第3話 復活への足掛かり
大量のオーク肉をサーマレントから、地球に持ちこんだ。食材となる部分のみを持って帰ってきた。
オークの角とか骨とか、万が一でも発見されたら大騒ぎになってしまうから。
肉だけで300㎏。あんなにも美味しい肉をタダで仕入れてしまった。要するに元手が0円。倒産寸前のスーパー根津にとって、こんなに有り難いことはない。
今後もオークを仕留めれば、仕入れ値が
但し、こんなことを続けていたら税務署なり、保健所に目をつけられるだろう。
税務署からはどこで購入したかを詳しく聞かれるだろうし、保健所からは申告した肉で間違いないか調べられるだろう。
「異世界のサーマレント産のオークです」
正直に税務署と保健所に言っても、通用しないと思う。いや通用しない。
まあ今回は、市場から安い豚肉を300kg購入して、オーク肉を豚肉として売ろう。
市場で買った豚肉は、コロッケやメンチカツなどの総菜や豚汁として販売をしてしまおう。
またオーク以外にも食べれる魔物、例えばボアやミノタウロス、ベアなどを探してみようかな。
店頭に並べたいかも。食べられる魔獣をコンプリートしようかな。
男のロマンかも。
さらに俺には時間停止、容量無制限のアイテムボックスもある。
この能力も非常に有り難い。それこそ俺が市場に行けば、どんな物でも鮮度が抜群で手軽に運べてしまう。運送などの仲買業者を通さなくて済む。
いいことだらけだった。異世界とスーパー経営って、意外と愛称がいいのかも。
とりあえずこのオーク肉を地域のお客さんに、お値打ちな価格で提供しよう。
この肉ならいける!起死回生のスーパーセールを実施しよう!
友三爺さんから始まったスーパー根津を、無くすわけにはいかない。
俺が中心となり、お袋とトヨさん、更にはもっと従業員を増やし、昔の賑わいを呼び戻すんだ!
その為には街中のスーパーやデパートには無いような珍しい物や、より質や味の良い物を異世界から持って来て、スーパー根津の店頭で並べれば...。
昔のように賑やかで、活気のあふれる店内の復活。
そして町内一、いやいや県で一番のスーパーになることも可能だ!
夢はおいおい叶えるとして、肉のスーパーセールを行う為の準備を行わなければ。
その為には、お袋とトヨさんの協力が必要不可欠となる。
この為2人には、「肉のスーパーセールを行いたい」ことを話し、「セールの為に俺が用意した肉の試食会を行う」と告げた。
2人とも、「お客を呼び込めるような高級なお肉を、安価で用意できる訳が無い」や、「より借金が
まずはお袋とトヨさんに、オーク肉を食べてもらわないと。食べれば分かるはずだこの肉の味の良さを。もう言葉ではなく2人の胃袋を味方につける作戦に出た。
少し炙っただけのオーク肉を食べた瞬間、「何なんだい⁉この美味しさは。信じられないくらい美味しいね」や「肉汁があふれ出てくるよ。でも脂っぽくないし、いくらでも食べられるよ」など、お袋もトヨさんも驚いていた。
初めてオーク肉を食べた俺と同じようで、なんとなく笑えてしまった。
俺が用意した肉の半分ぐらいを手に付けた頃、お袋が何かを思い出した様で、トヨさんに向かって「そうだよ、この味だよ!よく友三さんが持って来てくれた肉と同じ味だよ!」と言った。
トヨさんも「あ~この味だ。本当だね...この味だよ...懐かしいね」と昔を思い出し、しみじみとした口調で呟いた。
お袋いわく友三爺さんは、「ちょっと肉の仕入れに行ってくらぁ」と言っては、半日ほど出かけては地下室に、巨大な肉の塊を幾つも持って帰ってきたという。
なんでも「わしにしか売ってくれない、特別な肉だ」と言っていたらしい。「間違いないよ、あの時の肉の味だよ」と、お袋は興奮した様な口調だ。
「また同じ味わいのお肉が、食べられれる様になるとはね。お父さんもこの肉の味が好きでね...。お父さんも亡くなってしまったし、もうこのスーパーも閉めようかと思ったけど...」
父親の遺影に向かって、静かに語りかけた...。
「不思議なもんだね。この肉を食べたらまだまだやれる様な気がしてきたよ。いや...まだまだやらなきゃだめだよね。あんなにお父さん、頑張っていたんだから...」
目に涙をにじませながらも、最後は笑っていた...。
「そうですよ。まだまだ頑張らないと。友三さんも応援していますよ。私もできるだけのことをします。皆で頑張っていきましょう」
頼りになるバート従業員のトヨさんが、力強い口調で言った。
ありがたいの一言だ。
お袋が元気を取り戻したような気がする。
そして変わらずに、うちの店を支えてくれるトヨさん。
皆の気持ちが固まった。こうしてはいられない。
さっさとお店を再開しなければ...。やることは山のようにある。
スーパーを再開するなら他の商品、野菜や魚、オーク肉以外の肉などの生鮮食品や加工品の仕入れやお店の清掃など、あげたらきりがないが、やると決めたら頑張ろう。
俺は、仕入れ業務を買って出た。
目利きはそれなりに自信がある。小さい頃、友三爺さんに魚や肉野菜などの特徴と、新鮮な物と劣化している物の違いや、食べ頃の見分け方を鍛えられた。
友三さんが亡くなってからも、アルバイト感覚で親父に付き合って、よく市場に行ったものだ。衰えているかもしれないが、何度か市場に通って感覚を取り戻そう。
それにどんなに大量に仕入れても、アイテムボックスの中に入れておけば、手軽に帰れる。ただ市場から手ぶらで帰ったら不審がられるので、一応軽トラで行くが荷物は全部アイテムボックスで運ぶつもりでいる。
経理は、引き続きトヨさんに任せようと思う。うちの経理はトヨさんが一手に扱っている。トヨさんがいなくなったらそれこそ死活問題だ。今回の親父のことも含めて、経営体制も考えていかないといけな。まあ先の話になるが。
「申し訳ないね。あんたら2人に重要な任務を任せてしまって」
お袋は、顔を見る度に謝ってくるがそんなことは決してない。お袋にしかできない大切な仕事を任せた。
お袋は惣菜と仕出し弁当作りを頼んだ。元々最近のスーパー根津は、仕出し弁当の売り上げで、経営が成り立っていた。
近所のお年寄りは、総菜目当てで来ると言っても過言ではない。
それと近所にある工場が、毎日100食ものお弁当の発注を依頼してくれる。これがスーパー根津の生命線でもある。この弁当作りの献立作成、調理や詰込みなどの作業の殆どを、お袋一人で賄っている。
親父が亡くなった時も、「スーパーを再開する時は必ず教えてくれよ」と、弁当を頼んでくれていた工場長は言ってくれた。
だから一応工場長に連絡をしたら、「再開をするならまた頼むよ」と言ってくれた。本当に有り難いことだ。
今のスーパー根津は、お袋の味で持っているようなものだ。引き続きできる範囲で頑張って欲しい。
後、店内の掃除だ。現在使用しているのは1階の食料品エリアだけとはいえ、結構大変だ。
「スーパーセールを行う前に、業者にでも頼むかい?」
お袋が心配そうに俺に言ってきたが、そんなもったいないお金を、使うつもりはない。
「大丈夫俺に任せておきなよ」
そう言って俺が、掃除当番を受け持つことにした。
一応あてがあるからだ。手作業で掃除を行っていたら日が暮れてしまう。魔法の出番だ。
エリーが使っていたクリーンの魔法を俺も使えないか試そう。もしクリーンが使えれば自分の身体だけではなく、建物の掃除もできるように改良をしてしまえばいい。
早速2つの魔法を作ってみようと思った。
さてお客さんも帰り、お袋とトヨさんと俺の3人で、いつものように余った総菜で夕飯を済ませた。
トヨさんは「夕飯まで頂いて」と、いつもすまなそうに言うが、「捨てるのは勿体ないので食べて帰って」と、お袋がトヨさんにお願いをして、夕食を一緒に囲んで食べている。もちろん朝食、昼食もだ。
夕飯を食べ、トヨさんは帰宅しお袋は自宅に戻って行った。俺はというと、お店の掃除を行おうと思って、一人スーパーに残った。
確か魔法を作るには、イメージが大切だったな。体中や着ている物の汚れを洗い流すようなクリーンと、一定の空間を綺麗にするイメージを組み合わせ、フロアクリーンと名付けた。
よし、試してみよう「クリーン!」
唱えると俺の身体や洋服に付着した汚れが落ちた。さらにお風呂に入った後のように心地よくもなった。
「ふう」
あまりの気持ちよさに声も出てしまった。すごい、なんて気持ちがいいんだ。これは癖になるな。
サーマレントに行った時にお風呂に入れなくても、またオークなどの解体の後も、川に水浴びに行かなくて済む。
次は建物の汚れも落とすようにイメージをして...。
「フロアクリーン!」と唱えた瞬間、スーパーの店内の至る所が、ピカピカとなった。掃除業者が念入りに清掃をしたかのよう、いや創業当時の作り立てのような状態にまで戻ってしまった。
内装だけではなく外観まで綺麗になった。少しやり過ぎただろうか?
もうついでにと、駐車場も綺麗にしてしまった。
駐車場のコンクリートなどの剥がれや傷はそのままだが、雑草などが生え放題であった駐車場は、一面その車を止めるという機能を取り戻した。
違う仕事でも、食べていける自信がついてしまった。スーパーが生き詰まっても、清掃会社でも立ち上げようかなーと、割りと真剣に考えてしまった。
このフロアクリーンも使える!
定期的に俺がフロアクリーンを唱えれば、トヨさんやお袋が掃除をしなくても済むし、清掃員をわざわざ雇わなくても済む。
トイレも売り場も「フロアクリーン!」と唱えればいつもピカピカだ。
魔法とスーパーって、相性抜群じゃないのか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の朝、お袋とトヨさんは、店内の隅々に至るまで急に綺麗になっていることに驚いている。
「な、なんだいこれは⁉床や壁にこびりついてしまった汚れが、建てた当時の色に戻っているじゃないか?」と呆然と立ち尽くしていた。
「俺が気合を入れて、掃除をしたんだよ」と言っておいた。
「気合を入れても、ここまで綺麗になるものかい⁉」と、まだ俺に聞きたそうであったので「さあさあ開店の準備をするよ!」と話をやや強引に終わらせた。
さて3人の役割も決まってから1週間、皆が1つの目標に向かって動いた。そしてついに明日、スーパー根津の復活祭第一弾を実施する日となった。
新聞屋さんには、特売セールのチラシを大量に頼んである。抜かりはない。近所の人達は来てくれるかな?
ちょっとドキドキするけど、やれることはやったぞ。
さぁ復活の第一歩だ。明日はオーク肉の特売セールだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チラシの効果と口コミで、古くからの常連客が沢山来れてくれた。
常連客の多くは、お袋とトヨさんのいきいきと働く姿を見て、嬉しそうだった。
店が閉店するという噂が流れたからだ。
町の中ではスーパー根津は愛されている。お年寄り以外にも、現在妻や夫となった者も、小さい頃から通ったお店だ。愛着心もある。
そして俺の古くからの友達も来てくれた。
「 お前があとを継ぐんか?すぐに潰すなよ、俺の小学生の頃の思い出の場所なんだからな」など、励ましの言葉を頂いた。
子供を抱っこし、主婦となった同級生もわざわざ来て「根津君、頑張ってよ」と声をかけてくれた。時代の流れを感じるなー。
でもそろって皆、「今度2階のゲームをやらしてくれ」と口々に言ってきた。2階のゲームコーナーは、特に思い入れがある者が多かった。
あんな小さいフロアが、一番心に大きく残っているようであった。俺も含めてだけど...。
また俺のフロアクリーンによって、昔の姿が蘇り常連客からは「そうそうこんな色だったよね。懐かし~わ」など、昔を思い出している様な家族連れの姿も、あちらこちらで見かけた。
店頭で(オーク)肉を沢山焼いた。焼いたものを無料で沢山の人にふるまった。
その効果は絶大であった。匂いにつられて来るお客も、後を絶たなかった。
子供が「これ美味し―もっと食べたい」と、母親に迫っている家族が沢山いた。中にはこっそりと旦那さんが、余分に1パック買い物かごに突っ込んでいる者もいた。
オーク肉は飛ぶように売れた。相乗して他の商品も売れた!
久しぶりにスーパー根津に笑い声が響いた。起死回生のスーパーセール第一弾は、大成功に終わった!
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