作戦実行①

  ♧ ♧



「そういうことだからよろしく!」

「ちょっと無理がある気がするんだけど……」

「大丈夫だって。ワタシ、天才だからさ」

「聡善さんもナルシストなのかよ……」


 聡善さんが顎に手を当ててドヤ顔をするのを苦笑を浮かべながら見ていると、ポテトを食べ終えた姉ちゃんとお兄さんが席を立ち上がる。

 時刻は15時30分という微妙な時間だが、多分あの2人ならそろそろ解散するだろう。

 だけど今回は強引に解散を防がせてもらうよ。


「じゃあそろそろ行こうか、

「了解、


 オレ達は被っていた帽子をとり、つけていたマスクを外し、席を立ち上がって姉ちゃん達の方へと向かう。


 ……本当にこんな作戦で行けるのか?


 心に不安を秘めながらもオレは聡善さんの半歩後ろを歩く。


「あれ?勇じゃん」


 極自然風に、たまたま出会ったかのように振る舞う聡善さんは一瞬だが本物の女優に見えてしまった。

 共犯者であるオレもが勘違いしそうになる完璧な演技に素直に拍手を送りそうになってしまうが、そんなオレをよそにお兄さんが戸惑いながらも言葉を発する。


「な、なんでここに?」

「いや〜こいつと買い物に来ててさ〜」


 そう言いながら聡善さんはオレの背中を叩いてくる。

 それを合図にオレは聡善さんの前に立って口を開く。


「はじめましてお兄さん」


 軽くお辞儀をしながらオレはお兄さんの横でソワソワとしている姉さんに顔を向けて微笑む。


「姉さんに彼氏いたって本当だったんだなー」

「だ、だからそういったじゃん……」


 オレ達と合うのが相当気まずかったのか、それとも恋人の前だからなのか……2人は全く口を開かなくなってしまう。

 だけど聡善さんはそんなのはお構いなしにグイグイと2人に距離を詰めていく。


「ねぇねぇせっかくだし四人で一緒に行動しないー?ワタシ達の方も買い物終わったしさー」

「いや……でもそれは星澤さん達に迷惑がかかると思うけど……」


 お兄さんはオレと姉ちゃんのことを心配してくれているのか、何度かこちらを見ながらオレの言葉を待つ。


「オレは別にいいっすよ?千咲と2人だけってのも飽きましたし」

「ちょっとーそれはひどくないー?ワタシそんなに面白くなかったー?」

「いつも学校でも一緒にいるじゃん。たまには2人きりじゃないほうが新鮮味もあんじゃん?」

「おー匠海のくせにいいこと言うじゃんー」

「なんだよそれ」


 オレと聡善さんは笑い合いながら先程の作戦会議で作り出した架空のオレ達の話を繰り広げる。

 運がいいことに、オレ達は中学が同じらしい。一回もクラスは一緒になったことはないが、同じ学校というのは活かしやすくて助かる。

 オレと聡善さんの関係は男女の親友という立場、そしてよく遊んでいるという設定にしてある。更に詳しく言うと趣味がメイクということで意気投合してそれ以来仲良くしているっていう感じだ。


 まぁこれ提案したのは聡善さんなんだけどね。てかすべて聡善さんなんだけど。


 するとお兄さんと姉さんはほんの一瞬だけ顔を合わせたあと、オレ達の方に向き直り、口を揃えて言葉を発する。


「「わかった……」」


「ほんと相性がいいな」と心の中で思いながらもオレは拳を握ってわざとらしくガッツポーズをする。

 そんなオレに聡善さんは笑いながらガッツポーズを見つめてくる。


「そんなに嬉しかったの?」

「いやぁ千咲のお兄さんのこと気になってたからさー。よく学校で話してたじゃんー?」

「あーたしかにねー。それを言うとワタシもお姉さん気になってたんだよねー」


 なぜこんな会話をしているかと言うと、姉さんたちにはオレと聡善さんの仲の良さを示しておかないとこのあと困ってしまうからだ。


 オレ達はそんな会話をしながら聡善さんは姉さんの顔を、そしてオレはお兄さんの顔をじっと見つめる。

 そしてニコッと微笑み言葉をかける。


「それじゃあそろそろ行きますか」

「そうだねーお姉さんワタシといっぱい話しましょー」

「え、あ、はい」


 姉さんの反応を最後にオレ達はゲームセンターの方向に──前女子2人、後ろに男子2人という形で──歩き始める。

 その間の会話は極普通の日常会話、でも姉さんと聡善さんはこの前会っていたようですごい話が盛り上がっていた。いや、聡善さんが強引に話を広げているだけか。


とりあえず、これで第1関門は突破だな。

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