XV.別れるのも一つの戦略だよね?

果てなき宿———


 三人は朝起きると、宿で出された食事をとり、部屋に備え付けのシャワーを浴びてから宿の、街の外に出た。



最果ての草原———


 三人は草原でゴブリンやスライムといった下級モンスターとじゃれ合っていた。


「アイト兄ちゃんこの辺り弱いのしかいないから面白くないよ」

「確かにどれも一撃で倒せてしまいますね。もう少し森の方に行きますか?」

「じゃあ行くか」


 三人は森の目の前まで歩いて来た。モンスターの死骸は、無限巾着にいれて逢兎が持っている。


「どうする? 森の中入っちゃう?」

「ここにいても何も来ないですからね」

「入っちゃえー!」


 イリは森の中へ突っ走っていた。イリを追いかけるようにルナと逢兎も森に入った。



最果ての森———


 イリは狼などを殴り潰し、ルナはゴブリンを中心に串刺しにして、逢兎は一刀両断にして森中を駆け回っている。気が付けば三人ともバラバラに移動していた。


 イリはモンスターを群れ単位で探していた。狼や豚頭族オークなどの群れを重点的に倒して回っている。

 まずは先頭の一頭の眉間を抉り潰し、殴って押し返す。その先にいる何体かを巻き込んで吹き飛ばしている。五体程殴り飛ばしただけで五十体近くが倒れている。


 ルナはモンスターを少数ずつ倒して回っている。ゴブリンやスライム、逸れモンスターなどを狙っている。

 見かけたモンスターを大束樹ビット樹栄吸ピット等を使って無力化して回っていた。一体ずつ確実に無力化している。


 逢兎は、視界に入ったモンスターを魔力刃スラッシュで斬りまくっている。斬って斬って斬りまくっている。到底魔法使いとは思えないほど近接戦を繰り広げている。


 三人とも適当に進んでいたのに、なぜか途中で合流した。


「二人ともどこ行ってたの⁉ 探してたんだよ」

「イリが勝手にどっか行ったんだろ」

「アイトさんが黙って探し回ってるせいで見失いましたよ」


 三人とも故意にバラバラになっていたわけではない様だ。


「二人とも向こうに行ったら駄目だよ。危険だから」


 逢兎が森の深奥を指しながら言った。


「よし、いこー!」


 イリが腕を突き上げながら言う。


「駄目だって言ってるだろ」


 逢兎は突き上げられたイリの腕を掴んだ。


「向こうに何かあるんですか?」


 ルナが逢兎に問う。


「分かんないけど、危険だってことはよくわかる。禍々しい気配がするんだよ」

「そうですか。『危機察知』」


 ルナは逢兎の指さした方向の気配を読む。しかし、ルナは何も感じない様だ。イリはそれを聞いて無理やり逢兎の手を払って走り出した。


「“止まれ”」


 逢兎がそう言うとイリはピクリとも動かなくなった。


「どうしても行きたいなら、三人で、一緒にだ。一人でも見失ったらすぐに逃げろ。俺が二人を探し出してやるから」

「分かった…」


 ルナと逢兎は目を合わせて無言で頷き合う。

 逢兎とルナはイリから目を離すことなく周りの気配を探っていた。


「ッ…!」


 少し進んだ時、ルナの足が止まった。


「これ、大丈夫なんですか?」

「何があっても俺が二人を逃がしてやるから安心しろ。そんなに震えてたらイリを守れないぞ」

「は、はい」


 ルナは自分の腕を掴んで震えを押さえて歩みを再開した。

 しばらく三人はひたすらに歩いていた。道中全くモンスターと出会わなかった。突然、イリが足を止めた。


「見つけたよ。いっぱいいる」


 目の前には多種多様なモンスターが大量にいる。三人は物陰から様子を窺っている。


「イリ、無理すんなよ。何かあったらすぐに逃げろ。ルナはここで見ていてくれ。イリが逃げたら護衛を頼む。街まで行くんだ。俺がイリと一緒に行く」

「逃げないよ!」

「分かりました」


「行くぞ、イリ」


 二人はモンスターの大群に飛び出した。


「『超身強化トップアップ』 イリ、無茶するなよ」

「分かってるよ」


 イリが力いっぱい殴るとモンスターの頭が弾ける。だが、倒すよりも早くモンスターが押し寄せてくる。


「『魔力刃スラッシュ』 イリ、危ないと思ったら逃げろ。下がれ!」


 逢兎がイリをかばうようにモンスターを倒す。イリも少なからず頭を潰している。


「イリ、ルナの所行け。何体か街に向かってる。二人で止めてこい。こっちは俺がやる」

「それだとアイト兄ちゃんが…」

「俺は大丈夫だ。街を守って来い」

「分かった」


 イリは顔を顰めながらルナの元に行った。


「ルナ姉ちゃん! 町が危ないって! 僕たちで食い止めてって!」


 イリは少し離れたところからルナに伝えた。ルナは一瞬逢兎の方を見て、イリを追いかけた。


「イリちゃん!ルナは逢兎さんみたいに守ってあげられるか分かりません。無茶は絶対にしないで下さいよ」

「うん。見つけたよ。あそこが先頭だよ」


 イリは先頭にいたモンスターを殴り潰した。ルナはイリの前に少し低めの壁を創造した。高さとしてはイリが壁の向こうを見えるくらいの高さだ。


「イリちゃん下がりながら戦ってくださいよ」

「わかってる!」


 壁を越えてくるモンスターをイリは大きく一歩下がりながら殴り飛ばした。

 ルナはイリが殴り飛ばしたモンスターに止めを刺している。


「ルナ姉ちゃんどうする? このまま下がって行ったら街が…!」

「確かにこのペースだと街が…でも他にどうすれば…」


 ルナは考える。どうすれば街に被害を出さずにモンスターの大群を止められるのかを。


 イリとルナは森の外、草原まで出てきた。モンスターはまだまだ残っている。最初よりもどんどん強くなっていて、確実に仕留めきれなくなってきている。


「ルナ姉ちゃん! もう街だよ!」


 ルナは少し間を開けてから言った。


「イリちゃんそのまま下がってください!」

「え、でも……」

「いいから!大丈夫です」


 イリは後ろに大きく下がる。


「『天明の祝壁フォール』『樹栄吸ピット』 これじゃ足りない。もっと、、、『大束樹ビッド』」


 ルナは魔法で巨大な壁を作り、次々にモンスターを串刺しにしていく。しかし、その上から飛んで来たり、避けて横から来る。


「イリちゃん!」

「大丈夫! ルナ姉ちゃん下がって。前にいたら危ないから。『爆撲禅風フェンネイル・バーズ』」


 イリはルナが下がった瞬間に、両腕を地面に突き刺すほどの勢いで殴り、地割れが起きるほど大きく大地を揺らした。その後すぐに両腕を前に勢いよく突き出し、ルナの障壁もろともモンスターを吹き飛ばした。

 後ろで立っていたルナも揺れで飛ばされる程の大きな揺れだった。



果最かさい国-爆天バクテン州———


 イリが引き起こした揺れは近くの街まで届いていた。


「ロノスさん、今の揺れ」

「ゾーノ君、君もかい?」

「ええ、今のは人為的な揺れ。それもかなり近くで」

「Cランクの冒険者に緊急招集を呼びかけようか」

「いや、Aランク以上の強制招集だ。やつがれは傍観しておく。一般市民に被害が出るならすぐに終わらせる」


 そう言ってゾーノは近くの屋根の上に飛び乗ってより高い建物の屋根に移動していく。


「Aランク以上って、まあ、Cランクでは限界が出るのか。仕方ない」


 ロノスは急いで冒険者ギルドに走って行く。


 ロノスが冒険者ギルドに着くとリーノが駆け寄ってきた。


「ロノスさん」

「Aランクの強制招集、並びにCランク以上の任意招集をかける。すぐだ!」

「はい!」


 リーノは街中に冒険者緊急招集をかけた。

 ロノスは冒険者ギルド内に保管されている装備をいくつか取り出し並べ始めた。


 リーノが町中に招集をかけたことで集まった冒険者は、Aランク5人、Bランク2人、Cランク4人、Sランク1人だった。

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