第36話 レアの不安


 「パンジャマンの説明では、わかりにくい点があるだろうから、俺が詳しく説明しよう。場所はここから南へ15㎞先にある緑地エリアだ。ルールは簡単だ。ルーを仕留めるのはブロン、すなわちサミュエルとパンジャマンだけだ。お互いの仲間の冒険者は、仲間の手助けや相手側の邪魔をするなり何をしても構わない。しかし、冒険者を射撃したら失格だ。あくまで邪魔をするのは魔獣だけに限定される。制限時間は3時間、その間にたくさんルーを退治した者が勝者だ」



  パンジャマンの仲間であるエリオットが丁寧に説明した。



 「わかった。しかし、公平なジャッジは誰がするのだ」


 「その点も問題はない。俺たちは誇り高き冒険者だ。いかなる時も虚偽の報告など一切しないはず、よって自主申告によって判断をする」


 『どうみてもあいつらは嘘をつくにきまっているじゃない』



私は一番遠く離れたところで悪態をつく。


 

 「わかった」



 サミュエル達もパンジャマン達を信用していないが受け入れる事にした。



 「緑地エリアに行くのなら馬車か馬が必要になるわね」


 「そうだな。一旦サブギルドに戻って馬車を取りに帰ろう」


 「サミュエル、馬車なら僕が取ってくるから、みんなはここで待って居てね」


 「ありがとう、ポール」


 「すぐそこだし行ってくるね」



 ポールは常夜の大樹に触れて人間の世界に戻る。



 ※魔獣の世界では王国騎士団やギルドの依頼によって、東西南北に道が整備され、中継地点には繋ぎ場が設置されている。馬車で移動する際には基本整備された道を通るのが基本である。




 「俺たちは先に緑地エリアに向かう。サミュエル、逃げるなよ!」


 「お前こそ、先に行って何か良からぬ事を企んでいるのじゃないのか?」


 「雑魚相手に卑怯なマネなどしない。俺の実力を思い知るがいい」



 パンジャマンは威勢のいい言葉をはいて馬車を走らせた。



 「レア、南の緑地エリアなら問題ないよね」



 サミュエルはレアの顔色を伺う。



 「場所的には問題ないけど・・・何か気にかかるわ。ルーを退治するなら北側に10㎞ほど行った見通しのよい緑地エリアのが最適だと思うの」


 「たしかに、でも、パンジャマンも北側を警戒しているのじゃないのかな」


 『私もそう思います!』


 「そうかもしれないけど何か気にかかるわ。それに、パンジャマンの恰好を見た?」


 『めっちゃ高そうな金ピカなサーコートを着てたよね』


 「金のサーコートに赤字の刺繍が施されたかなり高価な品だ。おそらく貴族が愛用するシックシェウェットの作品だよ」


 『なにそれ?知らないわ』



 孤児院で暮らしている私に縁遠い話である。



 「パンジャマンが買えるような代物ではないわ。それに、魔銃も新調している・・・なんだか不気味よ」


 「たしかに、そうかもしれない。パンジャマンは遠征に失敗して借金があると聞いたことがある。なぜ、借金があるパンジャマンがあんな高価な品を持っているのだろう」


 「サミュエル、お待たせ!」



 ポールが馬車に乗って魔獣の世界に戻ってきた。

 


 「レア、深く考えても仕方ない。もう勝負を受けてしまったし逃げる事はできない」


 「そうね。でも、何か危険な事を仕掛けてきたらすぐに逃げるわよ」


 「もちろんだ」


 『私もそう思います!』



 レアは一抹の不安を感じながら馬車に乗り込む、私も置いて行かれないように荷台に飛び乗った。



 「南の緑地エリアは木々が多くて視界が悪い場所が多いな」



 オレリアンがポールに借りた地図を見ながらレアに話しかける。



 「そうなのよ。だから、ルーを狩るなら北側に行くのがベストなの。それに、南の緑地エリアにはグノンも出没するわ」



 ※グノン 体長120㎝ほどの無価値魔獣 胴体は40㎝ほどだが、手足の長さは60㎝以上あり木と木を自由に移動する。木の実を食べて生活をしているが縄張り意識が強く、縄張りに潜入する相手には容赦なく襲い掛かる。



 「グノンの縄張りに入らずにルーを仕留める必要があるのだな」


 「そうよ。私たちは地図でしか南の緑地エリアの事はしらないけど、パンジャマン達は、2年間もこの魔獣の世界で狩りや依頼を受けているわ。地の利は彼らにあるから、不利な戦いになると思うの」


 「そうだな。レア、もしシャッス・バタイユ(狩猟対決)に負けたらどうなるのだ」



 オレリアンはサミュエルの事を心配しているようだ。


 

 『そうよ、負けたらどうなるの?』



 私も気がかりである。



 「シャッス・バタイユは、冒険者同士の実力を試す狩りだから、負けたら罰を受けるのじゃなく、格付けが決まってしまうの。サミュエルが負けたらパンジャマンより格下という汚名を背負う事になるのよ。パンジャマンの事だから、勝てば冒険者達に言いふらすにちがいないわ」


 『あの人なら言いふらしそう』



 私も同意する。



 「絶対に負けられない戦いなんだな」


 「そうよ。でも、あなたが頑張ってくれたら問題ないわよ」


 『そうよ!そうよ!オレリアン君がんばれ~』


 「パンジャマンの悪評は俺も聞いている。いけ好かない奴だから、絶対にサミュエルに勝ってもらうぞ」


 「もちろんよ」


 

 オレリアンとレアが馬車の中で、そして私が荷台で盗み聞きをしていた時、御者席の隣に座ったサミュエルは地図を見ながら考え事をしていた。



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