第25話 私のデビュー戦


 『私にも出来るはず。サミュエル君達と違って私は魔獣には姿が見えない。物音を立てずに静かに近寄れば、ラパンの魔核を破壊できるはずよ。半年間不味いくず肉と水しか食していないし、美味しいラパンの肉が食べたいのよ!』



 美味しい肉を食べたいという気持ちは心を大にして言いたい。売り物にならない堅くて苦い肉を水で流し込む生活を半年も続けたら、ラパンの姿を見たら極上のお肉に見えるのは当然である。最初は緊張感をもって見学をしていたが、最後の方はラパンを食べたくてしょうがなかった。



 『足場の悪い岩場エリアは戦いにくいから平原エリアに行こう』



 私は戦いやすい平原エリアに向かう。ラパンは草食魔獣なので草原エリアで草を食べる所をこっそりと近寄って退治することにした。


 1時間後



 『いたわ!2体のラパンが草を美味しそうに食べているわ』



 草原エリアは見晴らしがいいのですぐにラパンが見つかると思っていたが、食事の時間帯が過ぎていたのか、なかなかラパンを見つけることができなかった。1時間ほど探していたら緑地エリアから出て来た2体のラパンが草を食べだしたのである。


 食事をしている時のラパンは要注意と地図に書いてあった。一見食事に夢中でスキがあるように思えるが、実は逆であり、食事をしている時は耳をピンと立てていつも以上に周りを警戒している。


 草原を歩くと、どうしても草を踏んだ時の音がする。しかし、出来るだけ足音を立てない方法がある。この方法は岩場エリアでもオレリアン君達もしていた。足音を出来るだけ立てない方法とは、小指から親指の順に爪先をおいて踵を最後につける【抜き足差し足走法】である。冒険者になる者は必ずと言っていいほどこの走法で魔獣に気付かれないように近寄るのである。


 私は【抜き足差し足走法】でラパンとの距離をじわりじわりと詰めていく。ラパンは私に気付かないでモグモグと草を美味しいそうに食べている。



 『後2m』



 ラパンと私との距離は2mに縮まった。エタンセルの射程範囲は5mなので、この距離なら最大限に近い威力を発揮する。しかし、レア達が使用していたフラムに比べてエタンセルは威力が弱い。私は確実に魔核を破壊できるようにラパンとの距離をさらに縮めていく。



 『この距離なら問題ないわ』



 ラパンとの距離はほぼ0である。私はラパンに気付かれないように近づいて真正面に立つ事に成功した。


 私はエタンセルの銃口をラパンの魔核に向ける。これだけ近ければエイム(照準)を合わせる必要もない。


 

 「バン」


 

 私は引き金を引いた。すると魔核にはヒビが入ったが完全には破壊出来なかった。ラパンはいきなり大きな銃声が耳元でなったので、ビックリして飛び跳ねた。



 「ギャー―――」



 大きな悲鳴を上げたのは私である。驚いて飛び跳ねたラパンの頭が私の腹部に衝突したのである。


 

 「痛いよ、痛いよ、痛いよ」



 私が装備していたクロスアーマーには亀裂が入り私は平原をのたうち回る。



 「うううう。うううう」



 私は口を抑えて悲鳴を上げるのは止めた。なぜならば、もう一体のラパンが耳を立てて警戒しているからである。



 『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い』



 私は痛みを我慢しながら心の中で叫ぶ。



 『回復をしないと』



 魔核にヒビの入ったラパンは森の中へ逃げて行ったが、もう一体のラパンは辺りを警戒するように平原をゆっくりと歩いている。


 呼吸をすると胸が痛い。体を少しでも動かしても胸が痛い。おそらく私はラパンの頭突きによって肋骨が何本かヒビが入っているだろう。四肢の切断など大きな損傷以外なら治療薬や治癒魔法で治すことができる。私はお金がないので治療薬を持っていないので、治癒魔法で治療することにした。


 治癒魔法は学校や孤児院で習っているので私でも使える。治癒をするには体に流れている魔力を治癒したい部分に集中させる。ケガの度合いにもよるのだが、ヒビぐらいなら1時間程度で治すことはできる。



 ※治癒魔道具なら一瞬で治すことも出来る。ランクとしては治癒薬→治癒魔法→治癒魔道具。



 私は苦痛に満ちた表情で声を出さないように平原で横になっていた。完治するまではまだまだ時間がかかる。無理に移動すると胸が突き刺すように痛い。呼吸をするたびに針で胸を刺されたようにチクチク痛みが伝わる。このような状態が30分ほど続いたが徐々に痛みが和らいでくる。


 1時間が経過した頃、呼吸をしても痛みが無くなった。しかし、体を動かすと胸が少し痛むので、まだ動くことを控えることにした。



 『私はバカだ!サミュエル君達の戦いを見て自分も強くなった気になっていた。サミュエル君達は、学校でも優秀な成績を収めるエリートよ。私なんて・・・人の前に姿を見せる事もできないコミュ障だし、授業もずっと掃除道具入れの隙間から勉強をしていただけ。そんな私が・・・サミュエル君達のように、簡単にラパンを倒せるなんてできない。いや、簡単に倒していたように見えただけで、計算された動きで慎重に戦っていたはず。私は【無】のギフトに頼り切って、考えなしに正面からラパンに近寄り射撃した。なんてバカだったの。正面から射撃したら驚いて飛び跳ねるなんて当たり前じゃないの』



 私は自分の不甲斐無さに心から悔やんでいた。

 


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