終末に向かっていく世界で俺だけが知っている
ちょす氏
プロローグ
空に見える月は3つか?いや、それどころか5つくらいは見える。そのせいか分からないが時間はもう夜の8時前後⋯⋯にも関わらず──空は明るい。恐らく白夜だろう。
色々ツッコミ所がある複雑な光景の中、青年は苦笑いを浮かべ吐き捨てるように呟いた。
「マジかよ──」
青年の両目に映る視線の向こう⋯⋯とその前に、青年がいる場所は港にある空港レベルに広い埠頭。そして当たり前だが、埠頭から見えるのは海一色⋯⋯の、はずだ。
だが青年を含めて、立っている場所から見える景色は⋯⋯全身が震え上がる程で、おびただしい沢山のモンスターと、その数から放たれる咆哮は──正に
混沌⋯⋯恐怖を超えて呆れすら湧き出る狂った状況の中、埠頭の一番前で二人の男がその津波にも似たモンスターの濁流の数々を遠い場所から眺めていた。
どう頑張っても難しいだろうと思える光景と自分達の状況に、呆れたように溜息をこぼした。
「詠視⋯⋯良いのか?カスだと思っていたお前が、こんな所まで来ちまうなんて」
紫黒色のロングコートを羽織る絶世の美男子と言ってもいい男が、隣にいるもう一人の男にそう呟く。
「聖也こそ。お前が目指したモノがあるんだろう?それを放っても抗うのか?この
返事を返すのは、聖也と呼ばれる絶世の美男子とはかけ離れた普通の男性。
『詠視さん!』
『詠視!』
『詠ちゃん!』
『山!』
「皆!」
絶望的な数のモンスターを前に、青年の後ろから数人の人影とその更に後ろには──数百を超える剣や斧なんかの様々な武器種を片手に持つ老若男女。
そして防具を身に着け目の前に立ちはだかる幾万と見えるモンスター達へと向く。
「行きましょう!」
詠視が1本の剣を鞘から抜き、モンスターの津波を真っ直ぐ見る。だがその表情はどうしても緊張を隠せずにいる。
'山元詠視22歳童貞!今更遅いぞ!これは現実だ'
一体何処までが現実で、何処までが夢なんだ!
両手で剣を構える詠視。そしてまさにレクイエムのような恐怖すら感じるモンスターの合唱が近付いてくる。
あのおびただしい数に対してこちらの戦う人数は、明らかに足りていないだろう。
だが戦わなければならない。
そう、俺は知っているから。
この展開を──俺は知っている。
全てはシナリオ通り。
「行きます!!一斉に魔法を放ちましょう!テイマーやその他の恩寵を持っている方もドンドンお願いします!!」
『分かってんだよ山元のガキが!』
『お願いします山元さん!!』
沢山の獣や昆虫、そして部位巨大化している人間達が、とても人間離れした跳躍力で目の前のエレクトリカルパレードに突撃していく。
そしてそれを援護するように火や水、風や雷、特殊系統の氷や闇や光⋯⋯全ての魔法が飛んでいく。
「出番です──皆さん」
詠視の一言で数人の男女が魔力を引き上げる。
それぞれの魔法陣から数百人分の別系統である魔法が瞬時に湧き上がり⋯⋯炎を吹き、竜巻が辺りを荒らし、剣に雷鳴を纏う。
「[スキル:御光流星]」
〈御光流星を使用します〉
〈今から5分間筋力と敏捷ステータスが2倍に跳ね上がります〉
〈称号の効果により御光流星の効力を延長、最大10分間の効果を発揮します〉
「
詠視の身体から綺麗なオレンジ色のエーテルが溢れる。そのまま腰を落としながら剣にもエーテルを纏わせ、剣先を後ろに向けて構えた。
モンスター達の不快な叫び声が目の前に来た時、前衛職の全員が一斉に走り出す。
「エクステンドフロスト!」
一人の女性が杖を正面に向けてそう声を張り上げると音波のように氷の膜が地面に出来上がっていき、前衛職の突撃している地面を通り過ぎて海をも凍らす。
「はぁぁぁ!!!」
凍った海を蹴り上げてパレードの正面から詠視の雄叫びと共に大量の人間達が武器を振り下ろし、戦う。
ある者は両手剣を。
ある者は斧を。
ある者は170cm程の巨大な大剣を。
ある者はモン○ンにあるような長い大太刀を。
ある者は豪華な装飾の施された神々しい槍を。
必死にこの理不尽な世界へ反抗するように人々は武器を持ち、そして魔法を、使える物は何でも使ってこの地獄のような状況を打開しようと奮闘する。
俺達はただの娯楽なのか。
何処までも自己中な生き物なのか。
いつか報いる──待ってろよ──。
この話は平凡な就活生であるただの青年が狂ってしまった世界で生き抜く⋯⋯そんな話だ。
おかしいだろ?ついこの間まで平和だったこの世界に、いきなり地獄みたいに世界が終わるだなんて馬鹿げてる。
だが俺は知ってる──この話の未来を。俺は
だが──少なくともしぶとく、しつこく、卑怯に⋯⋯生き残ってやる!
「ハァァァ!!」
雄叫びを上げながら、詠視の剣が雷鳴を浴びるように燦然と黄金に輝く。そのまま進み続けるモンスター達へと真正面から剣を振り上げる。
[専用スキルによって一時的に使用可能になります]
「──────」
[──の恩寵──雷霆の長剣を呼び起こします]
ゴロゴロ──。
戦っているさなか⋯⋯後方で見ていた全員の目には、空が怒っているように落雷があちこちで起きている。
その光景は、まさに天が怒っておられる。
⋯⋯誰に?
「その怒りよ⋯⋯我が手に宿れ!!」
終末していく世界で俺だけが知っている──その全ての始まりから辿ろう。
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