第21話 ドラフト開始

 ドラフト当日、俺は執務室でドラフト開始時刻を待つ。


「そろそろか。」


 俺がそうつぶやくとほぼ同時に今回はダンジョンの操作をする水晶玉にドラフト開始の合図が流れる。

『Your Turn』

 画面にそう表示されると11枚のカードがスクリーンに並ぶ。そして、画面の上部には制限時間が表示される。俺は一息ついてから画面を操作する。操作が終わると画面が切り替わった。

『選択完了』

 画面にそう表示されしばらくするとエントランスの方からチャイムのような音が流れてきた。どうやらこれが他のマスターに選択が終わったことを伝える音らしい。

『ダンジョン:創

選択カード【刻】』

画面が切り替わり、俺の選択したカードが表示される。俺とルイスが満場一致で選択したカードがこれだった。まず、Sランクとして持てる候補で最強なのがこのカードだったというのが理由の一つだ。時間に関わる能力を持つSランクは同じSランクの中でもぶっちぎりで強いだろうと言うのが予想がついた。俺がだから選ぼうと思っていると伝えるは同意した上でこう続けた。


「時間に関わる能力と言っても未来視や加減速などさまざまあるけれど、Sランクにふさわしい能力なら時間停止の可能性が高いわ。自分もしくは任意の相手だけが動ける空間を作り出せるなら同じSランクでも抗える敵はほとんどいないはずよ。」


 刻に関わる能力でも最大の脅威がこの時を止める能力だ。その代わり負担が大きい能力になるとは思うが一度でも使えれば戦況がひっくり返るだけの能力でもある。選ばない理由は無いだろうと言うのが一つ目の結論だ。

 二つ目の理由はもしこのカードが敵のカードになったときの代償がデカすぎることだ。他のダンジョンが選ぶ場合、Sランクになることはほぼ無いと思われるが未来視などの能力を持たれると厄介だ。念のため、他のカードも吟味したがこのカード以上の脅威になりそうなカードは無いと結論づけた。結果的にこのカードの1位は揺るがないというのが俺とルイスの判断だ。


 しばらくしてチャイムが鳴り、画面が『鋼 選択中』から切り替わる。

『ダンジョン:鋼

選択カード【龍】』

 2番目にこのカードが選択されるのは俺も他のダンジョンも予想通りだろう。ドラゴンは全てAランク以上に分類されるほど強力な魔物だ。強靱な体と強大な魔力量を両立し、安定した強さを持つダンジョンマスターの間でも人気な魔物だ。ドラゴンが出ればまず当たりと言われるくらいハズレが無いのも特徴である。

「今回のドラフトの目玉銘柄が順当に消えたな。」

 おそらく俺たちが選択した刻とこの龍はどのダンジョンが選択権を持っても2位までに消える人気銘柄だった。ここまでは頭一つ以上飛び抜けていたので予想できたがここからは難しくなってくる。

『ダンジョン:空

選択カード【獄】』

 空が選んだのは獄。地獄に関連する魔物が濃厚だ。地獄という過酷な環境で暮らす魔物なら強い魔物が召喚できるということだろう。

『ダンジョン:邪

選択カード【将】』

 指揮官クラスの上級の魔物が狙えるカードが次に消えた。2連続失敗したくないという選択が続いた印象だ。この辺の順位のダンジョンはこれ以上、上の順位のダンジョンと差は広げられたくないだろうからこういう選択になるのだろう。

『ダンジョン:氷

選択カード【雷】』

 正直、このカードはもっと上だと思っていた。単純に属性のカードはそれだけでも違いが作れ、雷は今シーズン優勝した海へのカウンターにもなるからだ。とはいえ、氷は炎の弱点を消すための水だと思っていたが。

『ダンジョン:聖

選択カード【水】』

 氷で消えると思っていた水は聖が取った。こちらに関しては似たような属性の海が手に入るのでもう少し人気が無いと思ったのだが海はAランクのカードをトレードで出さないだろうからあり得ない選択でも無いのだろう。ここまでで6枚のカードが消え残りは5枚。

『ダンジョン:獣

選択カード【翔】』

 少しタイプは違うが空と近い印象の翔がここで消える。選んだのが獣のダンジョンなのでシンパシーのありそうなカードではあるが。




「さて、俺たちのターンか。」


 炎のダンジョンから入手した分の指名順になった。残るカードは『魅』『明』『夢』『堅』の4枚だ。このうち2枚が俺のカードになるわけだが。絶対に選ばれないカードがあるのなら少し考えないといけない。


「ルイス、どう思う?」


 ここは1人の頭で考えず相談して決めるべきだろう。


「絶対に最後まで残らないのは『明』でしょうね。邪のダンジョンへのカウンターになる光属性の魔物が召喚できる可能性が高いから戦力として使える算段が高いわね。あたしやアンデッドたちへの特攻にもなるから地が取らなければ海が確実に取るでしょうね。」


 何かの対策になる魔物はそれだけで価値がある。自分たちに刺さるカードを先に排除することも選択肢なのだが。


「俺たちが取りたいのは強力なSランクだしな。明から生まれるとしたら光属性か。聖のダンジョンが天使のSランクは持ってたな。あれと似たような感じならルイスとの相性は良くないか。」


 前方への光属性全体攻撃は前衛のルイスにとって危険すぎる。もちろん、全く違う魔物が召喚される可能性もあるが。


「他に選ばれる可能性が高そうなのは残りのカードだと『堅』だと思うわ。海も地もSランクは後衛だし前衛が担えそうな『堅』は選ばれる可能性は高いんじゃないかしら。」


 海も地も初めてのAのカードになる。Sランクとの相性を考えるなら確かにその可能性も高い。この予想は外れたときが痛いけど、とルイスは付け足す。


「後衛濃厚な『夢』『魅』は選択しづらいか。」


 制限時間は半分が経過した。


「あくまでもあたしの予想だからね。当たらなくても責任は取れないわよ。あたしならこう選ぶって考えただけ。信用してくれるなら嬉しいけど。」


 ルイスが絶対では無いと念を押す。


「うん、今ので決めたよ。俺は全面的にルイスを信用してる。」


 俺はそう言って選択を決めた。

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