第38話 穴からの攻撃
「凄い。このままここでゴブリンを倒し続ければ殲滅も可能かもね」
「いや。流石にそんなに甘くないと思う。ゴブリンロードもいるしすぐに警戒してしまうんじゃないかな」
マジュは自分の魔法の威力が上がったことに興奮しているのか随分とはしゃいでいた。
とは言え、流石にここで似たような攻撃をしていても通用しない。だから次の手に移る必要がある。
「た、確かにゴブリンがこなくなったわね。でもどうするの?」
マジュの言うようにゴブリンがやってこなくなった。思ったよりも早く警戒し始めたようだ。
「その為に移動します。標識召喚・トンネル――」
黄色いひし形の標識を召喚した。トンネルのマークが表記されているタイプでこれを使うことで壁にトンネルが出来る。
「凄い――一瞬で穴が」
「これを抜けて向こう側へ移動します。ウルまた罠のチェックをお願い」
「ガウ!」
ウルが先行し僕たちも後から続いた。トンネルを作った時点で先に召喚した標識は消している。当然その間に来られたら厄介だったが警戒してくれたおかげで時間稼ぎが出来た。
それにしてもこのトンネル。恐らく距離で消費する魔力が決まるのだろう。
結構魔力を消費した感じがある。僕の魔力はかなり多い方だが、それでもあまり長いトンネルを作るのは厳しそうだ。
今回はここの構造が単純で助かったとも言える。おかげで横穴から横穴まで縦の線で繋げることが出来る。
距離もその分短くて済むし移動にもそこまで時間が掛からないだろう。
「ガウ!」
「ありがとうウル。それじゃあここでもう一度。マジュは大丈夫?」
「勿論。まだまだ魔力は余裕があるわ」
良かったまだ作戦は続けられる。穴が続いた先には罠がなかった。奥の壁付近には罠は仕掛けられてなかったようだ。
僕はさっきと同じように火気厳禁と一方通行の標識を召喚しマジュに魔法を行使してもらった。
今度はゴブリンがやってくる前に先制攻撃仕掛けた形だ。魔法を撃った後、無数のゴブリンがパニックになる声が聞こえてきた。
それを数回続けた後、またトンネルの標識で奥に移動し魔法を放ってもらう。
「よし、戻ろう」
「え? 戻るの?」
「うん。そうやって動きを読まれないようにして攻撃を続けていくんだ」
今までは奥に奥にと移動してきた。普通のゴブリンならともかくロードは勿論シャーマンもいる状況だ。
パターン化した動きでは先を読まれる可能性がある。
だから戻ってパターンを変えて魔法を続けてもらった。
ゴブリンの悲鳴が続く。数もかなり減ってきたかもしれない。
ただ、これだけだと中途半端だ。そろそろ追い込みを掛けたい。その為には――
「ガウガウ!」
更に移動を続け次の横穴に踏み入れようとした僕たちに待ったを掛けるようにウルが吠えた。
「どうしたのかしら、え?」
マジュが声を上げるのと正面の壁に魔法が直撃したのはほぼ同時だった。
今のはウルが止めてくれなければ直撃していただろう。一方通行の標識は毎回消しているからだ。
「これってまさか?」
「うん。流石に読まれ始めた」
読まれないように動いていたつもりだけど、片側だけに集中していた為に流石に相手も気づき始めたか。
「戻ろう!」
引き返す僕たちだったけどそこでもウルが警戒心を高め目の前を次々と矢が通り過ぎていった。
「ちょ、どうするのマーク?」
「…………」
まずい。このままだと魔法が来ないことに気がついたゴブリンの群れが押し寄せて挟撃される。
一方通行を二つ出してやり過ごすことは可能だけどそれをやるとこの場に留まる事になってしまう。
今のゴブリンは中々に賢いその場しのぎのやり方では対処される可能性も高いだろう。
「マーク、ま、まずくない?」
「――いや信じよう。きっとフェレスならそろそろ」
そう僕が口にした直後だった。
「ガウガウガウガウ!」
「な、何何? まだ何かあったの!」
「いや違う。この鳴き声はどちらかといえば――」
「全員で掛かるにゃーーーーーー!」
その時、フェレスの号令が耳に届いた。再びゴブリンがパニックに陥る声も聞こえてくる。
よし、見事に作戦通りだ。フェレスなら僕たちの魔法でゴブリンがこちらに意識が向いた瞬間を見逃さないと思っていた。
今ゴブリンたちは思いがけない援軍の登場で浮足だっていることだろう。
矢や魔法も収まった。さて、ここからが本番だ――
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