第13話 盗賊のアジトに入る

「あそこが盗賊のアジトなようだね」


 標識の案内通りだとすればだけど恐らく間違いはないと思う。


「何だかそれっぽい雰囲気があるにゃ。それにしてもこんなところよく見つけられたにゃ」


 フェレスが感心していた。山にある洞窟がアジトというのは別に珍しい話ではない。ただしここは道もなく途中にあんな坂、というより崖があったから見つけるのは難しいだろう。


「慎重に進んでいこう」

「うん!」

 

 洞窟の入り口で先ず中の様子を探る。ここはフェレスが任せてと言って壁に耳を当てたり鼻をひくひくさせた上で、ゆっくりと中を覗き込んだ。


「少し薄暗いにゃ。でも任せてにゃ! あたし猫の獣人だから暗いところでもよく見えるし、視力にも自信があるにゃ」


 フェレスが特技をアピールしてくれた。それも猫の獣人特有のアビリティなのだろう。


「うん。それならお願いするよ。だけど危険が近づいてきたら言ってね。すぐに召喚魔法を使うから」

「わかったにゃ」


 フェレスを先頭に洞窟を進む。中は確かに薄暗い。これは恐らく敢えてだろう。松明など下手に明かりを付けたら自分たちが潜んでると宣伝してるようなものだ。


 わざわざ急な崖の上をアジトにしているぐらいだ。わざわざ自分たちの居場所が知られるような真似はしないだろう。


「あれ? 誰もいないにゃ」


 暫く直進の道を進むと壁に突き当たった。他に道はない。


「狭い洞窟にゃ。もしかしてここじゃなかったかにゃ?」

「う~ん……」


 僕は試しに案内標識を再召喚したけど真ん中に盗賊のアジトと表記されていた。やはり場所は間違っていないようだった。


「これはもしかしたら隠し通路があるのかもしれない」

「あ、なるほどにゃ!」


 僕が推測を語るとフェレスも納得したように声を上げた。そして壁に耳を当てコンコンっと叩き出す。


「――ここにゃ。この先何もない空間だと思うにゃ」


 フェレスが壁の一部を指差して教えてくれた。やはり獣人族は感覚が人より優れている。


「でも、どう開けるかわからないにゃ……隠し扉は魔法で作られていて暗号で開く場合もあると聞くにゃ」


 フェレスが頭を悩ませる。暗号系の扉などはよく使われる手だ。厄介なのは暗号を間違った場合に何らかの罠が発動したり中にいる者に知らせることになる場合だ。


 恐らくどれかか両方が仕掛けられているだろう。暗号を試すのにはリスクがある。


 僕は何か良い標識がないか頭の中のリストを洗ってみた。そこにちょうど良さそうなのを見つけた。


「いいのがあった! 標識召喚・非常口!」


 魔法を行使。召喚された標識はフェレスが言っていた壁の上に貼り付いた。緑色の標識で向こうの世界ではピクトグラムと言われていた人型で表現され非常口と書かれている。


「扉が出てきたにゃ……」

「うん。非常口だからね」


 両開きの扉だった。押して開けると確かに扉の先に壁はなく通路が続いていた。


「確かに隠し通路があったようだね。フェレスのおかげで見つけられたよ」

「で、でも凄いのはマークにゃ。マークの魔法がなければここは開かなかったにゃ」

「そうなるとチームワークの勝利だね」


 フェレスに笑顔を見せつつ答えた。フェレスもどことなく嬉しそうにニッコリと微笑む。


「そうにゃ。あたし達、結構いいコンビにゃ」

「うん。そうだね。さて、ここからは盗賊の本拠地だ。気を引き締めないと」

「先頭は任せるにゃ」


 そして再びフェレスが僕の前を歩き通路を進んでいく。隠し通路では壁にランプが設置されていた。隠し通路から先ではしっかり盗賊も灯りを確保していたらしい。


「待つにゃ――」


 フェレスが何かを感じ取ったようだ。スリングショットを構え地面目掛けて玉を撃つ。


 するとプツンっという音がして横壁から矢が発射された。気づかずに進んでいたら矢にやられていた。


「細い糸が張ってあったにゃ」

「凄い。僕には気づけなかったよ」


 それから先もところどころに仕掛けられた罠をフェレスが見破り安全に進むことが出来たわけだけど――


「暫く暇だな」

「三日前に馬車を襲ったばかりだろう?」

「三日何もなければ腕が訛っちまうぜ」


 通路がL字に曲がってる地点で声が聞こえてきた。会話のやり取りを聞いていても間違いなく盗賊だろう。相手は二人組なようだがさてどうしようか――

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