第24話、刑事、カカ・カ

 刑事


 船の近くでカカ・カは網の補修をしているようだった。刑事のコソ・ヒグは、カカ・カの住む村に来ていた。

「なにか用か」

 カカ・カが作業の手を止めコソ・ヒグに声をかけてきた。

「警察のものです。妹さんの殺害事件についてお聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか」

「ああ、かまわない」

 そこでいいかと、カカ・カは港にある休憩所をあごで指した。赤い屋根の木造、引き戸を開けると、長テーブルが四つ、汚いソファーが壁の端にあり、パイプ椅子がバラバラに置かれていた。コソ・ヒグはパイプ椅子に座り、カカ・カは紙コップにお茶をいれ、コソ・ヒグの前に出した。

「どうも、私は刑事のコソ・ヒグといいます。実は、城で起きたある事件の捜査をしていまして」

 コソ・ヒグは見習いパン職人の首つり遺体の話と、その職人の部屋から血のついた包丁が発見された話をした。カカ・ミ嬢殺害の犯人にするため、フウ・グを自殺に見せかけ殺したのではないかという、コソ・ヒグの推理は話さなかった。

「それで」

「見習いパン職人のフウ・グというものですが、見覚えはありませんか」

 コソ・ヒグはフウ・グの顔写真を見せた。

「いや、知らない」

「妹さんからこの名前を聞いたことは」

「いや、ない」

「妹さんのことですが、殺された動機に心当たりは」

 コソ・ヒグはためらいがちに聞いた。

「それもない。鶏肉を落としたとか、それしか言わなかった」

 淡々と答えた。なぜ、この男は裁判を起こしたのだろうか。妹が、ある日突然、五体バラバラになって運ばれてきた。なにがあったのか、雇い主を訴えるのは当たり前のことなのだが、王様を訴えるのは、普通はできない。何がこの男を駆り立てているのだろうか。

「本当にあなたの妹さんでしたか?」

「ああ、そうだ」

「遺体はバラバラにされていたそうですよね。直視できましたか」

 解体された妹の遺体を、まじまじと見られるだろうか。

「ああ、見た。確かに妹だった」

「間違いありませんか? バラバラになった妹さんの顔をあなたは、はっきり見たんですか」

「間違いなく。妹だった」

「他に、あなたの妹の顔を知っている人間で、あなたの妹の死体を見た人間はいるのですか」

「いや、いない。親や身重の妻に見せられる状態ではなかった」

 妹の死が偽装としたらどうだろう。死体の確認は、兄であるカカ・カしかしていない。考えすぎだろうか。

「ドン・ミニという男の名前に聞き覚えはないですか」

「いや、聞いたことがない名前だ」

「港で働いていた男なんですか。中等学校時代に妹さんがよく会いに行っていた男です」

「いや、知らない」

 首を振った。

 もし、妹のカカ・ミの死が偽装だとしたら、その目的は何なのか。ドン・ミニという男と、国外に出る計画を立てていたというのはどうだろうか。国の許可無く、国の外に出た場合、死罪になる。その家族も、処罰の対象になるときもある。兄は、妹の死を偽装して、なおかつ自分たちへの処罰を避けるため、王を訴え、妹が城で殺されたかのように偽装した。いや、やはり無理がある。そうなるとフウ・グを自殺に見せかけ殺す理由がない。

「あなたは、妹さんの死を偽装したのではないですか」

 とりあえず、ぶつけてみることにした。

「は?」

 驚いたような表情を見せた。

「妹さんの遺体を見たのは、肉親ではあなただけです。埋葬された遺体が妹さんだったと、証言しているのはあなただけなんです。逆を言えば、妹さんに似た人間を殺して、バラバラにして海に埋葬してしまえば、その遺体は妹さんだったということになる。あとは、妹さんが殺されたと王を訴えることによって、嘘の補強をした。どう、ですかね」

 最後の方は自信なさげに言った。

「なるほど、そういう考え方もできるのか。確かに、妹の死体を見た人間は、妹を殺した人間と俺以外いない。運んできた奴も見たかもしれないが」

「そいつが、ドン・ミニではないですか。カカ・ミ嬢とよく港で会っていた荷持ちのドン・ミニではないですか」

「悪いが城の使いの名前は知らない。ドン・ミニという名前にも心当たりはない」

 カカ・カの反応を見る限り、嘘をついているようには見えなかった。

「あなたの妹は語学が堪能だった。その男と海外に逃げるため、あんたの妹は自分の死を偽装したのではないですか」

「ずいぶん込み入った話のようだな。少し奇妙だが、あんたなら、よし、ついてこい」

 カカ・カは歩き出した。

「ちょっと、どこに行くんですか」

 コソ・ヒグは慌ててついて行った。残念ながら自分の推理は当たってないようだ。コソ・ヒグはそう思った。

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