第8話 王都の貴婦人たち

 アウドムラ城の巨大な城門がゆっくりと開けられた。門から射し込む夕日に照らされて、足を引きずりながら、汚れた兵士たちが王都の中へと入ってくる。帰還兵たちを見守る群衆の前に巨大な蛇の頭が放り投げられた。ニーズヘッグの頭部だ。傷だらけの筋肉を惜しげも無く晒したまま、ニクスが剣を天に向けて突き立てて、強く誇らしげな雄叫びを放った。群衆が沸き、拍手と歓声が上がる。群衆は次第にニクスの名を連呼し始めた。群衆に向けて一礼したニクスは、今度はドレイクを招き寄せ、共に戦った戦士の手を取ると、その手を高く持ち上げて彼の名を叫んだ。すると群衆は、二人の戦士の名前を交互に叫び始めた。


「ニクス! ドレイク! ニクス! ドレイク!」


 群衆からの賛美は帰還兵たちの最後の一人が門の中に入り終わるまで続いた。ゆっくりと城門が閉まり、あと少しで閉まり終えるというところで、隙間を白い影が走り抜けていった。一匹の犬だった。


 足音に気付いて振り返ったドレイクが声をあげる。


「ひろし! 生きていたか!」


 ひろしは両手を広げているドレイクの横を通り過ぎ、ニクスの筋肉に見とれている王都の貴婦人たち目掛けて駆けていった。ひろしが彼女たちに飛び掛かろうとした瞬間、横からヨードが出てきて、その馬鹿犬に蹴りを食らわした。地面に転がってかたわらの用水路に落ちたひろしは、そのまま下流へと流されていった。


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