歴史的瞬間に、沸き立つ者。咽び泣くもの。その幕引きとスタートライン。

 多数決の悪。なんて言葉は、まさに悪そのもののように恨めしく思うこともあり。天秤がそちら側に大きく傾いたというだけで、さも当たり前のようにそれが「是」とされるのはいささか承服しかねるのではないだろうか。なんてことを思わされる話。
 まぁ、そうは言いつつも頭に「悪」とついているから「悪玉菌」が悪いわけではなく。「善」とつけば、良いように思えてしまって「善玉菌」という言葉のままに鵜呑みにしてしまうのも実に危うい。きちんと咀嚼していれば、天文学的な確率かも知れないけれど、自身にとって、有害な菌の存在に気付けるかもしれないのだから。
 何が言いたいかって要はバランスなのだ。冒頭に天秤で例えたように。その水平さは、すなわちスタートライン。
 今回の法案可決によって、先立った先人たちは何を思うのだろうか。
「なんか、最近『多数決による決定を禁止する法律』ってのが採択されたらしいよ。風の噂ならぬ、体内環境の噂で聞いたんだけど」
「マジかよ⁉ その法案がもっと早くに採択されてたら、もしかすると俺たちほんの少しくらいは長生きできたんじゃないか? (ってか体内環境の噂ってなんだよ)」
「だよなぁ……でもさ。身も蓋もない……ならぬ、細菌も体内環境もないことを言うとさ」
「なんだよ」
「自分達の宿主が死を迎える時にさ、賛否を選ぶ余地すらなく、否応なく道連れにされる俺達は、(無駄は百も……じゃないな。細菌だけに、百兆も承知の上で)それを阻止するために、大多数決したらさ。満場一致で結論が出るよな」
「そんなもんは、多数決じゃない。それはただの『事実』って言うんだぜ」
 なんてことを思ったりするのだろうか。歴史的な決定が下されるのは実に喜ばしいことではあるけれど。それによってお腹を下すようなことになるのだけは、どうか勘弁願いたいところである。

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大多数決