第9話 会議中

 平たく言えば、作戦会議中である。

 蓋を開けてみると、暴走しかねない師弟をどう手綱取るべきかと大神官本人の前で協議をしている。

 参加メンバーは大神官、秘書官、庶務官、魔王の側近。

 神殿で魔王の側近が馴染んでいるのは普通であれば非常に問題であるが──現大神官体制中数百年の間持ちつ持たれつつ、良好な同盟関係しょうもない関係である。魔族による一般庶民への自衛以外の襲撃は禁止され、細々と交易もある。──神殿の重要機密である。


「今後の対応としての擦り合わせですが」


 庶務官が今後の為に、情報共有の擦り合わせを提案する。元は貴族の家で働いていたが、十年以上前に不当解雇されて今は神殿で働いている初老の男性だ。当主が代替わりしてから、その家は余り良い話を聞かなかった。

 

「落とし所、ですね…」


 大神官は時折「黙っててください」と秘書官に釘を刺されている。その度に他の二人から生ぬるく見られているのだが。


「…問題はお嬢ちゃんの方だと思うんだが」


 控えめに言って歴代最高の魔力。それは別にいい。しかし誰かさん大神官の所為で神聖魔法以外を覚えているのが問題なのである。失われたはずの古代の破壊魔法を興味本位で復活させて実用レベル。しかもそれが何種類もと来れば頭を抱えるしかない。不幸中の幸いは、それが難解な術式と相性がシビアで使える者がほぼいないと言う事くらいだろうか?


「……いざとなったらセリカを身を挺して止める必要がありそうですね」

「…誰がやるんだ……分が悪いぞ」

「責任者というのは責任取るためにいるんです」

「…以上で決まりでしょうかね?」

「…オレの……」

「黙っててください?」


 秘書官の最後の一言で擦り合わせはつつがなく終了した。

 一言で言えば責任者が責任取れよと釘刺しただけ、とも言える。

 二言目に言えば、加害者側の出方がわからないので出たとこ勝負である。


「……まさかと思うが、加害者側がアクション起こさないとかないだろうな…?」


 魔王の側近ガゼールがふと思ったことを口にする。

 妙な間合いが部屋に流れる。


「揃いも揃ってそこまで馬鹿じゃないと思いますが……」


 控えめに庶務官が言う。少々遠い目をしているのは気のせいだろうか?


「……向こうの使者がまともな人選であることを願うばかりですね」

「内務卿本人が来ればマシだろうがな……」


 内務部は色々と有能な人材が不足しているようだ。

 四人は顔を見合わせてため息をついた。


内務副次官あの無能だけは来てくれるな』


 


 

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