英雄王は諦める!

亜季

第1話 異世界は甘くない

「今ここに3英雄が召喚された!」


 つい先程まで自室でスマホを弄っていたはずなのに気が付けば大きな部屋の中心に全裸で突っ立ていた。


「……。」


 目の前では偉そうな白髭のおっさんが大声を張り上げ、その声に周囲からは次々に歓声が湧き上がる。


 アニメやラノベなら「ここは何処だ!一体あんたらは誰なんだ!」と慌てふためく所なのだろが、大事な所を隠す余裕すらない。


 ただ、呆然と立ちすくみ目の前の出来事を声も出さずに見つめるだけ。


 これが絶句と言うやつなのだろうか。


 脳をフル回転させ状況を把握しようとする中、白髭おっさんの隣にいた金髪の美しい女性が一歩前に踏み出すと同時に歓喜の声は一瞬で消え去り静寂を澄んだ声が支配する。


「英雄王候補の皆様、ご安心ください。詳しいお話は後ほどご説明します。ですので…どうか今は我々に従って下さいませ」


 もし、日本で彼女程の美人から誘いを受けたなら喜んで頷いていただろう。


 しかし今は違う。頷く以外の選択肢はない、と微笑む瞳から伝わってくる。


―――――――――――――――――――――――


「私は人間族の王アレックである」


 現在、俺たちは長いテーブルを挟んで対面している。一方には俺と無精髭のおっさんと制服を着た女子高生。


 反対側には先程の白髭のおっさん、両脇には筋肉モリモリの獣耳のおっさんと褐色肌に青髪ロングのセクシー熟女?が鎮座している。


「名前なんてどうでもいい。まず状況を説明しろよ!」


 無精髭のおっさんの言葉に獣耳がピクリと反応した。


「威勢がいい奴は嫌いじゃない。アレック王、こいつは俺が貰っていいか?」


 ニヤリと笑う口からは鋭い犬歯が覗く。


「なら私はそっちの坊やを頂こうかしら。女はめんどくさいからね」


 坊やって、俺のことか?熟女……嫌いじゃない。


「待て、ガスト、イリス。拠り所を選ぶ権利はないことを忘れた訳ではあるまい」


 貰う?拠り所?まさか生贄にされるとかじゃないよな。ここは目立たない様に立ち回らないと後が怖い。


「話を進めよう。ルーナ頼めるか?」


 アレック王の後方に控えていたルーナが頷き、手に持っていた本を開き世界の歴史から現在までの状況を語り始めた。


 この世界、ユーリア大陸は神ガイアと神ネプチューンの手により創られ様々な人種を生み出した。


 その事に満足したガイアはこの世界を見守り人々の幸せを願った。


 しかし、ネプチューンは愚かに領土を奪い合い、命を軽んじる者達を失敗作と考え世界のリセットを願った。


 そこで神々は1000年に一度、人類に試練を与えることにした。人類が敗北すれば世界は破壊され、新たな創造へと導かれる。逆に勝利すれば平穏な1000年が約束される。


 人類は1度目の試練を乗り越え勝利したが、甚大な被害を受けた。事態を重く見た王族達は強力な力を持つ者を生み出そうと研究を重ね召喚魔術に答えを見出し、現在では4度の試練を最小限の被害で乗り越えているらしい。


「次の試練は3年後になります。皆様には3年間で各種族と緊密な関係を築き、世界を滅ぼすエフロスの討伐を目指していただきます」


 SF感が凄い。まさに異世界ラノベの王道だな。


「以上が貴殿らに与えられた責務である。何か質問はあるかね?」


 当たり前のように問いかけるアレック王を本気で殴りたくなったのは言うまでもない。


「あの…私、ただの高校生で…戦いとか全然得意じゃないし、他の人にお願いした方がいいと思うんですけど」


 黒髪JKちゃんナイス!よく言った!


「残念だけど、それは無理よ」


 熟女…嫌いじゃない。


「どうして…また召喚魔術?を使えばいいじゃないですか」


 イリスは、心底めんどくさそうな顔で黒髪JKちゃんを睨みつける。


「召喚魔術は月と太陽が重なる僅かな時間にしか使えないの。次に条件が揃うのは1000年後だから残念だけどあなた達に頑張って貰うしかない。わかった?」


 なるほど、いつでも出来るなら苦労はないって事か。


「それに戦うのは俺たちだけだ。全滅すればお前らも死ぬけどよ、勝てば良いだけだ。安心しただろ?」


 ガストの言葉に反応し、言葉が溢れてしまう。


「英雄候補なのにそれでいいんですか?」


 あっ、ヤベ。目立ったらダメなんだった。


「あぁ、お前らは俺たちと従者契約を結ぶ。英雄候補は皆んな魔力限界がないから、じゃんじゃん魔力を流し込んで従者を強化。それで終わりだ」


 じゃんしゃんってめっちゃ疲れそうだけど?でも表立って戦わないならそれぐらいは我慢しよう。問題は…。


「それが終われば元の世界に帰れるんだろうな?」


 それだ。


 1番気になっていたことを無精髭おっさんが切り出す。


「残念ながら帰る方法は未だ見つかっていない。先の大戦後、英雄王はこの世界で暮らし天命を全うした」


 アレック王の言葉はある程度予想していた答えだったが、断言されると正直キツい。黒髪JKちゃんは泣いちゃってるし、無精髭おっさんも苦虫を噛み潰したような顔をしている。これ以上の絶望は死ぬ時ぐらいだろう。


「状況は理解できたな?ではこれから7日間で貴殿等にはどの種族と戦場を共にするかを選んでもらう」


 少しは休ませて欲しいと思うこちらの心情は一切気にも止めずに話を進める彼等に、俺はただの「道具」にしか見えていないんだろうなと感じる。


「種族選びは貴殿等と我々、双方にとって非常に重要な意味を持つ。心して聞くが良い」


 頼んでもいないのに異世界に召喚されて帰れない挙げ句、偉そうな態度。


 ……協力なんてするわけないだろ、頭おかしいのかな?


「試練において、エフロスの首を取った種族の王は1000年の間、この世界の王として君臨する」


 権利争いにもなってるって事か。


「そして、その種族に協力した英雄候補は英雄王として未来永劫不自由ない生活が約束される。しかし、そうでなかった者は無能な英雄として…処刑される」


 協力しなければ死が確定、協力したとしても処刑されるかもしれない未来。とんでもないパワハラ案件だな。


「精進し英雄王になることだな。話は以上だ。ルーナ後のことは頼んだぞ」


 それだけを言い残しアレック王と種族の長達は席を立ち去っていった。


 黒髪JKちゃんの啜り泣く声だけが部屋に響く中、ルーナと呼ばれている美少女だけが懐からカードの様なものを取り出し職務を全うする。


「賢者のカケラと言うアイテムです。保有しているアビリティがこれを通して可視化できるようになります」


 異世界あるあるだな。きっと平凡な俺にも強化なアビリティの一つや二つあるんのだろう。


「明日からは各種族が皆様のアビリティを元に勧誘を開始します。さぁ手を触れて魔力を込めてください」


 込めるって言われてもなぁ〜。魔力なんて使ったことないしどうすんのコレ?とりあえず持ってみる?


「お上手です」


 持ち上げた瞬間に光を放った賢者のカケラに文字が浮かび上がって来た。


アビリティ

・英雄ノ兆

 大気中の魔力を自動吸収し無尽蔵の魔力操作が可能。


・主従者契約

 契約者へ魔力を与える事ができる


・永久ノ誓

 発動時、繋がりの強さに合わせ双方の潜在能力を解放

※持続時間は魔力量に依存する。

 なお、どちらかの魔力が枯渇するまで解除不可。


「素晴らしい!初めて拝見するアビリティです!各種族から声が掛かること間違いなしですね!」


 どれのことだろう。さっきの話だと「英雄ノ兆」と「従者契約」は他の2人も持ってるだろうし、「永久ノ誓」のことかな?


 そんな事を考えている間にルーナは黒髪JKちゃん達のアビリティ確認を終え、明日から始まるアピール合戦について軽く説明し1人1人個人へと案内した。

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