第11話 突破口

【俺はダンディー】11



目的の中華料理店に向かう途中、建物の陰に二人の男が倒れているのを発見した。

見過ごすワケにも行かず近付いてみると、二人とも顔は腫れ上がり、鼻や口から血を流しているではないか。

しかも一人はなぜかパンツ一丁だ。

「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」

俺が頬を叩いて呼び掛けると、二人はすぐに意識を取り戻した。どうやら大した事はなさそうだ。

「大丈夫か?何があった?」

しかし二人は俺と目を合わせることもなく、虚空を見つめたまま、

「バケモノだ…あいつはバケモノだ…」

「僕達が悪かったです…ごめんなさい…」

と、何かに怯えながら、取り憑かれようにうわごとを繰り返す。

「お、おい…もう誰もいないから安心しろ。誰にやられた?服はどうした?奪われたのか?」

と聞いてみても、二人の反応は変わらず、

「もう勘弁してください…(ToT)」

「革ジャンと革パンツくらい差し上げますから…(T△T)」

と、そこには居ない誰かに向かって懇願し続けている。

そして最後に声を合わせて

「ちょっかい出してごめんなさ~い!…」

と叫びながら、二人は走ってその場から逃げ出してしまった。

あんなに元気に走れるんだし、不良同士のケンカだろうと勝手に自己解決して、俺は先を急いだ。



サラが教えてくれた通り、2ブロック先に中華料理店の裏口があった。『北京飯店 通用口』と看板に書かれている。

「どうやらココで間違いなさそうだな…」

銃を構え、ドアノブに手をかけた。

幸いにもドアに鍵はかかっておらず、音を立てないよう細心の注意をはらって、そっと3cmほどドアを開けて中の様子をうかがった。

暗い通路の先に明るい空間が広がっている。

そこから聞こえる音と、美味そうな匂いと、白い割烹着を着た何人かが忙しそうに動き回っている様子から、おそらく厨房なのだろうと判断した。

俺は忍び足で厨房の手前まで進み、物陰に身を潜めた。

すると、おそらくここのオーナーと思われる男の怒鳴り声が聞こえてきた。

「みんな急ぐアルよ!大好きなプタが食べられなくなって小川代議士すこぶる機嫌悪いアル!私もっと機嫌悪いヨ!急いで代わりの料理出さないと私達みんな殺されるヨ!」

数人のシェフ達は、死に物狂いで料理を作り、観音開きの扉の向こうへ入れ替わり立ち替わり料理を運んでいる。

どうやらあの扉の向こうがパーティー会場らしい。

「さて、問題はどうやってパーティー会場に潜入するかだな…」

オーナーやシェフ達を殴り倒して先に進むことは容易いが、何の罪もない一般市民を殴るのは気が引ける。かと言って、彼らに気付かれずに厨房を抜け、扉にたどり着くのは不可能に思えた。

どんだけ無い知恵を絞り出しても、良いアイデアなど思い付くはずもない。

ほとほと困り果てた俺は、ふと考えた。

こんなとき、小田切だったらどうするか…

答えは簡単に見つかった。


「すみませ~ん、小川代議士のパーティー会場はどこですかぁ?」

そう言いながら俺は、堂々と厨房に足を踏み入れた。間違って通用口から入って来たように装い、口調まで小田切に似せて…(-_-;)

「ちょっと!アナタ入って来たの通用口!ここは厨房ネ!スタッフ以外立ち入り禁止タカラ!パーティー会場その扉開けて通路抜けた所タカラ、さっさと行くアルよ!」

と、すんなり通過することが出来た。

良くも悪くも純粋すぎる小田切は、こうやって世間を渡り歩いているのか…と、小田切スピリットを垣間見た気がした。

オーナーの言うように、観音扉を開けると通路になっており、10mくらい先にもう一つの観音扉があった。

通路の途中、両サイドに豪勢なドアがあり、それぞれにVIP roomと書かれた金色のプレートが付いていた。

もう一つの観音扉の向こうから、ガヤガヤと人の話し声が聞こえてくる。察するに、かなり大勢の人間が扉の向こうにいるようだ。

今度こそスナイパー・ジョーがいるはずのパーティー会場が目の前にある。

自然と気合いが入り、全身にアドレナリンが吹き出るのを自覚した。

その時だ。

パーティー会場へ繋がる扉が開き、黒ずくめの男が一人、通路へ入ってきた。

慌てた俺は、顔を背けてアマガエルのように壁にへばりつく。しかし、忍者でもないかぎり見付からずに済むはずもない…。

「おいお前、ここのスタッフじゃないな?こんな所で何してる?」

「あれ?おかしいなぁ…僕どうしちゃったんだろ?パーティー会場に行く道間違えちゃたみたい…会場はどっちですかぁ?」

しかし、二度目の小田切なりきり作戦は、黒ずくめの男には通用しなかった。

「き、貴様は!ダン…」

ボカッ!

渾身のアッパーカットが黒ずくめの男の顎に炸裂する。

「銀河中の悪党どもに面が割れてるってのも面倒臭ぇなぁ…」

一発KOしたのはイイが、このまま通路に放置しておくワケにも行かず、VIP roomのドアを開けた。

今日はパーティーで貸し切りで、VIP roomには誰もいないだろうと踏んだのだが…。

そこには、目隠しと猿ぐつわをされ、車椅子に手足を縛りつけられた人物がいた。

「?…ジャック!?」

俺はすぐさま目隠しと猿ぐつわとロープを外した。

「ジャック、どうしてお前がココに?」

「ワケわからねぇよ…店に向かってる途中いきなり拉致られて…ココがどこかも見当がつかねぇ…ダンディーこそ、何でココが分かったんだ?」

「偶然だ。いや、ゴンザレスが導いてくれたのかもな…」

「兄貴には会えたんだな?で、兄貴は?」

「ゴンザレスは…」

俺は、ここに至るまでの出来事を話した。

「すまない、ジャック……俺のために…」

「気にするな、兄貴はダンディーに賭けたんだ。自分で選んだ道、後悔はしてないはず…いや、あの世の兄貴を後悔させるかどうかは、ここから先に懸かってる!」

「…そうだな、ここからが勝負だ!」

「ダンディーの話だと、今ここにジョーがいると?」

「そのはずだ。小川代議士の闇献金パーティーのスペシャルゲストとして…な」

「だったら俺も戦うぜ!兄貴の仇だ!」

「それはダメだ!この上さらにジャックの身に何かあったら、それこそあの世でゴンザレスに会わせる顔がない…。それにな、ジャック、正直今のジャックではジョーの格好の餌食になるだけだ」

「兄貴の仇を討たせないってのか?車椅子の俺じゃ戦えないと?」

「そうは言ってない。ただ、ジャックには違った形で戦ってもらいたいんだ」

「違った形?」

「そうだ。あの時のように、警察の機動部隊を連れて来てほしい」

「もう何年も前に情報屋から足を洗った俺の話を警察が信じると思うか?」

「大丈夫、俺は信じてる。俺も踏ん張れるとこまで踏ん張ってみる。しかし相手はスナイパー・ジョーだ、どれだけ持ちこたえられるか…。つまりジャック、時間との勝負ってことだ」

「わかった。しかし、ココからどうやって抜け出す?」

「それなら安心しろ、いい作戦がある」

俺はジャックに作戦を伝えた。



厨房に、車椅子に乗った黒ずくめの男が入ってきた。

「すみませ~ん、通用口はどこですかぁ?」

「ちょっとアナタ!ここ厨房ヨ!」

「ボスの指示なんですけどぉ、ボスの友人が通用口の所に来るらしくて、その人に表玄関では渡せないブツを渡してこいって言われたんですぅ」

「アナタのボス?小川代議士の指示?それなら問題ないヨ。通用口そこの通路進んだ突き当たりネ。ワタシ車椅子押すの手伝うか?」

「余計なもの見ると、命縮めることになるかも知れませんよ?」

「そ、そうアルね…。通路暗くて狭いから気をつけてヨ」

「ありがとうございますぅ☆」

ジャックは、意とも簡単に厨房を抜けることが出来た。

「ダンディーの言う通り、意外とあっさりだったな…あの喋り方に秘訣があるのか??」

なんてことを考えながら、小田切スピリッツなど知るはずもないジャックは無我夢中で警察への道を急いだ。

そしてVIP roomには、目隠しと猿ぐつわをされた上に、ロープで縛られたパンツ一丁の男が横たわっていた…。




「上手く抜け出せたみたいだな…頼んだぜ、ジャック」

俺はコルトを握りしめ、グリップからマガジンを抜き取り弾数を確認すると、再びマガジンをセットし直す。

一度スライドして弾丸を装填し終えると、安全装置を解除した。

「…さあ、いよいよ本番だ」

身体は熱くなるほど興奮してるのに、心は驚くほど落ち着いていた。



=つづく=

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