チート再生能力暗殺者が現代日本に召喚されて青春を謳歌する話

@kinosizu

第1話 チート再生能力者と記憶障害

 あたり一面に赤が広がっていた。片腕を斬られ倒れている者、心臓を一突きにされている者、首すら残っていない者。様々な者が横たわっていた。


「おい、起きろ。モルドレッド」


 抗えない眠気に支配されていたところを無理矢理立たされて起こされる。

自分の名前も、相手が誰なのかもわからない中、自分の左肩からダラダラ流れる赤い液体をずっと見つめていた。手の中でかさかさとした紙の感触がする。


 目の前の男がしびれを切らしたようにオレを壁に押し付ける。ドン、と大きな音がなり意識が少し覚醒した。


「ようやくこちらを見たな。意識は覚醒したか?」

「まったく、機密保持とはいえこの記憶障害はめんどくせえな、また忘れてやがるのか」


 男はそんなことを言って、ため息を吐く。そして、俺の手の中にある紙の束を指さして言った。


「いいか、今から重要な話をする。メモを取っておけ」


 ぼやけた視界の中、その男の声がぐるぐると回る。メモ。これに書く必要がある、か。


「いいか。お前の名前はモルドレッド。職業は暗殺者。お前は殺しをするために暗殺組織白夜から雇われている。暗殺ってのは簡単に言えば命令され、指定された人間を殺すことだ」

「ちょっと待ってくれ、話が早い」

「こっちは数十回やらされてんだよ。いいからメモを取れ」

「びゃくやはどう書く?」

「こうだよバカ」


 俺からペンを奪い書いてくれるあたり、イライラしてはいるが根はいい男なのだろう、彼はいかつい顔に似合わず丁寧な字で『白夜』と書いた。そして、俺にペンを返した男は話を続ける。


「お前の再生能力は尋常じゃなく高い。心臓をついたくらいじゃ死なねえし、毒や銃弾もききやしねえ。だが致命的な欠陥がある。記憶が一週間も持たないことだ」


 なるほど。だからこそのこのメモで、この状況。ということか。男はオレがメモをしたのを確認し、「忘れたらこのメモを見ろ。最低限は思い出せるはずだ。と、メモはここまででいい。この記憶障害が能力の欠陥なのか、上が仕組んだことなのかは知らん。聞いたら俺の首が飛ぶかもしれんな」と笑った。気づくとあれだけダラダラ流れていた赤い液体は止まり、それまでになかった左腕が現れていた。これが彼のいう回復能力ということなのだろう。そして暗殺者をする上でこの上なく便利だな、と考えた。


『――せよ、』


 頭の中に声が響いた。目の前にいる男の声ではなく、女性の声だ。この声について男に尋ねようとした瞬間。地面が赤色に光輝いた。


『顕現せよ、能力者よ――!!』


 割れる空、光る地面、地鳴りのような音と揺れ。焦ったような目の前の男の声。こちらにのばされた手をつかむ前に、赤く輝く地面に飲み込まれた。


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