第四章 Ⅰ 結末は?


「おいおい、滅多なことを言うんじゃないよ。どうしてお姉さんが妹の背中を突かなくてはならないのだ。動機は何だ! まぁ、これだから高校生の推理なんて当てにならないんだよ!」

「親父! 警察では考えなかったのかな。一般的に警察は、何か事件があると、先ず被害者に近い人物を疑え。って考えがあるよね。つまり警察は女の子の親、兄弟を疑わなかったのか?」

「バカ野郎。それは殺人事件や放火事件の場合だ。今回のような幼い子供の行方不明のケースでは、そんなことは考えない。当然だろ」

「どうして当然なんて言えるんだよ。今回のようなケースでは不明な点が多く見られると、新聞にも書いてあったぞ。不明な点は解決できたのかよ」

 親父はまた瓶ビールを出して、二本目を飲んでいる。

「それは…………。ハッキリしていない、今のところはな」

「まぁ、いいや動機を言う前に、一言現在の社会情勢を考えてみてくれ。昔よりは幾らか改善したんだろうが、俺が感じるには、マダマダって所だな、何の事かと言うと、ノーマライゼーション活動だよ❗ 未だに障害者など社会的弱者は、救済されていない。社会に出れば、そんな社会的弱者は差別されてばかりじゃないか❗ 相手の人権を尊重するどころか、差別の温床となっているじゃないか。しかもその原因は本人が望んでなったことじゃあない。もっとノーマライゼーション運動の広がりを望むばかりだ❗ 」少女の心はガラス細工みたいに一寸したことで砕けてしまう『こわれもの』なのだ。だから、もっと社会の理解が必要だと思わないかい。

「おい、岳士。お前の社会感は俺も賛同するが、今回の動機とどう繋がるんだ?」

 

「俺が姉さんのこれからの人生を考えたときに思い浮かんだんだ。智が見た事によると、背中を押す瞬間何かが頭を巡り苦しんだ挙げ句の行動だったと聞いた。つまりその瞬間姉さんの頭の中には、今言ったノーマライゼーションのことが頭に浮かんだのだと思うよ。たしか姉さんは。京都府にある大学の学生と聞いた。随分年の離れた姉妹だけれど、そんなことはどうでもいいんだ。つまり俺の頭の中には、その姉さんの心根が読めたのさ。それはこう言うものだった。『私の両親もいつまでも元気で生きていく訳ではない。いつか私が主としてこの子を見守っていかなければならないのだ。その時、私にこの子のような障害を持った妹がいると知られたら、折角出来た彼氏も、二の足を踏むようになるのじゃないか等が頭を一瞬掠め、自分の幸せはどうなるのだろうか?』等と考え、頭がパニックになっている内に押してしまったのではないか。と言うのが俺の言うところの動機に当たるんだ」

 

 ビールをコップに注ぎながら、

「成る程、それがお前の言う動機と言うやつか。それでは現役刑事の現実的な動機を話そう!」

「と言うことは、親父は違う犯人がいるってことかな?」再びビールを飲み干すと、

「そう言うことさ、現実的な推理を話すと、犯人は智君さ❗」

 

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