XI.見えない厄災を倒せば認めて貰えるかもしれない

 透明な見えない魔物、見ることが出来なければ解析鑑定ができない。見えないのはスキルなのか、或いは身体が無いのか。どちらであってもの倒せないことはない。


 逢兎は見えない敵からの見えない攻撃を防いでいる。イリやルナに当たりそうな攻撃も防いでいる。


「二人とも逃げて。あとで目印頼りにして追いかけるからさ。庇いながらだったら倒せないよ、絶対に」

「そんなことしたら逢兎さんが」

「大丈夫だって。てか、早くしないと相手の攻撃が強くなってきてるから全員死んじゃうよ。嫌なら早く逃げてね」

「ルナ姉ちゃん行くよ」


 イリはルナの手を引っ張って走り出した。

 少しして、逢兎も同じ方向に移動した。


「二人は殺させない。『魔力刃スラッシュ』」


 逢兎は何もない所で刃を振るった。すると、刃は何かを斬ったかのように緑色の液体が辺りに飛び散った。二人は振り返ることなくひた走る。


「取り敢えず、解析鑑定」



厄災の血:厄災の血液。



厄災:様々な種族から稀に生まれることがある。生まれた種族、個体によって能力や見た目が異なる。通常よりもかなり強力な存在として生まれ、生まれた瞬間に自身の親を殺すと言われている。



 本体の鑑定は出来なかったが、厄災であるという事だけはわかった。


「個体によって見た目が異なるってことは、透明なのもそのせいなのかな」


 逢兎は血を頼りに攻撃をする。


「燃えろ『身体発火テオ・バースト』」


 全身が燃えたことで薄っすらとだが輪郭のようなシルエットが見えた。ここぞとばかりに逢兎は鑑定を試みた。



(名前なし)  厄災  天災


称号:見えない身体にくたい


スキル:(鑑定不能)【鑑定妨害S+、或いはそれに類するスキルを所持しているものと思われます】


魔法:(鑑定不能)


耐性:(鑑定不能)



 何とか鑑定は出来たが、何も分からない。分かったのはスキルで体が見えなくなっているわけではないという事。

 薄っすらと見える輪郭では狼のようにも見えるが、どこか違う感じがするものだった。


「『魔力刃スラッシュ』」


 逢兎は燃える厄災のおそらく首であろう場所を斬ろうとする。


―――ピキーン―――


 しかし、刃は厄災を切り落とせずに止まった。何故か逢兎の表情は微笑んだ。


「やっと異世界っぽくなってきたじゃん。首が固くて切れません現象! 異世界に来てやってみたい事その30くらいにありそうだな」


 そんなことをぼやいていると、逢兎は厄災に蹴り飛ばされた。


「いって…強すぎでしょ。ちょっとは加減してくれてもいいじゃんか!クソウルフ!」


 厄災は水魔法を使い燃えている体を消火した。


「貴君は何か勘違いをしているな」


 突然神々しいような重低音な声が響いた。逢兎は辺りを見渡す。


「争いにおいてなさけをかけるものは、おのれの強さを過剰評価しているものに過ぎない。情けをかけられるほどの強さとは、おのが判断するものではない。我は己の能力を認めておらぬのでな。加減の仕方は知らぬ。それに、貴君は真の力をまだ隠しているように見えるが、戦いをなんと心得る」


 逢兎は少し考えてから口を開いた。


「んー、隠してるも何も俺は俺の能力が分からないんだよな~。記憶喪失とかじゃなくて、分からないとかじゃないんだけど、分かってるんだけど分からないんだよ」

「何を訳の分からぬことを」


 厄災の声は変わっていないが、どこか怒鳴りつけているような響きがした。

 逢兎はハッとしたように後ろに手を伸ばした。何も見えないはずの場所から確かに感触がした。逢兎は何かをつかんだのだ。


「捕まえた。『服従又死呪デッド・オア・アライブ』 呪い死ね」


 厄災の透明な肉体にどんどんと紫色の模様が浮かび上がるってくる。


「これは闇魔法か。それに呪いの術式だと」


 厄災は驚いたように声を上げる。あまり変わっていないが。


「早く死んだほうが楽だよ。じゃあね~」


 逢兎はイリとルナの居る方向を探して歩き出した。

 厄災は縮こまって倒れた。


「あ、これ持っていったら何か使えるかな? でも見えないんだよな~。今は呪い?みたいなやつで模様があるけど、消えないかな? 分かんないし取り敢えず持っていこう。使えなかったら捨てよう」


 そう言って逢兎は厄災を引っ張って二人の元に歩いて行った。




 イリとルナは逢兎に言われるがままに逃げたが、二人とも心配していた。


「アイト兄ちゃん大丈夫かな?」

「大丈夫です。逢兎さんは死にに行くような人じゃないです。何かあれば泣きついてきますよ。『助けて』って」

「確かに、この前も人間連れてきて『捕まえてよ』って言ってたもんね」

「あの時は焦りましたよ。でも、確信もできた。あの人はルナたちを信用してくれているんだって。だから助けたんですよ」

「アイト兄ちゃんは優しいから僕らを死なせたりしないよ。危ないことは何回かあったけど、絶対に助けてくれるもん。だから僕も助られるようになりたい」


ルナは微笑みを浮かべて足を止めた。


「この辺りまでくれば大丈夫かな。イリちゃんはまだ走った方が良いと思う?」

「大丈夫だよ! アイト兄ちゃんは強いもん」


 二人はその場で座った。


「ルナ姉ちゃん、あそこの草って薬草じゃない? アイト兄ちゃんが来る前にいっぱい集めとかない?」

「そうですね。少しでもアイトさんの仕事を減らしておきましょう」


 二人はせっせと依頼に書いてある植物や、下級モンスターを倒していた。




「おーい、イリー、ルナー、何処ー? 隠れてないで出てきてー。隠れる場所無いのにどうやって隠れてるのー?」


 逢兎は大声で二人を探す。


「こっちですよー!」


 斜め後方からルナの声がした。少し通り過ぎていたようだった。


「いたなら声かけてよ」


 逢兎は二人に言った。


「すみません、薬草集めてまして」

「魔物倒してたの!」


 ルナは抱え込み切れないほどの薬草を持っていて、ルナは魔物の死骸で山を作っていた。


「これ、どうやって町まで持っていくつもりだったの?」

「アイトさんのそれに入らないですか?」


 ルナは逢兎の腰元にある小袋を指しながら言った。


「あ、そっか。その手があったか」


 逢兎はハッとしたよう薬草と魔物の死骸を全部しまった。


「呪いって伝播したりしない?」

「呪いの大きさにもよると思いますけど伝播なんてしないですよ」

「じゃあこのウルフさん改め、狼×獅子ハイブレッドさんも一緒にいれちゃってもいいのかな?」


 逢兎は厄災を見ながら言った。


「毒でないなら大丈夫だと思いますよ」


 ルナが言った。


「重たいなら入れちゃえば」


 イリが当たり障りもないようなことを言う。


「よし、入れよう。毒じゃないと思うし。だってここまで引きずって来たけど道草枯れてないじゃん? つぶれてるだけで生きてると思うし」


 逢兎は厄災も小袋にいれて三人は街へ戻るために歩みだした。


「アイト「アイトさん」兄ちゃん」


 案の定、明後日の方向へ歩みだした逢兎は二人に止められた。

 三人は依頼に書かれているよりも遥かに多い量の薬草と魔物をもって街に進む。道中にある薬草を摘みつつ、弱小な魔物を倒しながら。


「これだけ集めたら認めてくれるかな?」

「認めてくれなかったらまた集めるだけです」

「いっぱい集めたんだから大丈夫だよ!」


 そんな話をしながら三人は街に戻って来た。既に日も暮れていて、冒険者ギルドの中は酒を飲みながら騒ぐ冒険者が大勢いた。


「誰かー?」


 逢兎が受付で人を呼ぶ。


「なんでしょうか?」


 奥の方からリーノが出てきた。


「あ、昼?の人じゃん。丁度いいや。これで足りる?」


 逢兎は小袋をひっくり返して薬草、魔物、厄災を出して見せた。途端に冒険者ビルド中に無音が鳴り響いた。

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