お泊まり③

「いやぁ美味しかったーお兄さんが手際よすぎてオレなにもしませんでしたよー」


 オムライスを食べ終えた匠海がお腹をさすりながらこのオムライス作りで1番貢献したであろう勇に向かって称賛の声を上げる。

 口だけは「ありがとうございます」と冷静を装っている勇だけど、どうやら満更ではないようでわかりやすく口元がニヤついていた。

 そんな2人をよそに、ワタシは別の意味で口元が緩んでいる勇の彼女に目を向ける。


「美味しいでしょ。勇のご飯」


 オムライスを口にしてあまりにも幸せそうな顔を見せる星澤さんにワタシも頬を緩めながらそう問いかける。

 その瞬間ピクッと一瞬動きを止め、少しすると顔からは微笑みが消えて無表情でオムライスを口に運び始める。

『素直じゃないな〜』なんて思いながらワタシは食べ終えている3人分の食器を持って流し台へと移動する。


「この後どうする?せっかくのお泊りだし徹夜でもしちゃう?」

「俺は疲れたから先に寝るよ」

「私も先に寝させてもらいます」


 2人して寝ると言われてしまったワタシは呆けた顔を浮かべて固まってしまう。


 勇と星澤さんはカップル、そして男女。そしてそして今は夜でお風呂にも入っている……ということは!?


 勇と星澤さんの発言ですべてを察したワタシは固まった表情を先程よりも更に頬を緩めて一応忠告をする。


「ワタシと匠海もいるからできるだけ騒がしくしないでね」


 すると勇が怪訝な顔でワタシに言葉を返してくる。


「はい?」


 どうやら理解していないのは勇だけではなく、オムライスを食べている途中の星澤さんまでもが怪訝な顔を浮かべる。


「そんなとぼけなくてもいいんだよー?ゴムはワタシの部屋の棚上においてあるから好きにとって使ってね〜」


 そこまでワタシが言うとやっと気づいてくれたのか、隠していてもわかるぐらいにみるみるうちに2人して顔が赤らみ、口を揃えて、


「「しないから!!」」


 と、ワタシを睨みながら叫んでくる。


 え?実は勇と星澤さんはお互いの素顔のことを知っててワタシと匠海に嫌いと言って隠そうとしたけど、やっぱりお風呂上がりの恋人を目の当たりにしてしまった2人はそういう気持ちが芽生えて弟と妹がいる前でも声を押さえれば大丈夫かと言う決断に至った末、勇の寝るという合図で部屋に行こうとしてたんじゃないの!?


 そんな考察は全て外れてしまい、素でお互いのことを嫌っているということを再確認したワタシ。

 すると溜息を吐きながら勇が口を開く。


「俺は匠海くんと寝るから千咲は星澤さんと寝てくれ」


 勇の本当に一緒に寝たくないという意思が伝わってきたワタシは少ししょんぼりとしながらも頷く。


 これは……あれをやるしかないか……。

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