第11話 美しいフォーム


 レアは明るく元気な女の子。魔法も勉強も優秀なうえ誰にでも優しくて学校のマドンナ的な存在だったので、私が一番苦手とするタイプである。レアの両親は成り上がり貴族である。レアの父は冒険者でランクはブラーブ。ブラーブになると国からバロネット(準男爵)女性の場合はバロネテス(女準男爵)の爵位が授与される。成り上がり貴族は本人のみが貴族としての特権を得る事はできるが家族は対象外なので、レアは平民である。レアの母は魔道具技師であり、その功績を認められて国からバロネテスの爵位を授与されているので、両親共々貴族なのである。


 ※平民から爵位を授かって貴族になった者を成り上がり貴族と呼ばれている。


 優秀な両親の血を引き継いだレアは、魔銃の腕も技師としての技術もかなり高いと評判である。魔道具技師として生きる方が安全だが、自分で素材を手に入れて自分で魔銃をカスタムするという二足の草鞋という困難な道を選んだようだ。


 レアは射撃位置に立つと、フラムを右手で握りしめオレリアンのように左右に移動しながらクレーが飛び出して来るのを待っている。クレーが飛び出した瞬間レアはジャンプして、右手でグリップを握りながら左手でフォアグリップ(先台)を持ち魔銃の安定を保ち、アイアンサイトでクレーの軌道を予測しエイム(照準)を合わせてトリガーを引く。レアの全く無駄のない美しいフォームに、その場に居た全員が酔いしれた。


 レアも全てのクレーを破壊して満点合格である。レアが破壊したクレーは粉々に砕けていたが、クレーの破片はすべて均等の大きさであった。これは、レアが放った魔弾がクレーの中心に当たっていることを示すものである。ルージュは一発の魔弾が数発に散弾するのでクレーに当たりやすい。オレリアンもポールもクレーを全て破壊したが、クレーの破片をみると、砕け方に偏りがあり散弾した全ての魔弾がクレーに当たっていないことを示していた。


 一番難易度の高い射撃術で一番正確にクレーを破壊したのはレアであることはその場に居た全ての者はすぐに理解した。



 「パチ・パチ パチ・パチ パチ・パチ パチ・パチ」

 「おめでとうレア!」



 拍手をしてレアに祝福したのはサミュエルである。



 「ありがとう」



 レアは笑顔で答える。



 「おめでとう」



 素直に喜べないオレリアンも祝福の言葉を述べる。



 「ありがとう」


 「おめでとう」



 小声でポールも祝福する。



 「ありがとう」



 レアはみんなに分け隔てなく笑顔で答える。



 「次はサミュエルの番ね!」


 「そうだね。俺だけ不合格にならないようにがんばるよ」


 「謙遜しちゃって、サミュエルが試験に落ちるわけないでしょ」


 「緊張して本来の実力を出せずに不合格になる者もいる。俺も気を付けないと」


 「サミュエルが緊張?そんなことありえないわ。あなたはいつだって冷静で落ちついているわ」


 「そのように心がけているのさ。レアの見事な射撃を見れば誰だって緊張するものだよ」


 「そうかしら?でもサミュエルの緊張する姿も見たいものだわ」



 レアは嬉しそうに笑った。



 「サミュエルさん所定の場所に移動をお願いします」


 「わかりました」



 サミュエルはブロン(マシンガン)で試験を受ける。ブロンの試験は100m先の人型の的の頭にワンマガジンである30発中20発命中させることを1セットとして、6セット行われる。6セット全て成功すれば合格である。


 サミュエルはエスパスからアヴァランチを取り出す。ブロンを扱う者は魔獣から離れた場所で、前衛が魔獣を引き付けているのを狙い撃ちするのが役割である。なので、ルージュのように動き回る必要はなく、姿勢を正し両手でしっかりと魔銃を構えて安定したフォームで確実に魔獣を狙う必要がある。


 ブロンの一発の威力はリュージュには劣るがワンマガジンで最低30発連続で発射することができるので、全ての魔弾を魔獣の弱点である魔核に命中させれば、弱い魔獣ならワンマガジンで倒すことができる。


 サミュエルが扱うアヴァランチは弾速が早くてリコイル(反動)が大きいので扱いにくい。


 サミュエルは肩幅程度に足を開き少し中腰になり重心を低くする。これはリコイルを制御するためである。そして、右手でグリップを持ち指をトリガーにかけ、左手でハンドガードを優しく支える。あまり力を加えると肩に力が入り過ぎて美しい姿勢が保てない。ストック(銃底)を右側の頬の付け根に当てて安定性と精度を向上させる。


 ブロンにはスコープが必須であるが、試験ではスコープの使用は認められていない。100m先の的には遮蔽物もなく移動もしないので、スコープを使うと簡単過ぎるので禁止されている。


 サミュエルは呼吸を落ち着かせて、アイアンサイトでエイムを合わせてトリガーを引いた。激しい銃声が鳴り響く中、サミュエルはリコイルを完璧に制御して全弾を的の頭部に命中させた。


 的を確認すると的の頭部には直径5㎝の穴が開いていた。的の頭部の大きさは30㎝程で魔弾の大きさは1,2㎝である。針の穴に糸を通すとまでいかないが、それに近い芸当を成し遂げたと言っても過言ではない。


 その後もサミュエルは一発も魔弾を外すことなく全弾を的の頭部に命中させ、4人全員満点合格を成し遂げた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る