第2話 異邦の騎士

「やった・・・のか・・?」


あまりにも簡単に倒せたことに安堵すると共に初めて生物を斬った感触、

殺すという行為に気づき冷静でいられない。

剣を落とし細かく震える両手を見る。


「何をやっている!まだ終わりじゃないぞ!」


声をかけられ周囲を見回すと複数のゴブリンに囲まれていた。


生物を殺したという恐怖、不安、後悔、あるいは優越感、万能感、

悠樹の初めての経験はそれらを感じ、考える時間も無く過ぎていく。

自分が生き残るための生存本能に塗りつぶされていくのだった。


最初の戦闘でわかったが目の前のゴブリン達は130cmくらいで、

武器はナイフや小さな棍棒を身に着けている。

自分の身長とロングソードの間合いならかなり有利であるし、

腕力や技量も負けておらず一対一だと油断しなければ問題ないだろう。


(囲まれなければ脅威じゃないかもしれない・・・だったら!)


すぐに剣を拾い最も近いゴブリンの間合いを詰め一太刀で屠る。

その間に左右から2体が近づく。

森の木を背にするように移動しつつ1体に斬りかかるとナイフで防ごうとするがナイフを弾きそのまま致命傷を与える。

返す太刀で挟撃に失敗したもう1体を倒す。

更に2体を同様に倒し、囲もうとしていた5体との戦闘は終わった。


「やるじゃないか!剣を扱ったことがあるのか?」


倒れていた男はポーションで少し回復したのか、よろめきながらも立ち上がり声をかけてきた。

ようやく一息ついて話しが出来る。


合計6体倒し周囲にゴブリンはいなかった。周囲には。

だがまだ敵の数は多くいてより強敵がいる可能性も示唆されていた。

悠樹はゴブリンのファイターやコマンダー、マジシャンの脅威は勿論わからない。

『マジシャン』ここから魔法を結びつけることはできるが射程も威力も何も知らない。


戦い慣れているはずの男にとっては油断、悠樹にとっては無知。

それはこの世界においてはすべて命に結びつく。


(何か光った?)


悠樹が男と話しをしようとしたときに、男の背中越しの木の間が光った気がした。

気づいてそれは何かと見ようとしている間にバレーボールくらいの光の球が男の背中に直撃する。

そのまま男は地面に倒れ2~3Mほど転がる。


(なんだ!?攻撃?敵?生きてる?)


再び混乱するなか倒れた男を心配しつつ戦闘態勢を取る。

立ったままだと的になるだけと判断し悠樹は光が来た方に走り出す。


(また光った!)


光の球はまっすぐ飛んで来るので気づいていたらおそらく避けられる。

すぐ横に避けたあと光の球を見ると後ろの木に直撃し衝撃を伝える。


(当たったら打撲か骨折くらいか?即死は無さそうだからまだ生きているかも)


この敵を早く倒して治療すれば助かるかもしれない。


一対一でまっすぐ飛ぶ攻撃、しかも盾になる木もある。

敵をまっすぐ見据えながら全力で駆ける。


(範囲攻撃とか切り札がある?伏兵がいる?)


可能性はいくらでもあるが考えても分からない。

どちらにせよこの敵を倒す以外無いのだ。

自分だけ逃げてもどこかも分からない場所で孤立して体力が尽き、

他のゴブリンだけでなく熊なんかの野生生物と出会ったら終わり。

今は少しでも早くこの敵を倒し男を助ける。

その後で他にもいるらしいメンバーと合流し安全な場所へ案内してもらう。


様々な心配は杞憂であった。

木があって狙えなかったのか連射ができないのか光の弾は撃たれず、

あっという間に敵に肉薄することができた。


(ゴブリンぽいけど杖を持っている。これがマジシャンか?)


「はぁっ!」


一刻も早くという意識か、撃たれる前にという逸る心からか、

走りながら気合を入れ突きを出す。

ゴブリンは杖で受けようとするがそれは叶わず胸に剣が突き刺さり倒れる。。


「ハア、ハァッ、、、これで、、、最後か・・・?」

「助けなきゃ、、、」


息を切らせながら男のいるところまで戻り様子を見るも、

やはり倒れたまま動かない。


「・・・・大丈夫ですか?」


切り傷以外の打撲や骨折に効くかは分からないが、

ポーションの革袋から背中にかけていく。

そして意識の無い男の口に当て無理やり飲ませる。


「ゴフッ、ゴフッ、、、」

「くそっ!傷口が開きやがった、、、、」


最初は勢いよく悪態をつくも後の言葉は力が失われた弱々しいものだった。


(生きててよかった・・・)


「大丈夫ですか?他の皆さんはどの辺に?助けを呼べませんか?」


「いや、、、たぶん他のメンバーも厳しいだろう・・・」

「このままじゃ全滅も・・・」

「無理を承知で頼むが、お前は剣をある程度使えるようだ。他のメンバーも周囲で戦っているはずだ援護を頼めないか?」

「俺には権限が無いが、後付けになるが正式な依頼として報酬含めて用意する。」


「む、無理ですって。たまたまですよ。まともに戦ったことも無いんですよ?」


「だが我々が全滅したら村は大きな被害が出るぞ」

「まだ戦力があるうちに叩けるだけ叩かないと。他に方法は無い。」


(どれくらいゴブリンが残っているかだけど、さっきの普通のゴブリンとマジシャンならなんとかなるかも)

(でもファイターやコマンダーって明らかに上位互換の前衛っぽいけど強さが分からないから戦いたくはないな)

(断ったとして、ここで一緒に助けを待つしかできないか・・・)

(他の人の結果次第になるな。もし全滅して包囲されたらそれこそ終わり・・・)

(戦いに参加した方が少しでも生き残る可能性が増えるか・・・)

(他人の結果に自分の命をかけるくらいなら自分でなんとかできるか足掻いた方がましだな)


「・・・分かりました。できるかどうかわかりませんがお手伝いします。」

「この剣は借りますよ?」


「勿論使ってくれ。俺はナイフしか予備が無いがこの体じゃまともに剣も振れないしな。」

「もしゴブリンが来たとしても気にする必要は無いからな。」


「では行きます・・・終わったら誰か連れて来ますのでそれまで耐えてください。」


「すまんな。頼む。今更だが俺の名はタークだ。これは借りだから絶対に返させてくれ。」


「俺はソーマです。絶対に返してくださいね。楽しみにしてますから。」


どう名乗るか少し考えたが、苗字は貴族だけなのかどうかも分からないから迂闊には答えず、本名だがこちらでも通用しそうな発音で答えた。


「向こうに行くと街道に出る。道を挟んで向こう側に行ってみてくれないか。」


軽くうなずいて言われた方を警戒しつつ小走りで進む。

5分ほどで道へ出ることができ、ゴブリンに出会わなかったことに安堵する。

一瞬だが道沿いに進めば村か街か人のいるところに戦わずに済むんじゃないかと思うが、

重傷を負いながらも仲間のことを思い武器を渡し残るタークの覚悟を思いだし、誘惑を振り払う。


街道から再び森に入る。緊張を高め走るのをやめ呼吸を整える。

足音を立てないよう気を付け周囲を警戒する。

戦闘音が聞こえないか耳を澄ませる。


すると、少し遠くからかすかだが何かが走っているような気配と、

声のような物音が聞こえた気がした。

数分移動したところで金属と金属がぶつかる戦闘音が届く。

逸る気持ちを抑えつつ更に進むとゴブリンに囲まれている二人の男の姿があった。

30以上のゴブリンが完全に包囲し、

ゴブリンが慎重なのかそれとも余裕から遊んでいるのかはわからないが、

少しずつ包囲の円を狭め牽制を繰り返している。


(怪我はしているようだけど無事でよかった。5人って言ってたけど残り2人は別の場所か?)

(長剣を持っているゴブリンがさっき言ってたファイターか?奥に見える一回り大きい個体がコマンダー?)


ゴブリンに指揮官がいる影響なのか、無暗につっこみ各個撃破されることなく上手く連携している。

包囲されながらも2人は互いに背中を預け連携し防御中心にゴブリンの攻撃を捌いているようだ。

だが疲労から吐く息は荒く、鎧の隙間や顔には傷があり、所々出血していた。


(これ以上は限界か・・・だが俺が加わっただけで勝てるのか?)

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