第34話 募る思い


 「お買い上げありがとうございました」



 コムとレオナードはクロコディルのレザーメイルを購入して上機嫌で魔武具店を出て行った。



 「姉さんが作った魔防具が売れてよかったね」


 「ありがとう、ポール」



 ポールは展示されている魔武具の誇りをはらったり、床などの掃除をする依頼を受けていた。ポールは魔武具を見学したくてこの依頼を受けたのではなく、姉の近くに居たくて依頼を受けた。



 「姉さんがこの町に居るのも後半年だね」

 

 「そうね。王都にある魔武具店に配属が決まったからね」



 ドリアーヌは嬉しそうに話しているが、ポールはさみし気にしている。



 「もしかして、私が居なくなったらさみしいの」


 「さみしくなんかないよ。王都で働くのが姉さんの夢だったから、とても嬉しいよ」



  ポールはぎこちない笑顔で答える。



 『ポール君のお姉さんは王都に行くんだぁ~。ポール君・・・さみしそうだなぁ~』



 私の調査によりポールがドリアーヌを慕っていることは確認済みである。


 

 「ポール、心配しなくても大丈夫よ!立派な魔道具技師になってあなたの装備品も私が作ってあげるわよ」


 「本当に!楽しみにしているよ」



 ポールはとても嬉しそうに目を輝かせた。



 『私のクロスアーマーはボロボロだし、私の装備品も作って欲しいなぁ~』



 前回のラパンの戦闘で、ただでさえボロボロだったクロスアーマはさらにボロボロになっていた。



 「今日は仕事が終わったら一緒に食事をしましょう」


 「本当に!すごく嬉しいよ」



 2人が仲睦まじく話している姿が、とても眩しすぎたので、私は魔武具店を出る事にした。



 『食事の確保は問題ないから、次は防具を慎重しないとね。でも、人に姿を見せる事が出来ない私はどうやってお金を稼ぐことが出来るのかしら?』



 私は孤児院の物置小屋に戻る最中お金の稼ぎ方を考えていた。



 『姿を見せずにお金を稼ぐ方法なんてないわ。このままこっそりと魔獣の狩りをして、一生人目につかない生活を送るしかないわ。でも、それは私が思い描いていた夢だわ。そうよ、誰にも接することなく生きていくのが私の夢だったはず・・・』



 唯一会話することが出来る両親を失ったあの日から、私は誰とも会話をしていない。無理やり馬車に乗せられてパステックの孤児院に来た時も、私は俯いたまま一言もしゃべらなかった。しかし、孤児院で育った私は、王国騎士団に入隊することは義務であり使命でもあるので、勇気を出して入隊する決意をしたが、入隊することは出来なかった。それどころか、孤児院から逃亡した犯罪者として指名手配される事になった。どうせ、このまま姿を見せることが出来ないなら、孤児院の物置小屋で一生を終えるのも悪くないとも思った。



 『なんで・・・なんでこんなに心が苦しいの。夢が叶ったのよ。ラパンを倒して1人で生きていく目途がたったじゃない。これが私の望んだ幸せなはず・・・でも、心が痛いよ、痛いよ』



 孤児院の物置小屋に戻ると私はすぐに棚の上に登ってふさぎ込む。



 『痛いよ。胸が痛いよ』



 私は心の中で何度も何度も呟いた。そして・・・



 『私・・・冒険者になりたい。サミュエル君達と一緒に冒険をしたい』



 サミュエル達と行動を共にするうちに、私も仲間に入りたいという気持ちが芽生え、それは次第に大きくなっていたのである。



 『無理よね。コミュ障で才能もなく、姿も見せる事もできない私が仲間になんてしてもらえるわけないよね』



 私は自分の弱さを自覚しているからサミュエル達と仲間になりたいという気持ちを封印することにした。



 『そうよ。私は1人で生きていくのよ。でも、もう少しだけサミュエル君たちと一緒に行動をしてもいいよね』



 私は自分の心に嘘をついて自分の気持ちを抑え込んだ。




 それから2週間後



 私は今日も冒険者ギルドでサミュエルが来るか朝から張り込みをしていた。



 『あ!サミュエル君が来たわ』


 「クロエさん、魔獣の世界への入場許可をお願いします」


 「ご希望の曜日を教えてください」


 「明日は空いているでしょうか?」


 「確認します」



 「サミュエルさん、明日はまだ空きがあるので問題ありませんよ」


 「それでは明日でお願いします」


 「わかりました。冒険者証の提示をお願いします」


 「はい」


 「メンバーに変更はありませんか?」


 「ありません」


 「登録完了しました。無理をしない程度にがんばってくださいね」


 「はい!」



 サミュエルは大きな声で返事をして冒険者ギルドから出て行った。



 『明日狩りに行くのね』



 私は明日の狩りに向けて公園の練習場に向かった。



 「パンジャマン、アイツら明日狩りに行くみたいだぜ」


 「そのようだな。俺たちも行くぜ」


 「わかった。でも、まだアヴァランチを使いこなせていないのではないのか?」


 「アヴァランチはアイツも使っているブロンだ、アイツに使えて俺に使えないわけがない。リコイル制御のクセはある程度理解したから問題はない」


 「わかった。入場許可をもらってくるぜ」


 「ああ」



 パンジャマン達も同じ日に魔獣の世界へ入る許可を申請した。



 




 

 

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