第42話 落ちた先で

 標識の力でも流石にこれを登るのは厳しい。どこか上に戻れる道を探した方がよさそうだ。


「行くぞ。出口を狙わないと仕方ない」


 僕が無事だとわかったからか出口を探すためにアグレイが動き出した。

 

 ……罠に関しては仕方ないと思ってる。誰だって完璧に全てがこなせるわけじゃない。それにあの宝の罠は一度外されている以上、二重トラップだった可能性が高いだろう。


 ただ、一言ぐらい何かあってもいい気はしてしまう。謝罪までは求めないけど一体何故トラップが発動してしまったのかなど理由を説明してくれるだけでもだいぶ違う。


 やはりまだ僕は嫌われているのだろうか。ゴブリンロードこそ倒したけど僕が余所者であることは変わりない。


「あの、ブレブさんが言っていたようにそろそろお互い歩み寄ることも必要ではないでしょうか? 僕は余所者ですし不愉快に思うこともあるかもしれませんが」

「別にもうそんなことは考えてねぇよ」


 僕は少しでも関係を改善出来ないかと思いアグレイに伝えたのだが、彼から返ってきた言葉は意外なものだった。


「もう、気にしてないってことですか?」

「……俺も考えはブレブと一緒ってことさ」


 前を歩きながらぶっきらぼうにアグレイが答えてくれた。


 そうだったのか。確かに口数こそ少なかったけどゴブリンロードを退治してからは僕を疑うような発言も鳴りを潜めていた。


 アグレイはアグレイでもしかしたらどう接するべきか考えていてくれたのだろうか。


 お互い不器用なだけだったのかもしれない。


「そうとは知らずすみません」


 謝罪の言葉を述べるもアグレイは言葉を返すことなくマイペースに洞窟内を突き進んだ。


「……この場所が怪しいな」


 ある程度進んだ先で途中が膨張したように広がった場所に出た。まるで獲物を丸呑みした蛇の胃の中を歩いているかの如く。

 

 奥には先細りとなった横穴が続いているのが見えた。周囲には他に穴はない。この場所だけがぷっくりと膨れているのだ。


 アグレイの言うようにそこはかとなく怪しい空間だ。


「ちょっと調べてみるか。マークも向こうの壁とかチェックして見てくれ」


 そう言ってアグレイは天井を見上げたり片側の壁を調べたりし始めた。

 

 僕も言われた通りアグレイが調べている方とは逆の壁に向かい、コンコンっと叩いてみたりした。


 ただ僕はフェレスやアグレイのように探索能力に長けてはいない。あくまで標識を召喚して効果を発揮するタイプだ。


 調査に役立つ標識でもあればいいのだろうけど残念ながらそういった類はない。


 これは一応調べては見るけれど、念のためアグレイにも確認してもらったほうがいいかもしれない。


「一応調べたけど――」


 そう僕がアグレイに声を掛けたときだ、何やらガシャンっという不安な音が僕の耳にこだました。


「全くとんだお人好しだな」


 見ると既に反対側の横穴から出ていたアグレイの姿。しかも穴はいつの間にか格子で塞がっている。


 思わず逆側も確認したが一緒だった。改めてアグレイの方を振り返る。格子越しのアグレイは不敵な笑みを浮かべていた。


「これは一体どういうつもりなんだ」

「見ての通り。お前は厄介がすぎる。俺たちの計画に邪魔なんだよ」


 計画? 一体何の話か理解が出来ない。ただ、僕が気に入らないから嫌がらせ、などといった簡単が話ではなさそうだ。


「こんなことして……ギルドにバレたらタダじゃ済まないよ」

「だろうな。もっともそんなドジを踏むつもりはねぇよ。こい! ゴブリンジャイアント!」


 ゴブリン……ジャイアント? アグレイの掛け声を疑問に思っていると突如左右の壁が崩れ中から巨大なゴブリンが姿を見せた。


 この大きさ、下手したらゴブリンロードより大きい。


 しかもこの魔物の登場の仕方――前にホブゴブリンやゴブリンに囲まれた時の状況と同じだ。

 

 そこから導き出される答えはつまり――

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