太宰治が好きな男にとって、銀河鉄道伝説は南十字星への旅ではなかった。

タイトルの「銀河鉄道の……。」に惹かれ、作品の冒頭で語られる『人間失格』に懐かしさを覚えて、作品を読み進めてゆく。────ところが、そこには、予期しえない〝日向ワールド〟が待ち受けています。

混迷極まる時代には、どこにもいそうな主人公の悩める学生が登場してくる。
最後まで、切ない独白が続いていきます。あまりに奥深い隠微な領域に入り込み、いつしか夢と希望あふれる銀河鉄道のエピソードは忘れて、太宰治はおろか、自らを死刑に処した三島由紀夫の『仮面の告白』の世界までオーバーラップするのは僕だけだろうか。

両者に共通するのは、ともに能動的な“アポトーシス”を選択したこと。前者は異性と、後者は同性の違いはあるが……。大家の両者と同様に翳りのある主人公は羨ましいほど異性に人気があり、バイト先の若い女性と出会ってゆく。

最初で最後に彼らが選んだ旅先は、澄んだ星空の下に広がる、どこまでも儚い群青色の海だった。思わず、「やめろ。死ぬな」と叫びたくなる。
ところが、ふたりは生きることに、真逆なアンチテーゼの道を選んでしまう。

一気に読み終わり、何度も読み返してゆく。涙すら零れてしまうほど、とても切ないが、名作だと思います。ありがとうございました。