お泊まり

  ♤ ♤



「本当に髪乾かさなくていいの?」

「はい。あの男だけには私の素顔をバラしたくないので」


 リビングで濡らしたままの髪をクシャクシャにし、顔が見られないように深く俯いている星澤さん。

 丁寧に胸にサラシを巻き直し、胸の強調を抑えている。


 ……せめて1回ぐらいもませてもらえばよかった!


 心の中で悔しい気持ちを噛み締めていると、ちょうどお風呂から上がってきた俯いている勇と満足げな匠海がリビングに戻ってくる。


「さっぱりした?」


 匠海にそう声をかけると、笑顔でこちらを見つめながら口を開く。


「お陰様でねー。お兄さんとも面白い話できたし超満足だわー」

「そりゃよかったよかった」


 この満足そうな匠海を見てワタシは「匠海も脅しに成功したな?」と感じ取る。

 そして2人がソファーに座るのを確認したワタシはドリームまちで考えた提案を口にする。


「3人に提案があるんだけどさ。せっかくだし今日泊まって行く?」

「「は?」」


 勇と星澤さんはいきなりのワタシの提案に腰が抜けたような声を出し、隠しているはずの顔を上げてワタシの目を見てくる。


 匠海にはこの事を言ってるから特に反応はなかったけど、2人のこの反応は本当に面白い。行動のすべてが一緒すぎて見てる側はニヤけそうになってしまうよ。


 釣り上がりそうになった口角をなんとか堪えていると、顔を上げたままの勇が言葉を発する。


「明日は平日だし流石に駄目だろ」


 すっかり素の口調に戻っている勇に苦笑を浮かべながらも呆れ混じりの溜息を吐く。


「ゴールデンウィークだから明日は休み」

「あっ……」


 本当に知らなかったのか、勇は気の抜けた声を口から出して俯いてしまう。

 すると次は星澤さんがワタシの提案に逆らってくる。


「お泊りは流石に迷惑ですから帰りますよ!」


 ワタシの顔を見ながら首をふるふると横に振る星澤さんに微笑みを向けながら優しい言葉を返す。


「迷惑じゃないよ」


 匠海と勇に聞こえるようにそう言った後、ワタシは星澤さんにだけ聞こえる声量で、


「一応聞くけどお風呂のことは忘れてないよね?」


 微笑みを貫きながら脅しの言葉を口にする。

 すると顔を青ざめ、星澤さんは俯きながら小さく頷く。

 そしてワタシはもう1度2人に提案について問いかける。


「よかったら家に泊まっていく?」


 脅しの前ではなにも否定することができなくなった勇と星澤さんは小さく頷きながら「「はい……」」と応える。

 俯いている2人に見えないよう天井を見上げながらワタシは口元を手で覆ってしまう。


 や、やばい……この2人ほんっっっっと面白い!


 心の中でそう叫びながらもなんとか笑いは押さえてキッチンの方に向かったワタシは3人に声をかける。


「早速だけど夕飯作ろっか。なにがいい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る