第38話 グノン

 常夜の大樹から20㎞以上先は調査されていない未開の大地、その先にはどのような魔獣が存在しているかわからない。



 ※常夜の大樹から20㎞地点には至る所に警告の看板が立てられていて注意を促されている。


 

 ポールが馬車を止めたのは常夜の大樹から19㎞地点の緑地エリアから森林エリアに変わる境目である。



 「レア、上にも注意が必要だよ」


 「そうね。森林エリアに近づくにつれてグノンの目撃数は増えるわ。私がグノンに注意をはらうからサミュエルはオレリアンと一緒にルーを探してね」


 『私もレアさんと一緒にグノンを警戒するわよ』



 私もわずかながら協力をすることにした。サミュエルとオレリアンは魔銃を片手で構え身を低くして緑地エリアを進んで行く。レアは2人から3mほど離れて木々にグノンがいないか警戒をする。



 「バン」



 静かな緑地エリアで銃声の音が響いた。



 「15時の方向の木にグノンがいるわ」


  

 レアの放った魔弾は木の枝にぶらさっがていたグノンの頭にある青い魔核に直撃した。しかし、レアからグノンまでの距離は10mほど、魔弾の威力は激減しているので威嚇程度にしかならない。グノンは木から木へ移動して姿を消してしまった。



 「さすが、レアだね。でも、ここはグノンの縄張りのようだ。ルーよりも先にグノンを倒そう」


 「そうね。私とサミュエルは上を注意するから、オレリアンはルーを警戒してね」


 「わかった」


 『オレリアン君、私も手伝うわ』



 サミュエルとレアは、魔銃を構えて木の上を警戒する。オレリアンは周囲を見渡して安全の確保に努める。もちろん、私も周囲を警戒している。



 「12時の方向にいるわ。みんな気を付けて!」



 レアの言葉と共に木の上から木の実が飛んできた。オレリアンは瞬時にしゃがみ込み木の実を避けた。そして、避けた先に私がいた。



 『・・・』



  オレリアンはレアの言葉と同時にしゃがみ込んだ。しかし、私は12時の方向に向いてしまったので、避ける余裕はなかった。



 「ヒューーーン」



  木の実は、運よく私の頬の横を通り過ぎた。



 『・・・』



 私は恐怖で顔がこわばり、時間が止まったかのように呆然と立ち尽くす。



 「バン・バン」


 

 レアとサミュエルが魔弾を発射する。レアの放った魔弾はグノンに命中し、サミュエルの放った魔弾はグノンの顔に当たる。グノンとの距離は6mほど、グノンの魔核にはかすり傷が出来た為魔力供給が遅くなった。その為、グノンは木から木へと移動する事ができない。


 

 オレリアンがジャンプをして魔弾を発射する。魔弾はグノンの首筋の繋目に命中し、木からグノンが落下する。



 「バン」



 オレリアンが魔弾を発射すると同時に激しい音が鳴り響く。レアがグノンが投げつけた果実を破壊したのである。



 「13時の方向にもグノンがいるわよ。オレリアンは木から落ちたグノンを、サミュエルはもう一体のグノンをお願い」


 「任せろ」



 木から落ちたグノンが森林エリアの方へ逃げ出した。



 「逃がすか!」



 オレリアンは駆け足でグノンに追いつき、首の繋目に魔弾を発射させる。



 「グワッ」



 グノンは奇声を上げて倒れ込む。



 「とどめだ!」



オレリアンは首の繋目に銃口をあてて魔弾を発射する。



 「バン!」



 グノンの首が吹き飛び頭と胴体が切り離された。



 「やったぞ」



 オレリアンは歓喜の声をあげた。



 「オレリアン、気を抜かないで!」


 「悪い」



 オレリアンは周囲を警戒する。



 「バン」


 「バン」


 「これで3体目ね。もう、この辺りは大丈夫そうね」



 オレリアンは1体、サミュエルが0体、レアが2体のグノンを退治した。



 『・・・・』



 私は木のみを投げつけられた恐怖で体が固まっていた。



 『わたしだってやれると思ったのに・・・』



 私は1人でラパンを倒して、少しは冒険者として頑張っていけると思っていたが、再び恐怖で足がすくんで何も出来なかった。



 『落ち込んでいる場合じゃないわ。次こそはちゃんとやるぞ』



 ここは魔獣の世界、落ち込んでいる暇はない。



 「サミュエル、ルージュを使いこなせているじゃない」


 「最低限だけだ。レア達のように魔核や繋目に確実にヒットは出来ていない」


 

 サミュエルは悔しそうに言う。



 「見上げ撃ちは難しいから仕方ないわ」



 ※高い位置から低い位置への射撃はエイム(標準)を合わせやすいが、低い位置から高い位置へのエイムは合わせにくい。



 「レア、馬車の音がするぞ」


 「え!誰か近づいているも?パンジャマンじゃないわよね」


 「パンジャマンのわけがないだろう。アイツらは俺らを不利な場所に追いやった張本人だぜ」


 「いや、あの派手な馬車はパンジャマンの馬車に違いない。なぜ、先に出たアイツらが俺らの後を追ってきたのだ?」


 「少し様子をみましょう」



 サミュエル達は木々に隠れて様子を伺う。



 「ギャー――」



 大きな悲鳴が森林エリアに鳴り響く。



 「あの声はポールよ」


 「あいつら、ポールに何かしたのか!」



 「ギャー―――」


 「あの声はパンジャマンの声だぞ」


 「どうなっているのだ。なぜ、ポールとパンジャマンの悲鳴が聞こえるのだ」


 「わからないわ。とりあえず馬車に戻りましょう」



 サミュエル達は馬車の方に引き返した。

 


 

 


 

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