第12話 嫌いだけど…そうもいっていられないし

 どうしてこんなことになるんだろ……。


 東浩乃あずま/ひろのは絶望を感じていた。


 嫌な奴と二人っきりで、密室空間に閉じ込められているからだ。


 逃れられない状況に、頭を抱えてしまう始末。


 浩乃は今、テーマパークのゴーストエリアの建物内にいる。


 辺りはある程度明るい。

 それが唯一の希望である。


 現状、鍵がかけられており、自由に外には出られないのだ。




「ちょっと、どういうことなの?」

「そんな事、俺に言われてもわからないから」


 浩乃は、西野奈月にしの/なつきに言った。


 浩乃も不満が爆発しそうである。

 でも、ここはグッと感情を抑えることにした。


「というか、あんたが、ついてこなければよかったじゃない」

「でも、しょうがないだろ。一人にさせるなんてできないし……」

「な、なんでよ……そ、そういうの求めていないし……」


 浩乃の発言に、奈月は少し頬を紅潮させていた。


「……」


 浩乃は何かを話そうとしたが、これ以上何も口にしないことにした。


 彼女は元々、怖がりなのだ。


 それを浩乃は知っている。


 でも、そんなことを言っても、彼女は反発するだろう。


 奈月は恥ずかしいところを見せたくない奴なのだ。


 こんな密室な空間で、さらに関係性を崩したくない。

 そういった理由も相まって、突っ込んだ言い方をしなかったのである。




「な、なによ。こ、こっちみるなし」

「別に見ていないから」


 浩乃も、本心を隠すように返答した。


 二人は薄暗い空間で、背中を向け合い、反発しあう。


 水と油のように――






「私、こっちの方を探るから。だから、あんたは別の方に行きなさい」

「それでいいの?」

「ど、どういう意味よ……」


 背を向けあっているが、奈月の震えた声が聞こえてくる。


 それが心に響くのだ。


「なんでもないけど。別に何もないならいいけどさ」

「別に、あんたから……心配されたくないし……」


 奈月は何かを求めている。

 そんな思いが、背を向けあっている今、体に伝ってくるようだった。


 浩乃は口元をグッと閉めたのだ。




「じゃあ、私の後ろをついてこないでよ。こんな密室で、あんたと時間を共有なんてしたくないし」

「俺だって」


 浩乃はそっけなく答えた。


 二人は薄暗い密室空間で、別れたのである。


 次第に距離感が広がっていく。






 あるとしたら、ここらへんかな?


 浩乃は一人で、密室空間の端っこに到達していた。


 鍵のかかった部屋。

 いくら、謎が多い場所と言えども、どこかにヒントはあるはずだ。


 浩乃はひたすら、辺りを見渡す。


 多分、鍵のようなものがあるはずだと、自身の心にひたすら言い続けていたのだ。




 今、部長の言葉を思い返す。


 周りを観察しなさいという教え。


 普段なら、部長の世話になってばかりだが、今は、その部長がいないのだ。


 部長から教わったやり方を振り返り、浩乃は瞼を閉じるのだった。


 ひとまず、感情をリセットしようと思う。


 幼馴染の件も相まって、感情が乱れているのだ。

 悪い意味でである。


「……よし、これで」


 浩乃はパッと瞼を見開き、再度、薄暗い空間を見渡したのだった。






 これで気分が入れ替わったはずだ。


 先ほどわかったことだが、ここの部屋の扉は鍵で開けるタイプだった。


 扉を閉めると、勝手に施錠されるシステムだったようだ。


 ゴーストタウンエリアという場所に、初めて足を踏み込んだこともあり、わからないことだらけである。


 けど、推測するに、鍵を使って施錠を解除するのが正解だろう。


 もし、鍵があるのだとしたら……。


 床の下?

 それとも、壁?


 いや、鍵でないかもしれない。


 扉に鍵穴があったからと言って、鍵で開けるというのは嘘である可能性だってある。


 鍵以外だとすれば……。


 浩乃は腕組をして悩む。


 しかしながら、部長奈美の推理力を持ち合わせていない浩乃では全然、思いつかなかったのだ。


 ひとまず、もう少し足を使って探ってみるか。


 そう思い、歩いて、床下の感触を足の裏で感じることにした。






「きゃッ」


 刹那、遠くの方から、幼馴染の悲鳴が聞こえた。


「⁉」


 浩乃はドキッとした。

 暗闇から聞こえてくる幼馴染の声に、背筋が凍りそうになったのだ。


 そこらへんに幼馴染がいることはわかっているが、薄暗い空間だと何かと、些細な音でも怖く感じるもの。


「ど、どうした……」


 浩乃は咄嗟に声が出る。

 幼馴染のことは好きじゃない。

 でも、彼女が困っているなら、不思議と心配したくなってくるのだ。




「いいから、私のことは気にしなくてもいいから」


 辛そうな返答があった。

 声が小さい。


「でも……」

「いいから……」


 奈月は拒否している。


 彼女から遠慮されてはいるが、この暗闇を掻き分けるように、浩乃は彼女の元へと歩み寄っていくのだった。




 現地に行くと、薄っすらとと奈月の姿が鮮明になってくる。


 彼女は床にしゃがみこんでいた。




「どうした?」

「だから……」

「もしかして、ケガをしてるとか?」

「……」


 床に座り込む態勢になった奈月は、足元を抑えていた。


「だったら、早くこの場所から出ないと」


 気が付けば、浩乃は幼馴染へと意識を集中させていた。


「早くしないと、ケガが治りづらくなると思うし。ちょっと待って」

「私のことなんて、心配しなくてもいいのに……」


 彼女はボソッと口にしていた、


 が、浩乃は幼馴染との視線を合わせるように、しゃがみこんだ。


「な、なによ……私の事、じろじろ見て……私は一人でもできるから」


 奈月はそう言っているが。

 幼馴染が、そう言う時は、絶対に困っている時である。




 そんな中、ふと脳裏をよぎることがあった。

 それは、数字である。


 このビンゴゲームは、パンフレットの数字によって管理されているのだ。


 浩乃はスマホを片手に、このテーマパークの公式サイトを開いた。


 そうか。

 もしかしたら、そうかも。


 何かがわかった。


 ここのゴーストタウンの建物番号と同時に、この密室から脱出方法が閃いたのだ。




 エリア番号や建物番号が関係しているなら、真相にたどり着けるかもしれない。


 公式サイトをまじまじと見、思考する。


「わかった。ここから脱出できるから。奈月、立てる?」

「うん……」


 辛そうな声を出す幼馴染を立たせてあげると、浩乃は行動に移すのだった。

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