第42話 無意識の意識

 話は戻ります。



 サージュオークの踏み潰しから、スライディングをしてオレリアンを蹴り飛ばして救ったレアだったが、自身の右腕はサージュオークの踏み潰しによって、跡形もなく砕け散り、噴水のように血が噴き出して意識を失った。サージュオークは、チャンスだと思い、大きな手のひらでレアを押しつぶそうとした。



 『ダダダダダダダダダダ・ダダダダダダダダダダ・ダダダダダダダダダダ』



 サミュエルは瞬時にエスパスからアヴァランチ(アサトライフル)を取り出し、サージュオークの首の繋目に向かって魔弾を発射した。


 

 「グオォォーーーー」



 アヴァランチは、姿勢を正し両手でしっかりと構え、安定したフォームで確実に魔獣を狙う必要がある。だが、そんな余裕がなかったサミュエルは、不安定な姿勢で射撃をしたが、魔弾は20発ほど首の繋目に命中しレザーアーマーを破壊して、首の繋目に魔弾を数発当てる事に成功した。



 ※アヴァランチは30発連射できる。



 サージュオークは首の繋目に魔弾をくらったことにより、体がふらつき体勢が崩れてレアへの攻撃をはずしてしまう。



 「オレリアーーーン、レアを連れて逃げろ!」



 竜巻によって意識を失っていたオレリアンだったが、レアのスライディングの衝撃により意識を少し取り戻していた。



 「・・・」



 オレリアンはサミュエルの言葉で完全に意識を取り戻して、レアの姿を見て絶句している。



 「なにをボーとしている。おまえの身勝手な行動のせいで、レアはこうなってしまったのだ!お前は命に代えてもレアを救う責任があるのだ」


 「あ・・あ・・・あ・・・」


 「ポール!お前も意識を取り戻しているのだろう!もとはと言えば、このような事態になったのはお前の責任だ!責任を感じているなら、絶対にレアを死なせるな!お前たち二人は全力でレアを救う為に逃げるのだ!」


 

 ポールは穴ぼこの中で、全身の痛みで動けなくて倒れ込んでいた。しかし、サミュエルの言葉を聞いたポールは、レアを救うべく立ち上がる。一方オレリアンは、レアの姿を見て動揺していたが、サミュエルの言葉が胸に突き刺さり、心を落ち着かせてレアを抱え込む。



 「ポールはレアの止血をしろ、オレリアンは全速力でレアを担いで逃げろ」


 「わかった」


 「わかったよ」




 オレリアンはレアをおぶって走り出す。ポールはオレリアンと並走しながら魔力を使ってレアの止血をする。多量の血を失ったレアが死ぬのは時間の問題である。


 一方、オークは両手で額にある魔核をガードしながら、サミュエルの方へじわりじわりと近づいて行く。




 『恐怖で体が震えて動かないよ・・・』



 私は顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながらも這いつくばって逃げていた。繋ぎ場で何が起こっているか全く気にも留めずに生きるために必死で逃げていた。



 『大丈夫よ。大丈夫よ。私の姿は誰にも見えないわ。だから・・・だから・・・落ち着くのよ』



 パンジャマンの無残な死体、2体のオーク、そしてサージュオークを見て完全にビビり倒した私だが、200mほど逃げると少しは冷静さを取り戻していた。



 『さぁ、立ち上がるのよ。私は誰にも見えない最強のギフト【無】があるのよ。だから殺されないわ』



 私は少しでも冷静さを取り戻すために自分に言い聞かせる。



 『サミュエル君達は逃げ出すことが出来たのかな?いや、今は自分の事だけを考えるのよ。私なんてなんの役にもたたない臆病者よ。それに、私に何が出来るのよ。私はサミュエル君達のように天才じゃないわ。ただ、偶然神様から『無』のギフトを授かった凡人なのよ。凡人は凡人らしくおとなしく逃げるのよ』



 私は静かに立ち上がり後ろを振り返らずに一歩一歩前進する。



 『迷子にならないように馬車道の方へ行こう』



 私は緑地エリアの馬車道へ向かう。




 「レア!しっかりしろ。目を覚ましてくれ」



 オレリアンはレアを背負いながら必死に声をかける。声をかけたからと言ってレアが元気になるわけではない。しかし、レアが意識を取り戻してほしくて必死に声をかける。



 「ごめんねレア。ごめんねサミュエル」



 ポールは泣きながらレアに魔力を注ぎ込む。止血は成功しレアの大腿部の付け根の傷はふさがったが、レアの意識は全く戻る様子はない。ポールの治癒魔法ではレアの傷を塞ぐことが限界であった。


 

 『レアさんの右足が・・・』



 私がゆっくりと馬車道を歩いていると、オレリアン達が走り過ぎて行く。



 『ポール君を助けに行ったのね。てっきり見捨てて逃げると思っていたのに。でも、レアさんは右足を失っているし、サミュエル君がいないわ』



  私は少し冷静さを取り戻していたが、レアが右足を失っているのを見ると、恐怖が蘇ってきた。



 『やっぱり逃げて正解だったわ。私もあの場に残っていたら無事ですまなかったかもしれない』


 「僕のせいでレアもサミュエルも死んでしまうかもしれないよ。ホントにごめん。ごめん」



 ポールは走りながら何度もレアとサミュエルに謝る。



 「レア、目を覚ましてくれ。お願いだ、目を覚ましてくれ」



 一方オレリアンは何度も何度もレアに声をかけ続けている。



 『レアさんはもう手遅れなのかもしれないのね。でも、私に出来ることなんて何もないわ。そして、サミュエル君は死んでしまったのね』



 私は他人事のように冷たく呟いた。



 『う・・・う・・・うぅぅぅ』



 私は心で冷静を装っていたが、瞳から大きな涙が零れ落ちた。



 『私は何もできないわ。姿を消すしか出来ないのよ』



 私は冷静を保つために自分に言い聞かせる。しかし、瞳からは涙が溢れ出て、私の意思とは無関係に足が勝手に動き出した。



 『無理よ。私が繋ぎ場に戻ったところで何も出来ないわ。私には隠れることしかできないのよ』



 私は自分に言い聞かせるが、私の足は勝手に動き出し、繋ぎ場の方へ走り出していた。





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