は極力外す。免疫系はただでさえ少ないから、未来の為に血を繋がなければならない。免疫系の減少は人類の存亡に関わる。貴族が免疫系を養殖しているといううわさもあるが、それはあくまで貴族の世界での話。一般市民の将来を考えなければならない。

 子供を外すのには、経験を積んでいる人間を優先するという意味もある。汚染を避け、いかに効率よくリングを集めることが出来るか。それが最も重要だ。

 俺の招集に答えて、ネットワーク上の会議室に変人たちが集まった。

 「長老」は一番の経験者だ。俺のオヤジとも面識がある。今年でなんと77歳。恐らく、免疫系の史上最高齢だろう。「長老」というのは聞こえはいいが、そこまで尊敬できる人物でも無い。長生きしているということは、ほとんどリスクを犯さないでやって来た証明でもあるからだ。

「カジハルちゃん、今回はワシが先頭で行くよ」

 長老が会議で、予想外の発言をした。

「マジですか。いつもなら腰が痛いとか、背中が痒いとか言うのに」

 いつも逃げ回ってるジジイが、なぜ。

「うん。最近、恋人が出来ちゃってさあ。死ぬ前に一働きして置こうと思ってんの。だからリングの分配の方はよろしく頼むよ」

 ニヤッと笑って長老が言った。相変わらずちゃっかりしてるな。だが助かる。

「長老、お元気ですねぇ。恋人もどうせ、リングをちらつかせてゲットしたんでしょう?」

 やらしい感じで笑って、ムラタが言った。

 ムラタは、どう見ても変人の部類だ。俺は現実世界では姿を見たことが無い。年齢は恐らく40後半くらい。近隣エリアにいることは確かだが、それ以外の情報をひた隠しにしている。小さなコミュニティの「王様」と言った感じで暮らしている模様。ムラタはオヤジの弟子で、オヤジの事をエラく尊敬している。貴族と取引をしていると言ううわさもあるが、ギリギリ信頼している。

 あとはオカマのキダ君。彼はオカマという部分を除けば、ものすごく尊敬できる人物だ。いや、その言い方だとオカマに対して失礼すぎるな。俺のオカマ観を根底から覆してくれた人物だ。年はほぼ俺と同じくらい。汚染率は俺よりやや下だが、けっこう無茶をしている。荒川沿いのスラム街をほぼ一人で背負っている。スラム街は来る人間を拒まない。それが彼(彼女?)のポリシーだ。

「それでサイカちゃんは今、本当に大丈夫なの? 病み上がりだし、今回連れて行くのは私反対だわ」

 キダ君が心配してくれる。

「うん。俺もそうしたいけどサイカが納得しないよ。自分で鉱脈を見つけたっていうのがあるからな。街に置いてきたら、勝手に何かするかもしれないし。その方が心配だ」

 俺は言った。

「サイカちゃんはね、……綺麗で気が強くて、いい子よね。だからこそ将来が心配だわ……」

 キダ君は最近、サイカの母親役みたいになっている。実際に二人は仲がいい。現実とネットワークと構わず、結構交流しているらしい。キダ君が言うことなら、サイカは素直に言うことを聞く。俺がいくら言っても何にも聞かないのにな。


 会議の後、すぐに出発する。決めたらすぐに動くのが鉄則だ。ネットワークで会議をしている以上、既に情報が漏れている可能性がある。

「じゃあ長老を先頭に板橋区まで直行で。ポイントの位置でサイカを待機させてます。あいつのID(アイディ)を目印に飛んでください。殿(しんがり)は俺が務めますんで。じゃあ出発!」

 俺は言った。

「ではみなさんお先に」

 長老がすごいスピードで飛んでいった。さすがに逃げ足が速いだけある。久しぶりに長老の本気を見た。ムラタとキダ君が慌てて後を追った。少し遅れて俺も飛び出す。追跡されていないか、俺は後ろを見ながらゆっくりと飛ぶ。後ろを向いている方がスピードが出るような気がする。最後尾を務めることが多いので、変な癖がついてしまった。

「お兄ちゃん。長老が先頭みたいだけど、これって予定通り?」

 サイカから通信が入った。

「予定通りだ。珍しいことに長老がヤル気なんだよ。丁重にお出迎えしろよ」

 俺は笑って言った。

「あのジジイこんなにスピード出せたの? 今までのは何だったのよ! ウソツキ!」

 サイカが嬉しそうな声で言った。もうテンションが上がっている。

「お前落ち着けよ。またオーバーヒートしたら当分連れて行かないからな。キダ君に心配かけるなよ」

 俺は念を押した。

「分かってるわよ……」

 イライラした声でサイカが言った。本当に大丈夫かね……。


 板橋区、栄町大鉱脈。通常は発見者に命名権がある。だが、サイカに名前を付けさせると、ピカピカ鉱脈とか、ツヤツヤ鉱脈とか、妙な名前になって分かりづらくなる。強引に俺が、旧世界の名前を上書きした。貴族にバレなければ、今後2年間くらいはここに通うことになる。そのたびにツルツル大鉱脈とか言いたくない。

 俺が現地に到着すると同時に、長老が地面に潜って行った。その後をサイカがすぐに追おうした。

「サイカ! お前は後ろでナビする約束だろ!」

 俺の言葉を聞いて、サイカが歯をむき出した。怒ったサルみたいだ。

「女の子はそんな顔しちゃダメよ。サイカちゃん、わたしと一緒に行きましょう。ね? いいでしょうカジハル?」

 キダ君がサイカをなだめて言った。

「結局俺が一人でナビするのかよ。仕方ねえな……。サイカ、キダ君に迷惑かけんなよ?」

 俺はため息をついて言った。

「大丈夫よねぇ」

 キダ君がサイカに向かって、頷きながら言った。

「そうだよ。まったく兄貴はさぁ……」

 サイカがキダ君に手を繋がれて、文句を言いながら潜って行った。なんなんだ、あの態度は。だんだんひどくなるな……。


 50メートル地点で一旦集合して、そこからはルートを作りながらゆっくり進む。この前サイカが無茶したおかげで、ルート分析がかなり省略できた。

「長老、70メートルまではだいたいデータ出てますんで。一応注意だけしてもらって、じりじり進んでください」

 俺は長老にナビのデータを送った。

「ほいほい。お、ずいぶん精度が高いな。サイカちゃんのおかげかね」

 長老が言った。

「怪我の功名ってやつですかね。大怪我する所でしたけど」

 俺は言った。

「私は汚染の濃度だって、だいたい分かってて潜ったんですからね!」

 サイカが大声で、偉そうにして言った。

「だけどオーバーヒートして、お兄さんが助けてくれなかったら大変なことになってたのよ? あなたの事を、一番心配してくれている人を忘れてはダメよ?」

 キダ君が優しい声で言った。ありがとうキダ君。

「サイカ、お前はだいたい反省ってものを……」

「長老ストップ!」

 俺の声を遮ってサイカが叫んだ。みんながいっせいに固まる。

「何か見えたか?」

「何か変な感じ。お兄ちゃん、60メートルぐらいから、もう1回スキャンしたほうがいいわよ」

 サイカが真面目な声で言った。サイカのカンは当てになる。俺は言われた通り再スキャンすることにした。

「長老、ちょっと時間ください。万が一ってことがあるんで」

 俺は言った。

「わしはかまわんよ。女のカンってのは馬鹿に出来ないからのう」

 ホッホッホと嬉しそうに笑う長老。

「そうそう。女のカンは怖いですからねぇ」

 今まで無言だったムラタが、急に変な声を出して笑った。いつも楽しそうでいいよなー、こいつらは。

 スキャンにエラーが出まくって手間取ってしまった。しかしその甲斐はあった。というか危なかった。

「ビンゴだよサイカ。よくやった。濃い奴が真下に移動して来てる。このまま進んでたら結構やばかったな。みなさん、浄化作業10時間は固かったですよ」

 大きく息を吐いて俺は言った。

 めったに無いことだが、汚染物質が移動することがある。リングもまたしかり。地図データの破損が大きい所でまれに起こる。前回のデータで98%は大丈夫なはずだったが、2%の危険をサイカが見抜いた。

「ね? だから私は分かるのよ。心配しなくても大丈夫」

 サイカが鼻高々で言った。キダ君が困ったような表情を俺の顔に向けた。クソ、何も言えない。

 再スキャンしながら進んだので、予定の倍以上の時間がかかった。しかしようやくリングの位置に到達した。

 リング状の白い光が、生き物みたいにゆらゆらと目の前で揺れている。大鉱脈だ。これだけあればこの先2年間、いや、4~5年は近隣地域の需要を満たすかもしれない。

「これだけのものは、ハア、20年ぶりぐらいに見たかな?」

 長老がリングの前でまぶしそうにして言った。

「ちょっと規模が大きすぎて、手に負えないわね。せっかくの大鉱脈だけど」

 キダ君が言った。

「貴族なら奴隷を投入して3ヶ月。それくらいで全部掘り起こすでしょうけどねぇ」

 なぜか自分の頬っぺたをピシピシ叩きながら、ムラタが言った。

「貴族に狙われる可能性高いですかね? ムラタさん」

 俺は言った。

「何で俺に聞くのよカジハル君。まるで私が、貴族の知り合いみたいな言い方ですねぇ」

 ムラタがおどけて言った。

「まあ半年持てばいいほうじゃないかね。わしらがせっせと運ぶほど、跡が付くわけだしな。どうする。この際手を付けないで、いざと言う時の為にとって置くというのも一つだがの」

 長老が、珍しく長老の名にふさわしいような事を言った。

「そんな悠長なこと言ってられないわよ。スラムは常にリング不足なのよ。手ぶらで帰るわけには行かないんだけどな、私は」

 キダ君が少し緊張した声で言った。

「いや、当初の計画通り採集して帰りましょう。長期的な計画が立てられるなら、始めからそうしてます。とりあえず、『今日の晩飯』のことだけ考えよう」

 俺は言った。

「……『今日の晩飯』か。あんたのオヤジさんがよく言ってたよね」

 ムラタが低い声でつぶやいた。


 それぞれがリングの光の中に体を浸していく最後に俺が中に入った。脳にじわじわとリングが蓄えられていく。この感じは何回やっても慣れない。感触と言ってもほとんど無いのだが、その性質上、汚染されていく時にとても似ているのだ。蝕まれていく感じがする。

 リングの濃度が濃いのですぐに満たされた。頭の隅々にまでリングがぴっちり入り込んだ。気持ち悪い。リングの光の中から、足を引きずるようにして俺は外に出た。

「じゃあ今度は俺が先導(せんどう)します。長老が最後尾(さいこうび)でお願いします。『地上に出る時が一番危ない』。俺が言うまでもないですけど、よろしくお願いします」

 みんなに了解の合図をもらって、俺はゆっくりと浮上していく。その後をサイカ、キダ君、ムラタと続いて来る。40、30、20メートル。頭の中のリングがやっぱり気持ち悪い。サイカがここでレッチリを流したら、一瞬で吐けそうだ。

 地上まで10メートルの所まで来て、スピードを緩める。地上に出る時が一番危ない。細心の注意を払わなければならない。

 あと3メートル。2、1……ゆっくりと地上に顔を出す。異常無し。念のために俺は盾を身構えて、妹の出現ポイントをガードする。

「よーしサイカ、慎重に出ろよ。リングが頭の中にあるんだから、いつ探知されてもおかしくないんだからな。ピンポイントで狙われるからな」

「お兄ちゃんうるさい!」

 サイカが言った。

「いいわねぇ兄妹って……」

 キダ君がしんみりとして言った。 

 サイカが顔を半分出した、その時、遠くの方で何か光ったような気がした。

 俺はディフェンダーのくせに、盾で防ごうとしなかったのは何故だろう。間に合わないと直感で分かったのだろうか。上体を反らせて最初の一撃をかわした。凄まじく鋭い一撃だった。

「攻撃されたぞ! みんな早く浮上しろ!」

 俺は叫んだ。

「もう見つかったのか……。運が悪いのう」

 最後尾のはずの長老が、一番先に飛び出してきた。

「狙撃タイプが居ます、散らばって逃げてください」

 俺は長老の体をガードしながら言った。

「はいはい。カジハル君の盾で、持ちそうかね?」

 長老が、俺の答えを待たずに飛んでいった。逃げ足はや!

「カジハル君、僕は違うポイントから出ますのでお構いなく。生きてたらまた会いましょう、では」

 ムラタから通信が入った。同時に西の方へそれらしき影が飛んで行った。チームワークまったく無し。仲間を助けるとか、全くそぶりも無いのな。

「キダ君早く!」

 サイカが叫んだ。俺の盾がスピードガンの連射を浴びてブルブル震えている。長くは持たない。奴隷、というか、貴族の手下になっている市民が次々と襲ってくる。俺は盾が忙しいので、サイカにほとんどを相手してもらう。サイカのえげつない蹴りが脳天にめり込んで、奴隷が吹っ飛んでいった。

「遅れてごめんなさい! ムラタが浮上ポイントズラしやがったわ!」

 キダ君が絶叫しながらようやく浮かび上がってきた。サイカが手を掴んで引っ張り上げる。

「全力で逃げるぞ。直線で行くなよ! 狙撃タイプがいるからな。雑魚を相手にするなよ! 後ろに貴族がいるのを忘れるなよ!」

 俺は盾を構えながら大声で言った。

「うるさい! レッチリ流すわよ!」

 空中に飛び出しながらサイカが言った。

「それだけはやめろ!」

 こんな状況だが俺は吹き出して笑ってしまった。

 サイカとキダ君の背中が小さくなったのを確認して、俺も飛び出した。かなり時間をロスした。シンガリはつらいよ。ディフェンダーっていつもこうだよなぁ。

 俺は時々スピードを緩めて、狙撃タイプのスピードガンをわざと受ける。あっちもそれほど本気じゃない。リングが目的だから、俺たちを殺そうとはしていない。時間稼ぎをしながら距離を離して行く。リングは惜しいが、まあなんとか逃げられそうだ。

 と思ったら近くでサイカが、格闘タイプの奴隷相手に大立ち回りをしていた。敵はゴリラみたいな体格をしている。サイカの体はその半分も無い。小さな体をクルクル回転させて、遠心力を使って蹴りを次々に放つ。その合間に、エレキギターのスピードガンを撃ちまくっている。いつの間にそんな事覚えたんだろ。なかなかやるな~。と、今は感心している場合じゃない。

「馬鹿! 何やってんだ!」

「待って! もうちょっとやらせて!」

 サイカがゴリラのわき腹に、突き刺すような蹴りをヒットさせた。ゴリラの体が「く」の字に曲がった。連続でサイカが、脳天に得意技のかかと落としを放つ。ゴリラの体がフッと消えた。……ご愁傷様。ダメージが大き過ぎて、本体とのリンクが維持出来なくなったのだ。たぶん死んではいないだろう……たぶん。

「なにやってんだ!」

「お兄ちゃん後ろ!」

「分かってるよ!」

 体ごと盾を振り回してスピードガンの軌道に合わせた。ビシッと盾に直撃を受けて、体が後ろに吹っ飛んだ。さすが貴族。この距離でなんという命中率。腕がミシミシ言ってる。そろそろキツイな〜。

「この距離でこの威力だぞ! 分かってんのか?」

 俺は言った。

「分かってるわよ! だけどこいつら、横取りにきたんでしょう。少しぐらいは痛い目に会わせてやらないと」

 全然分かってない……。

 次々と奴隷に追いつかれる。俺は細かい闘いは出来ないので、相手を盾で潰したりしなくちゃならない。ひどい重労働だ。

「疲れてお兄ちゃん死んじゃう! マジでキツイから!」

「分かったわよ!」

 と言いながら、サイカが巨大な「ニンジン大砲」を出した。

「無理無理ヤメロ。挑発するなよ!」

「挑発するのよ!」

 バリバリ音をさせて、サイカが「ニンジン弾」を撃ってしまった。遥か彼方の貴族に向けて。もちろん100%当たらない。エネルギーの無駄遣い。リングを集めた先から使ってしまってどうする……。

 サイカの顔を見たら、興奮の絶頂のような顔をしている。

「じゃあ私帰るわ。お先〜」

 やるだけやって満足したのか、サイカが東の空にすっ飛んでいった。奴隷の方々も俺も、呆然とした感じでその背中を見詰めている。

「終わり終わり。あんたらも早く帰んな。お疲れ様」

 俺はそう言って、盾を持ってない方の手をバイバイ、という感じに振った。さすがに手を振り返してはくれなかったが、あっさりと奴隷たちも引き上げて行った。それと同時に、貴族のスピードガンもようやく止まってくれた。やれやれ、今回は疲れたな……。本当に疲れたなあ!

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