第21話 理想の国?
僕たちは標識の力で町に向かっていた。馬車の速度を上げたからかなり早く移動できている。
ただ馬車は木製だし車輪は鉄製。僕の記憶にある世界の自動車と比べると作りは荒っぽい。
それ故にあまり速度を上げると耐えられないか揺れて乗れた物じゃないかと思ったが全くそんなことはなかった。
どうやら標識での移動は振動が殆ど起きないらしい。実に安定した動きだ。そういえば標識を掴んでの移動も安定していた。
「これなら安全に町へいけますね」
「お姉ちゃんの耳可愛い~尻尾すご~い」
「え? 可愛い、にゃ? 嫌じゃないにゃ?」
「えぇ~? どうして~? 私この尻尾好き~」
「ひゃん! だ、駄目にゃ尻尾はぁ~」
どうやらこの国では種族による差別が殆どないというのは本当のようだ。子どもも普通に素顔を晒してるフェレスに接している。
それにしても尻尾を触られてフェレスの息が荒いのだが――
「だ~め。獣人は尻尾が弱いのよ。そこはデリケートなの」
「そうなの? ごめんなさい」
「べ、別に大丈夫だにゃ! 気にしてないにゃ。でも詳しいですにゃ」
「この子はまだあまり知らないのですが、獣人は良く見るようになりましたからね」
母娘の母親が教えてくれた。このあたりの会話からも獣人が街で普通に暮らしている事が窺える。
「あの、もしかしてお二人はこの国は初めてで?」
「はい。実は様々な国を渡り歩いている流れの冒険者なんです。ただカシオン共和国に来るのは初めてだったので」
「まぁそうだったのですね。ここは良い国ですよきっと気にいると思います」
「お兄ちゃんお姉ちゃん旅人なの~?」
「そ、そうにゃ。色々見て回ってるにゃ」
「すっご~い」
子どもは大はしゃぎだった。ここで敢えて国を固定しないことで詮索を避けるのが目的だったが上手く言ったようだ。
勿論ここで話したところで王国に知られることもないとは思うがここは念の為だ。
「あ、あそこが私達の暮らす町です」
母親が丘の上を指さしながら教えてくれた。壁に囲まれている町のようだ。この世界では町を壁で囲むのは常識となっている。
勿論戦事における防衛の意味合いもあるが、どちらかと言えば人を襲う害獣や魔物対策の意味合いが強い。
丘を登っていくと街門が見えてきた。門の前には屈強な兵士が二人立っており表情からどことなく物々しい雰囲気を感じた。
もしかしたらあのゴブリンが関係しているのかもしれない。
僕たちの馬車が門前に到着すると門番二人が随分と驚き近づいてきた。
「これはどうなってるんだ? 何故馬もないのに馬車が走ってくる!?」
「あ、そのこれは僕の魔法なんです」
訝しげに馬車を見てくる門番に答えた。嘘は言っていないしここからは召喚魔法についてそこまで隠すつもりはない。冒険者をやっていく以上何れは知られることだ。
「馬無しで馬車を走らせるなんてそんな魔法初めてみたが、もしかして君は高位の魔法師か何かかい?」
「いや、そこまででは」
「マークは凄いにゃ! これからきっとその名をあげて偉大な冒険者になるにゃ!」
「ちょ、フェレスってば」
興奮気味にフェレスが兵士に答えていた。確かに標識召喚は使える魔法だ。自分でもそれは認識しているけどそこまで持て囃されるのも恥ずかしい。
「お兄ちゃん達に助けて貰ったの」
「私たちは丁度この街に品を運んでいたのですが……」
すると助けた母娘がこれまでの顛末を兵士に話して聞かせていた。兵士は真剣な顔で耳を傾けている。
「そうだったのだな。確かにゴブリンの被害は目に余る。しかしご主人を亡くされるとは……せめて祈りを――」
そう言って兵士二人がその場で十字を切り黙祷を捧げた。母親が瞳を拭う。
兵士が見せた姿を見てやはりこの国に来て良かったと思えた。僕が暮らしていた王国は損得でしか物事を考えられない人間が多かった。
直前に立ち寄った町のギルドマスターみたいなタイプは珍しいぐらいだろう。特に国に仕える兵士や騎士は腐敗が進んでいる。
このように被害にあった人を目にしたからと気にかけることなどないだろう。ゴブリンに襲われたと聞けば下手したら匂いが移るなど難癖をつけて街に入れない事もありえた程だ。
「とにかく無事で良かった。二人も冒険者ということでいいのだな?」
「はい。冒険者証もあります」
「これにゃ」
僕とフェレスがそれぞれ登録証を見せると兵士が頷き笑顔を見せた。
「それなら問題ない。むしろ助かる。良ければゴブリンの問題に協力してくれるとありがたい」
「わかりました。丁度ギルドにも寄る予定でしたので」
「そうか。お二人も一緒に行き被害を訴えると良い。領主様からも商業ギルドに補助金が出ている。冒険者ギルドを通して被害が認められれば給付金が出ることだろう」
兵士から話を聞き母親が涙ながらにお礼を言っていた。どうやらこの国、制度もしっかりしているようだ――
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